第134話 東の海

「未来視の魔族……アスタロトの言っていたことを信じたってことは、この時代に七大天族が集結していることは間違いないのか?」

「間違いないね。異常な魂を持った者とは、当時は全く意味が分からなかったが……君のことで間違いない。そして、君の周りにこうして七大天族が集まってきているのだから、アスタロトの未来視は間違っていなかった」


 じゃあ、残りのラグエル、ラファエル、ウリエルも近くにいるってことなのか。


「七大天族を集めるべきだと私は思う。クラディウスがにどこまで対応できるかわからないが……少なくとも、七大天族が全員集まれば多少の抵抗はできる。そして……戦うなら東の孤島がいい」

「東の孤島……多分、そこは人間も魔族も渡れなくなった場所だと思うんだが」

「渡れなくなった? 何故?」


 うーん……ルシファーと会話していた時も思ったが、数千年前にはやはり東の海には海獣が存在しなかったらしい。しかし、今の東の海には全長が数十メートルを超えるような怪物がうようよ泳いでいるので、軍艦を率いて行っても餌にされるか海の藻屑になるかだ。


「東の海には今、大量に海の怪物が生息しているんだ。だから、渡れなくなってしまっていて……僕たちもお手上げ状態さ」

「海の怪物……もしかして、フォルネウスなのかな?」

「フォルネウス?」


 え、もしかして知ってるの?


「魔族の始祖の1体で、エーギル族の始祖だった存在なんだけど……もしかして、今も東の海を守っているのかもしれないね」

「東の海を守るって……何故?」

「フォルネウスは、クラディウスが出現した時に天族と手を結ぶべきだと主張していた魔族で、邪悪な力を持っているクラディウスが海を渡らないように東の海に、自らの眷属である海の怪物を放っていたはずなんだ」


 じゃあ、そのフォルネウスって奴が放った怪物が今の時代にも残っていて、東の海を守る為にずっと通りかかる存在を襲い続けているってことか?


「ただ、フォルネウスが操っているのならば人間や魔族を襲うことなんてないはずだから……フォルネウスは死んでしまったのか、何かしらの理由で今は制御できない状態にいるのかもしれない」

「死んでたら、もう誰も制御できないってことじゃないのか?」

「エーギル族の者が生き残っていたら、もしかしたらグリモアとしてフォルネウスの力を受け継いでいるかもしれない。それが駄目なら……彼に頼るしかなくなってしまうな」

「彼?」


 エーギル族が生き残っていなかったら、そのまま終わりじゃなくてまだ代案があるのか?


「フォルネウスと特別仲が良かった天族がいてね。彼の能力ならば、もしかしたらフォルネウスが召喚した海の怪物を従わせることができるかもしれない」

「その天族の名前は?」

「……アザゼル」


 は? それって、確かミカエルたち七大天族と敵対した天族のトップじゃないか? 普通に考えて、敵対したトップの天族を殺さない訳がないんだから、そんな奴の方が生き残ってないだろ。


「アザゼルは……生きている」

「生きてるって、どうやって? 殺さなかったのか?」

「殺そうと思ったさ。だけど、彼はそんな簡単に殺せるほど甘い天族ではなかった……我々のように人間と魂を同一化させているのかはわからないが、間違いなく彼は生きている。少なくとも、私たちは殺し切ることができなかった」


 マジかよ。情があって殺し切れなかったとかではなく、普通に実力で殺し切れなかったってことか。そうすると……どこかでグリモアとして人間と共に生きている可能性は無きにしも非ずって感じか。ただ、七大天族はアスタロトの予言を聞いてこの時代に転生してきているが、アザゼルはそれをしているかどうかわからないってことだよな。


「それにしても、天族って魔族と絶滅戦争してたんじゃないのか? 思ったより仲がいい奴が多いと言うか……もっとバチバチに殺し合ってたんじゃないのか?」

「殺し合っていたとも。ただ、全員がそう言う訳ではなかったし、戦争と言うのはあくまでも政治の手段に過ぎないことは知っているだろう? 私たち七大天族が天族たちにとって貴族のような立場だったのと同じように、始祖の魔族は向こうにとっても貴族のようなもの……極秘裏に会談の場を設けたりはしたってことさ」


 へー……普通に相手の種族憎しで滅茶苦茶やってた訳じゃないんだな。ただ、人間からしたら、その戦争規模がでかすぎて絶滅の危機に瀕してしまったってだけか。たったそれだけの理由で、世界を終わらせるような竜を作り出すのもどうかと思うけどな。


「勿論、ウリエルのように魔族と和平など断固拒否って天族もいたし、魔族の王であったゼブル族の始祖であるバエルだって、天族と和平なんて断固拒否って感じだったからね」

「知性を持った生物は何をしても一枚岩にはなれないってことか」

「そういうことだね」

「そこに関しては僕らだって同じじゃないかな。はっきり言って、真面目に対処しようとしているのは僕とテオドールぐらいで、後はみんな成り行きじゃないかな?」

「そうかも」


 確かに、エリクシラとかアイビーとか、あんまり終末の竜をなんとかしようぜって話に乗り気って訳じゃないからな。乗り気じゃないって言うか……なんとなく、イメージが付いていないって感じに見えるけどな。エリクシラは、一緒にシンバ王朝遺跡まで行ったからある程度理解は示してくれるけど。

 アッシュやニーナともちゃんと話し合わないとな……そこら辺の考え方を一つにしないと終末の竜を倒すことはできないかもしれない。


「もし、ウリエルが見つかって、魔族がいるからって理由で反対してきたら説得は任せていいのか?」

「あー……ウリエルの場合は、私が言葉で説得するよりも君がそのまま殴り倒した方が早いと思うよ」

「はいはい、どんな奴か大体わかったわ」


 脳筋か、強さ至上主義の頭悪い奴ね。

 俺としても、言葉で相手するよりも殴った方が楽と言えば楽だけど……それやるとお前はなにやってんだみたいな目で周囲から見られるんだよな。俺も脳筋なのかもしれない。


「レミエルとサリエルにはちゃんと話を通しておいてくれ。サリエルはちゃんと話せばわかってくれるし、レミエルは……波長が合うならなんとかなるはずだから」

「おい」

「テオドールはリエスター師団長と仲がいいんだからなんとかなるさ」


 なんだその波長が合うならなんとかなるって。そんでもって、エレミヤは俺のことをなんだと思っているんだ。

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