第133話 未来視の悪魔

「……僕のグリモアが、ここまでしっかりとした人格を持っているなんて想像もしていなかったな」

「そうかい? 私はずっと、エレミヤのことを傍で見ていたんだけどね」

「ならもっと早く、話しかけて欲しかったな……ミカエルとはこう、話が合いそうなんだ」


 確かに、俺から見ても2人は気が合うだろうなって感じではある。似たような性格だってのもあるけど、生き方も2人とも似たような感じだしな……グリモアによって性格が歪められているのか、それともそういう性格だからこういうグリモアが生えてきたのか……どっちが先なのか知らないけど、やっぱり使用者とグリモアの特徴は似通ってくるってことだな。

 ミカエルもエレミヤも、大衆の大義を大切にするタイプだと思う。つまり、大を救って小を切り捨てるような性格をしているってことだ。別にそれが悪いことだとは思わないし、なんなエレミヤのような公爵家当主やミカエルのように天族の長である立場であれば、正しい判断なんだろうが……それによって救えなかった人間のことまで悔いているようなところがあるからな。実際、ミカエルの場合はそのせいでクラディウスが解き放たれたって前例があるから余計に、なんだろうけど。


「ミカエルは普通に昔のことを反省してそうなのに、なんでガブリエルは口が悪かったのか」

「ガブリエルは、昔からそういう性格だからね。彼女は、一見すると大人しそうな見た目をしているし、喋り方も理知的見えるんだけど基本的には激情家なんだよ。私もそこら辺はちょっと怖いなって思うけれど」


 まぁ……普段は穏やかそうに見えて、激情家な面を持っているって言うと、水を操る性質から川を思い起こさせる性格をしているな。雨が降れば簡単に荒れ狂う、みたいな。


「ヒラルダも似たようなものじゃないかな」

「お前、それヒラルダ本人に言ったらぶん殴られるからな」

「あはは、こんなこと本人に言う訳ないだろ?」


 そういうところだぞ。


「さて……君の魂のこととか、色々と雑談したいことはあるけれど……今は本題を優先しようか」

「本題?」


 クラディウスの話が聞けたら、俺は満足なんだけど。

 俺が首を傾げているのを見て、ミカエルは苦笑いを浮かべていた。


「色々と話しておくべきことはあるだろう? たとえば……残りの七大天族とか、そもそも何故、七大天族が今の時代に集結しているのか、とか」

「知ってるのか? ガブリエルは偶然じゃないかって言ってたけど」

「偶然なんかじゃないとも。少なくとも、私は狙ってこの時代に魂を持ってきている。クラディウスが出現すると同時に、異常な魂を持った者が生まれることが、数千年以上前から予言されていたのだから」


 異常な魂を持った者……そこで俺を見つめるってことは、俺のことを言っているのか? そもそも予言されているって……誰が予言したんだよ。


「未来を予言した者が気になるのかい?」

「そりゃあ、そんな能力があるんだったら願ってもないことだろ?」

「君のすぐ近くにいる者だよ……私たちに予言を授けてくれたのは」


 予言を授けてくれた者が、俺の近くにいる?

 そんなグリモアを持った人間、俺の近くにいたことはないんだけどな。普段から俺の近くにいる人間って、エレミヤ、エリクシラ、エリッサ姫、アイビー、アッシュ、ニーナ、ヒラルダぐらいじゃないか?


「私たちに予言を残した者の名前は。未来を視る力を持った魔族だ」

「アスタロト!?」


 アスタロトって言ったら、ゲルズ族の始祖ってルシファーが言ってた……つまり、俺の近くにいる者って、ヴァネッサのことか!?


「君の近くにゲルズ族の魔族がいるのは、運命なのかもしれないし……もしかしたらアスタロトの意志がそうさせているのかもしれない」

「い、いや……そもそも、なんで魔族のアスタロトが天族に対して予言なんか残してるんだよ。それはちょっとおかしくないか?」

「おかしいことはないさ。天族と魔族にだって悪い奴もいれば良い奴もいる……たったそれだけのことさ。アスタロトはね、その未来視の能力で……あらゆる未来を見通して、天族も魔族も人間も生き残る道を探していたんだ」


 天族、魔族、人間が生き残る道……未来が本当に見えていたのだとしたら、アスタロトは未来で天族と魔族が滅びかけ、人間の栄華も見ていたのだろうか。


「彼女はよく、未来と世界の秩序を語っていた。彼女だって、自分の種族である魔族に愛着はあっただろうけど……それよりも世界の秩序を優先したんだ」

「大義を優先して、小を切り捨てたのか」

「そうだね……私は彼女の志を支持していた。他の七大天族はアスタロトと関りを持っていなかったけど……ラファエルやラグエル、レミエルも賛同してくれると思うよ」

「ウリエルとガブリエルとサリエルは?」


 ミカエルは、一瞬迷ったような表情を見せてから……苦笑いと共に口を開いた。


「ウリエルはとにかく魔族は滅ぼすべきって考えの天族だったから、きっと賛同してくれなかったと思う。ガブリエルは、会ったならわかっていると思うけど……結構頑固だろう?」

「確かに」

「そしてサリエルは……彼は誰よりも天族同胞を愛していたから、きっと反対したと思うよ。彼なら、天族がこの先も生き残る道を探すべきだって、ね」


 武闘派のウリエル、激情家のガブリエル、人情家のサリエルね。ミカエルは統率者で、ラファエルは聞いている限り中立派だな。


「ラグエルやレミエルはどんな奴だったんだ?」

「ラグエルは、なんというか気難しい感じだったね。でも、彼はどちらかと言えば世界が安定するのならば、天族が滅ぶのも仕方がないって考えだったかな。レミエルは……なんて言えばいいのかな、とにかく自由と言うか……」

「リエスターさんにそっくりだな」

「間違いないね」


 自由って言葉はリエスターさんに当てはまる言葉だと思うが、やはりエレミヤは理解してくれた。そして、エレミヤの中からリエスター・ノーブルという人間を見ていたであろうミカエルも、その言葉を聞いて笑いながら頷いた。


「確かに、リエスター・ノーブルの自由奔放さはレミエルを思い出させるものだね。やっぱり、グリモアは使用者に似るのかな?」

「逆じゃないのか?」

「相性が良いから、私たちがついているのかもしれないし、そこは誰にもわからないね」


 不思議な話だな。

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