第142話 天族との共闘

 さて、ここまで俺はガブリエル、ミカエル、サリエル、ウリエルと出会ってきて、全員から前向きな返事を貰って順調だった訳だが……あれから数日が経ってもリエスター師団長が捉まらない。まぁ、師団長だから忙しいってのもあると思って、残りのラグエルとラファエルのことも探しているんだけど……そっちもなんの成果もない。ならばと、東の海にいる海獣をなんとかしようと魔族フォルネウスの子孫であるゲルズ族や、ミカエルの言っていたアザゼルを探そうと思ったのだが、そちらも上手くいかず。完全に手詰まり状態である。


「ゲルズ族なんて知らないわよ」

「えー……同じ魔族なんだから知ってるもんじゃないの?」

「アンタねぇ……逆に、人間は細かい部族まで全部把握してるの? してないでしょ? それと一緒よ」


 確かに、そう言われるとなんも返せないな。俺だって世界中のあらゆる部族の名前を知っている訳じゃないし、なにより下手すると滅んでいるかもしれないのだから……わかる訳がないか。過去に滅んだ全ての部族も含めてあらゆる人間の名前を答えろなんて言われてわかる訳がないな。


「っ! 休憩は終わりだ!」

「あ、もういいの?」

「今はとにかく、努力したい!」


 地面に転がっていたニーナが素早く起き上がったので、俺も立ち上がって尻についた小さな草を払う。

 ヴァネッサと喋っていたのは、ニーナとの修行中にニーナがぶっ倒れたので暇な時間を埋めるために会話していただけに過ぎない。


「もう少し休憩した方がいいと思いますけど」

「いや、私がやりたいと言っているんだ。やらせてくれ」


 横で見ていたエリクシラが止めようとしてくれたが、ニーナは双剣を手にしながらしっかりと立ち上がった。現在、俺たちは学園の外の平原で向かい合っている。本当ならいつも通り屋外訓練場とかでやりたかったんだけど、今回の修行……と言うか力の慣らしには人目が気になりすぎるから。


「よし、もう一度やるぞウリエルっ!」

『応!』

「ルシファー」

『ふ』


 俺たちがやっていること、それは人間と天族が力を合わせて限界以上の力を引き出そうってお試しだ。流石に、学園内で天族について色々と見られるのは不味いと思ったので外でやっているのだが、まだグリモアを手に入れたばかりのニーナはウリエルが無理やり動かしていた時と同じように出力が安定していないので長引いている。

 ニーナのグリモアとなった威風の劫火ウリエル自体は、安定した出力で出せているのだが、どうも天族であるウリエルが力を貸すと息が合っていないのか出力がブレる。


「それにしても、テオドールさんは随分とルシファーとやらと仲がいいんですね」

『信じられないな。あの女と息を合わせられる人間がいるなんて』

『同感ね。私からすれば、あの人間も危ない奴に見えるわ』

「……ガブリエルが言うことじゃない」

『は?』


 俺とニーナの殴り合いによる慣らしを観察しているアイビーとヒラルダ、そして彼女たちのグリモアであるサリエルとガブリエル。アイビーとサリエルは互いを尊重し合っている感じなので簡単に力が同調しているし、ヒラルダとガブリエルも喧嘩している感じを出しながらも戦闘って部分に特化すると仲がよく見える。

 ミカエルを持つエレミヤは、そんな俺たちを眺めながら何も喋ることなくニコニコしているのだが、ミカエル共に胡散臭い感じなのが駄目だろ。


「……これで、グリモアが使えないのは俺だけか」

「私も使えないですよ?」

「いや、エリッサ様はそもそもエリクシラ派閥じゃないので」

「そのエリクシラ派閥って言い方やめませんか?」


 なんとなくグリモアが使えないことに落ち込んでいるアッシュと、何故か派閥でもないのに一緒にいるエリッサ姫がエリクシラと一緒に座っている。派閥じゃないって言ったら、そもそもヒラルダとエレミヤも派閥ではないんだけどな。


「はぁっ!」

『とぉっ!』

「全然駄目」


 掛け声を出しながら2人で同調しようとしているようだが、ウリエルの力が強すぎるのか、それとも単純にまだニーナの身体に適応しきっていないのか……全身から放たれる炎は蠟燭みたいな強さになっている。

 俺の背中に展開されている全能の光ルシフェルが、勝手に動き出す。12枚の翼から光のビームが放たれて、ニーナが勢いよく吹き飛ばされる。


「……もうちょい手加減しない?」

『断る』


 翼が勝手に動いているのは、俺の中のルシファーが動かしているからである。ニーナに力の使い方を学んでもらおうって話で始まっているが、俺もまたルシファーと協力しながら戦う方法を試している最中だったりする。

 俺の第3のグリモアになっている全能の光ルシフェルだが、できることが多すぎて俺も持て余してしまっている所がある。基本的な能力として、空中を歩くことができる能力が存在しているが、それに加えてさっきのように翼から光を放出して攻撃することもできるし、単純に空中を歩くことなく飛行することだって一応はできる。なにより特徴的なのは、翼そのものを手のように扱うことができるという点だ。つまり……俺は手が14本に増えたようなものなので、両手に剣を持った状態で翼から好きな魔法を発動することができる。これがクッソ便利。


「燃えろっ!」


 吹き飛ばされたニーナが戻ってきて炎を放ってきたが、翼で適当に振り払ってしまう。全能の光ルシフェルはルシファーが持っている翼をそのまま再現した形だからなのか知らないが、相当の魔力を込めないと傷をつけることもできないし、単純な硬さも普通の剣では切れないぐらいにはある。つまり、腕であると同時に盾でもある訳だ。

 一気に懐に潜り込んできたニーナの攻撃を翼でいなしながら、翼で叩く。俺は自分の手を使わずにニーナを完封できるぐらいの力が手に入ったって訳だ。勿論、デメリットとして痛覚が存在しているので、仮に引き千切られたら腕が千切られるぐらいの痛みが俺にやってくる。12本も一気に腕を引き千切られたら、多分ショック死するね。

 翼の2枚でニーナの二刀を受け止め、追加の2枚でニーナの身体を殴り、更に2枚の翼で飛んでくる炎を振り払う。


「くそっ!?」

「悪いな」

『ニーナ! 力を合わせろ!』

「はぁぁぁぁっ!」

「……いや、全然ダメじゃん」


 だから、なんでさっきから2人が力を合わせると出力が下がるのさ。

 こりゃあ……時間がかかりそうだな。

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