第146話 学生は行動制限がキツイ

「……バラキエル、ミカエルたちと戦ってどうやって生き残った?」

『ほぉ……ルシファー、君はそんなことを聞けるまで成長したんだな』


 これが成長ってどんな頭してたんだよ、昔のルシファーは。


『生き残った方法か。確かに、ルシファーの言いたいことはわからないでもない。それだけ、当時の七大天族は圧倒的な強さを持っていた……今もそれは変わらないはずだが』


 まぁ、確かに七大天族と呼ばれていた天族の魂を持つグリモアは、どれも強力なものばかりだ。そして、それと同格と言われていたサンダルフォンやルシファーも、同様に凡百のグリモアとは一線を画す力を持っている。


『アザゼル、シェムハザ、コカビエルなどと共にミカエルと敵対した私たちは、人間と接触して多様な知識を授けた。そうすることで、人間たちが私たちと共にミカエルと戦ってくれるのではないかと考えていたんだが……』

「上手くいかなかっただろう? 人間はそんな賢い生き物ではないからな」

『そんな所は天族も変わりはしない。私たちは、人間たちに必要なくなった瞬間に力を持つ別種族として爪弾きにされた。そして……ミカエルたちに後ろから刺された』

「……それ、ミカエルが先導したとかじゃないの?」

『さぁな……今更、あの戦争の話を蒸し返すつもりもなければ、そんな小さなことでミカエルに対してどうこう言うつもりはない……


 あー……バラキエルは別に今更って考えだけど、他の敵対した天族はどう思っているのか知らないよってことね。


『もし、コカビエルに出会うことがあったら気を付けることだ。彼はミカエルたちを本当に心の底から憎んでいた。私やシェムハザは意見の対立で致し方なく敵対してしまったが、コカビエルだけは違う』


 全員がバラキエルみたいに割り切れる訳じゃないってことだ。自分の命を奪われたようなものなんだから、当たり前と言えば当たり前だけども……心底、面倒なことを残してくれたものだ。

 俺がこれからのことを考えて溜息を吐いていると、父さんがまじまじと雷で構成された人型のバラキエルを見つめていた。


「自分のグリモアがこんな話し方をするなんて思わなかったな」

『ミスラ、君が裁きの雷光に対してどういう想像を抱いていたのか知らないが、期待外れだったかな?』

「いや、そんなことはない。バラキエルには何度も命を救ってもらった恩があるからな」

『そうか。なら、もう少し自分の身体を労わることだな……それと、最近は全く力を使っていないようだから、鈍るぞ』


 それは俺も思う。父さんの横に立っているヨベルさんも頷いているから、やっぱりある程度は外に出て実技の訓練でもした方がいいんじゃないか?


「しかしなぁ……セルゲイ総長は逆に外に出すぎてる訳だし」

「そりゃあ、あの人は完全に脳筋って感じじゃん」

「お前、失礼だなぁ……あれでも、ドラゴンハートの勲章を貰っている凄い人なんだぞ?」


 いや、それは単純に凄いと思うけど、総長がすぐ外に出たがって副総長がずっと引きこもりって……もっとバランスを持った方がいいと思うぞ?


『使わなければ劣化することはないが……私を使っておいて不甲斐ないことをしたら私が殺す』

「こっわ」


 殺害宣言だけしてバラキエルは姿を消した。父さんはちょっと悩んだ様子を見せながらも、ちょっと身体動かした方がいいかなみたいなことを言っているが……副総長なんだからもっと後輩の指導とかしたら?





「はぁ……アクラレン半島かぁ」

『どうした? なんの問題がある?』

「遠いんだよなぁ」


 俺、これでも学生なんだよ。1日ぐらい授業をサボったって特に何も感じないけど、流石に複数日連続でサボると、教師にも怒られるし成績にも響くからなぁ……あんまり遠い場所に行きたくないってのはある。そこら辺の制約がなかったら、多分とっくの昔に西側諸国に密入国してると思うもん。


「リエスター師団長は見つからないし」


 話の流れで、父さんに残りの七大天族の力を持った人を知らないかと聞いても、ラグエルとラファエルと手がかりは見つからなかった。加えて、レミエルの力を持ったリエスター第3師団長がどこで仕事してるのかも聞いたが、基本的に師団長の動き全てを把握している訳じゃないから知らないと言われてしまった。それでも、父さんは元第3師団長だからなのか、仕事しているならしばらくすると戻ってくるだろうと言っていた。まぁ、第3師団はクロノス魔法騎士学園を中心に動く師団だから、離れる期間は長くないって判断だろうな。


 とぼとぼと夕陽に照らされながらクロノス魔法騎士学園に向かって歩いていると、こちらに向かって炎と雷が飛んできた。

 魔力が飛んできたことは事前にわかっていたので、普通にひょいっと避けてからそっちに視線を向けたら、ニーナとエリッサ姫が物凄い勢いで戦っていた。


「……なにしてんの?」

「自分の中にあるグリモアを呼び覚ますとか言って、エリッサ様がニーナと戦ってる。ニーナの方も、威風の劫火ウリエルを使いこなしたいってな」


 俺の疑問の独り言にアッシュが答えてくれた。アッシュの身体も煤だらけになっているので、多分あの2人に付き合ってやっていたんだろうな。アッシュの戦闘スタイルから考えると、ド派手な炎をまき散らす今のニーナはあんまり相性が良い相手とは言えないだろうに、よく付き合うな。


「手がかりが掴めたって顔ではなさそうだが?」

「いや、有力な情報を手に入ったよ。手に入ったけど……場所が遠くてさ」

「そうか。俺は、とにかく自分の力をなんとかしたくて仕方がないんだがな」


 うん……だから最近は、アッシュとはあんまり深く関わってないんだよね。

 ニーナがグリモアを手に入れたことで、アッシュは自分だけが置いて行かれていると思って鬼気迫る感じで無茶なことを繰り返しているみたいだから、下手に刺激するのは駄目かなと思って。


「ルシファー」

『前にも言ったが、わからん』


 アッシュが離れたタイミングで、俺はルシファーに対して問いかけようとしたら、言う前に否定された。


「わからないことなんてあるのか?」

『何人か心当たりはある。私が魂を見ることができない……つまり、秘匿に関する力を持った存在であることは間違いない』


 ルシファーは、ニーナには全く有力な天族が宿っていなかったことを知っていたが、アッシュに関しては全く言及してこなかった。その理由は、ルシファーですらも見ることができない魂を持っているから。俺はそれを初めて聞いた時に、もしかしてアッシュも別の世界から、なんて思ったが……どうやらそうではなく、秘匿の力を持つ天族の魂を受け継いでいるではないかと言うのだ。


「最有力は?」

『月の支配者、オファニエル……あそこでウリエルと戦っている小娘の中に宿る太陽の力を持つガルガリエルと対を為す天族だ』


 それ、殆ど答えじゃないの?

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