第141話 威風の劫火
「それで、説明するのが面倒くさいから全部私に投げに来たと」
「そう」
サリエルとやり合った後にいきなりウリエルに襲われた翌日、俺はニーナと共にエレミヤ……ミカエルの元にやってきた。俺が細かい事情を説明すると、ミカエルはすぐにエレミヤの身体から出てきた。
「まさかサリエルと殴り合って、ウリエルと話し合うとは思わなかったよ。そして……久しぶりだね、ウリエル」
『おぉっ! ミカエル! お前は相変わらず胡散臭い感じを出しているな!』
「……君も相変わらずみたいだね」
ウリエルの不躾な言葉にミカエルは表情を凍らせていたが、多分いつものことなんだろうな。
ミカエルにはサリエルと殴り合って、ウリエルを見つけたことしかまだ喋ってない訳だが……ウリエルが後天的にニーナの身体に入り込んだことを言わないとな。
「……頭に響く」
「あはは……確かに、うるさそうな声だね」
ウリエルの声に辟易って感じの表情を見せるニーナに対して、エレミヤは苦笑いを浮かべながらミカエルの方をちらりと見ていた。もしかして……エレミヤも身体の中で喋られるのにまだ慣れていないのかな。確かに、自分の意図しない場所でいきなり喋られるとびっくりするけど……そのうち慣れるから心配しなくていいと思うぞ。少なくとも、俺は慣れてしまったから。
「ミカエル、ウリエルは後天的にニーナの身体に入り込んだ可能性が高いってルシファーが言っていたんだが……天族は全員、人間の魂に同化していたんじゃないのか?」
「後天的に? それは……ウリエルしか事情は知らないだろうね」
『む?』
だよなぁ……ミカエル的には、多分全天族が自分と一緒に人間と同化しているって認識だったと思うんだ。なのに、何故ウリエルだけが後天的に入り込んだのか……言動から考えて、ルシファーのようにずっと生きていたってのは考えにくいよな。
『俺が魂を移動できるだけだぞ?』
「魂を……移動?」
「転生の炎かい?」
『そうだ。転生の炎を使うと、何故か魂からすっぽりと抜け出せることに気が付いてな……初めて抜け出したのは、数百年前のことだな』
転生の炎ってなんだよ。
「ウリエルが炎を操る能力を持っていることは知っていると思うけど、彼はその炎で全てを燃やすことができる。そして、傷ついた自らの肉体を燃やし、自らの肉体を完全に作り直すことで傷を治すことができたんだ。それが、転生の炎」
『魔族のフェニックスと戦った時に、奴がやっていたことを俺なりの形で真似した結果だな!』
『安心してくれ。持ち主が死んだ時しかやってない』
やっぱり肉体焼いてるよね!?
「さて、じゃあこれから私が君を説得するよ」
『説得? なんの話だ?』
「話を聞いてから納得できなかったら、そこの彼と存分に殴り合ってくれ」
おい。
それから、ミカエルは一通りのことをウリエルに説明した。クラディウスが再び現れそうになっていて、俺たちがそれに対抗する為に七大天族を探していること。俺の身体にはルシファーが入り込むことで、疑似的に魂を同化させているような状態であること。そして、俺が魔族と契約を結んでいること。
全ての話をミカエルから知らされたウリエルは、唸りながらも俺に襲い掛かってくることはなかった。
『魔族の在り方も、ルシファーの考え方もそれなりに変わったことはわかった』
「変わったかな?」
『変わっている。俺が何度ルシファーと真正面から戦ったと思っている。ミカエル、お前より俺の方がルシファーのことは理解していると思うぞ』
拳で語り合った仲、というものだろうか。確かに、ウリエルからは他の天族のようにルシファーに対する嫌悪感というのを感じなかった。あるのは、純粋に敵だから倒そうとする意志。そして、ルシファーもウリエルに対してあまり嫌悪感を持っていないようだったので、互いにそこまで悪く思っていないのかなって。
『……わかった! 俺は魔族のことが別に絶滅すればいいと思っているほど嫌いという訳でもないし、そこら辺は時代が違うのだと飲み込もう! そして、クラウディウスが再び現れると言うのならば俺も戦う。奴には返し切れないほどの借りがあるからな!』
熱血で頭が悪そうだが……肝心なところで道を踏み外さないタイプの奴だ。正直、敵に回すと一番厄介で、味方にいると一番頼もしい奴だと思う。
『少女! 名前をなんという?』
「ニーナ……ニーナ・ヴァイオレットだ。ヴァイオレットの姓は自分でつけた」
「そうなの?」
「あぁ……スラム街の孤児だからな」
そうなんだ……でも、
『よし、ニーナ・ヴァイオレット……俺の力を君に貸す! 好きに使ってくれ!』
「好きに使えって言われてもな……テオ、どうすればいいんだ?」
「あー……それはつまり、グリモアのことなんだけど、そこら辺わかってる?」
「なにぃっ!?」
あ、わかってなかった。
うーん……まぁ、細かい説明は今度するとして、これで彼女がずっと願っていたグリモアが生えてきたわけだ。ルシファーの言っていたことが本当なのだとしたら、あのままだと一生使えなかっただろうに、何の幸運かしらないが彼女はウリエルが入り込むことでその力を手に入れた。
「大切なのは自分で想像することだ。グリモアを扱うには想像力が大切だ」
「想像力か……」
グリモアは自身の魂に紐づいた力であるが故に、その力を十全に扱うには魔力的な才能よりも精神的な部分の方が重要になってくる。魔法を扱うのがクソみたいに下手なニーナでも、精神力があるのならば使用することは問題ないと思う。
『俺の力は全てを焼き尽くす炎だ! 正義の炎、使いこなしてみろ!』
「正義なんてあやふやなもの、私はあまり信じていないが……使いこなしてみろと言われてできませんとは言えないなっ!」
ニーナが全身に力を込めた瞬間……熱波と共に全身から炎が噴き出していた。熱い……近くに立っているだけで、肌がピリピリとしてくるほどの熱量を放っているニーナは、自分の身体を眺めてから笑った。
放出される魔力は、ウリエルが身体を使っていた時の最高出力には及ばないが、充分に強力だと言えるほどの熱を発している。
「
これが……ニーナのグリモアか。
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