第144話 次の手がかり

 ヨベル・マクレランドと名乗った魔法騎士は、倒れている強盗を他の魔法騎士に任せて俺に付き合ってくれることになった。


「良かったんですか? 職務中では?」

「問題ないさ。こうして街を歩いていれば、警備をしているって名目もできるし、実際に何か問題が起きれば君を放ってそちらに向かえばいい」


 へー……王都の中心で仕事をしている魔法騎士って基本的には第1師団に所属している人だから、みんな頭の固い人たちばかりだと思っていたんだけど、副総長の部下だからなのか結構柔軟な考え方をしているんだな。


「それで? 君は僕に何の用があってきたのかな?」

「いや……その、凄く言い辛いと言うか」

「ん?」


 流石に、かなり不自然な接触の仕方をしたので俺が何かしらの目的ありきで近づいてきたことはバレているらしい。しかし自分の力に自信があるのか、それとも副総長の息子である俺のことを信用しているのか……警戒しているような様子は見られない。

 ここは、単刀直入に言ってみるべきか。どうやれば、貴方のグリモアは天族という種族が人間と同化して生まれたものであり、その天族には意識があるかもしれないので話させてくださいなんて説明するんだよ。いくら俺がミスラ副総長の息子だからって、そんなこと言ったら確実に不審者扱いされて逮捕されちゃうわ。


『悩む必要はない。そのまま聞けばいい』

「い、今の声は?」

「えっ!? あ、いやぁ……」


 何してくれてんだルシファーめ。


『問答など時間の無駄なことだ。どうせ終末に関しては上司から聞いているのだから、それについて関係のある話だと直球で言えばいい』

「人間には色々とあるんだよ!」

「……詳しく、聞かせてくれないか?」


 あぁ……もう職務質問の典型みたいな言葉が飛んできちゃったよ。



「……普通に聞くと荒唐無稽な感じはするけど、確かにミスラ副総長から終末と呼ばれる存在がいて、総長と共にそれに対抗しようって話は出ているとは聞いていた。けど、まさか君がそんなことをしているなんて思っていなかった」

「で、ですよね」


 そりゃあ、俺は魔法騎士団副総長の息子かもしれないけど、それ以外はただの学生な訳だから、ヨベルさんが驚くのも無理はない。けど、俺の中にはルシファーが宿ってしまったから……動かない訳にはいかない。


「それで、僕のグリモア……光輝の弓シャムシエルの力を感知してやってきたんだね?」

「そう、です……そこら辺は俺の中のルシファーの話なんで、俺もよくわかってないですけど」

『光輝の天族、シャムシエルならばアザゼルの行方を知っているかもしれないと思ってな。しかし……シャムシエルには意識が残っていても、七大天族共とは違って目覚めてはいなさそうだな』


 逆に、魂として何度も転生しながらも意識を残して普通に目覚めている七大天族が異常なだけでは?


「僕の中にある光輝の弓シャムシエルが役に立てなかったのかな?」

「いや、役に立てなかったと言うか……そもそも、話を聞けなかったと言うか」

「そうか……なら、僕が知っているグリモアの持ち主に話を聞いてみたらどうかな? あんまり他人にグリモアのことを喋るのは良くないことなんだけど、終末に関する話なら頷いてくれると思うからさ」


 それはありがたいな……学園内にグリモアを持っている人なんて限られているから、探すのは苦労するんだよな。でも、魔法騎士団の中だったらグリモアを持っている人もそれなりにいるはずなので、そっちから見つかると嬉しい。アザゼルが見つからなくても、ラグエルとラファエルが見つかればいい訳だからな。


「そうだな……まず、君のお父さんであるミスラ副総長には聞いたのかい?」

「……え?」


 そもそも、父さんがグリモアを持っている人かどうかすら知らないんだけど。


「その様子だと知らないみたいだね。ミスラ副総長は魔法騎士の腕だけで副総長にまでなった傑物で、当然ながらグリモアを持っているよ。名前は確か……裁きの雷光バラキエルだったかな?」

『バラキエル、だと?』


 おっと? バラキエルって確か、ミカエルと敵対した天族たちの中心人物の1人だったよな? と言うことは、もしかしたらシャムシエル以上にアザゼルの行き先を知っているかもしれないってことか。灯台下暗しとはちょっと違うかもしれないけど、まさか身近な人物にカギになるかもしれない人間がいるとは。

 これは、父さんに会って確かめてみないとな。ついでに、総長とかの有力人物にも会って、彼らのグリモアをルシファーに探ってもらおう。


「ありがとうございます。これで前に進めそうです」

「いやいや……それにしても、君は強いね」

「はい?」


 いきなりどうした。


「見ればわかるよ……君は、戦えば間違いなく僕より強い。見ただけで僕が理解できてしまうほどに強い力を持っている。だからこそ……君のことが少し憐れに感じてしまった」

「憐れに……」


 なんで、力が強いと憐れに思われるのだろうか。


「きっと君は、そうして力を振るうことに何の疑問も抱いていない。それは力を持つ者としては正しいのかもしれないが……君のような子供がそうして責任を求めて戦っている姿は、なんだから悲しく感じてしまってね」

「でも、子供だからと全ての責任を大人に背負わせるのも違うと思うので」

「そうかもしれないね。ただ、僕が甘いだけかもしれない」


 うむ……でも、確かに異世界から転生してきた大人として俺として考えると、子供が世界の命運をかけて戦うのは些か重すぎるとは思う。俺は自分のことをそもそも子供として定義していなかったから気が付かなかったけど、確かにエリクシラやアイビー、エレミヤだって子供な訳だから……貴族だからと責任ばかり背負う必要はないのかもしれない。

 子供が責任を負う世界は正しいのか……その答えは知らないが、少なくとも俺は自分のやったことの責任は他人に丸投げしたくないし、俺が行動することで世界が守れるのならば行動するべきだと思っている。あくまでも俺の考えでしかないけども。


「ちょっと失礼なことを言ってしまったね。きちんと世界に向き合おうとしている若者に、言うことじゃなかったかな」

「若者って……貴方も相当若く見えますが?」

「お世辞かな? 僕はもうおっさんだよ……35だし」

「え」


 普通に爽やかなイケメンって感じだったから、20後半だと思ってたぞ。

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