第131話 社畜は辛い

「えー、まずは簡単な事実確認からしたいんだけど……ガブリエルさん、であってるの?」

『そうね……私は確かに、ガブリエルよ』


 おぉ……本当にグリモアが喋ってる。勝手に口を動かされているヒラルダは凄い不満そうだけど、ルシファーみたいに身体の名から勝手に声を響かせるとかは……できないのかな。だって、魔力で肉体を構成させること自体はありえないって言ってたし。


「七大天族なんて呼ばれてた?」

『そうよ。ミカエル、ラファエル、ウリエル、ラグエル、サリエル、レミエル……そして私を加えて七大天族、天族の最高戦力だったわ』

「そっか……」


 ルシファーの言っていたことはちゃんと合ってたってことだな。別にルシファーのことを疑っていた訳ではないんだけど、念のためにも確認は必要かと思って。


「聞きたいことなんだけど……俺の周囲に、七大天族らしき力を持った人が多くて、もしかしたら何かしらの理由で集まったりしているのかなーって聞きたかったんだけど」

『……さぁ? たまたまじゃないかしら?』


 えぇ……そんなことある?


「クラディウスに対抗するため、とかじゃなくて?」

『クラディウス……随分と懐かしい名前ね。確かに、あれはいつかうち滅ぼしたいと思っているけれど、そんな簡単に殺せる相手ではないわよ?』


 そりゃあ、終末の竜なんだから簡単に倒せてたら今頃こんなことにはなってないでしょうよ。


『クラディウスは、私たち天族が総力を結集して3度ほど討伐したことがあるけれど──』

「あるの!?」


 え!? クラディウスって誰も倒せない無敵の存在とかじゃないの!?


『倒したことはあるわ。でも……あれは負の感情を吸い取って何度でもこの世界に再誕する化け物。完全に滅ぼすには、存在そのものを世界から追放するしかないわ』

「そんなことができるのならとっくにやっている。外からこちらの眺めてニヤニヤとしている奴が、そんなことを許さないだろうしな」

『ルシファー……当時は貴女の世迷言だと思っていたけれど、本当に世界を外から眺める上位存在がいるかもしれないと、私も何度も魂が流転することで理解してきたわ』

「ようやくか。だが、通常の天族ですら気が付くことができるほどに、奴はこの世界に修正を加えていると言うことでもある」


 うーん……ここがその上位存在のサンドボックスだとして、眺めているだけなら気が付かれないのに、気に食わないからって何度も手を加えているうちに、内側に存在する者たちにも存在が気が付かれ始めたってことなのか。ルシファーは特異な存在だからその上位存在を最初から認識していたけど、ガブリエルのような普通の天族でも気が付いてしまえるほどに、世界は歪められていると。


「その、世界を眺めている奴がこの世界を作ったとか?」

「知らん。ただ、奴はこの世界をしっかりと運営して、より良い方向に持っていくなんて高尚な考えはないと思うぞ。子供が無邪気なまでに虫の足を引き千切るように、自らの知的好奇心のままに残酷なことをしているだけだ」

『本当にそんな存在がいるとして、知的好奇心の赴くままに世界を変えているとしたら……滅ぼしたクラディウスが何度も復活するのも納得できる』


 はー……頭が痛くなってきた。

 ちらりと背後にいるエリッサ姫に視線を向けたが、初めて聞くような話ばかりだからなのか困惑しているようだ。まぁ……確かに、七大天族とか、世界の上位存在とか、クラディウスの話とか……あんまり説明してなかったな。納得していないのはヒラルダも一緒なのか、自分の喉を触りながらこちらをジトっと見つめてくる。


『ルシファーの契約者。貴方の望みがクラディウスの打倒なのだとしたら、私たちも力を貸しましょう。七大天族とルシファーの力があれば、不可能ではないと思うから』

「サリエル、レミエルは私もまだ会っていないが、ミカエルはこちらを認識した状態で黙り込んでいたからな……ただ、クラウディウスとガブリエルの名前を出せば必ず反応してくるはずだ」


 おぉ……ミカエルは俺たちのこと普通に無視してたってことでいいのかな?


「でも、サンダルフォンは……」

「あんな奴は知らん」

『サンダルフォンを知っているの?』


 知っているは知っているけど、なんと説明すればいいのやら。


「サンダルフォンの力を持っていた者と、殺し合いになったらしい」

『なるほど……確かに、貴女の契約者となるような人間が、サンダルフォンと上手くいく訳がなかったわね』

「どういう意味だ」

「本当にどういう意味だよ」


 俺とルシファー、同時に喧嘩売るのやめない? ガブリエルって水を操る清楚な天族だって思ってたんだけど……実は中身、ヒラルダだったりしない?


「……いや、思ったより似てるわね」

「おい」


 背後でずっと黙っていたエリッサ姫が急に敵になったぞ。


「グリモアとその使用者の性格が似るって、本当なのね。人間と魂を同化している天族と、その人間の性格が似ているのよね……やっぱり、魂が影響しているのかしら?」

「そんなこと言ったら、エリッサ姫だってそのガルガリエルとやらに似ているってことになるんだぞ」

『ガルガリエル……あぁ、仕事の時は無口で真面目な癖に、仕事が終わるとウザ絡みしてくるあの二重人格のような社畜ですか』

「ちょっと待って」


 それ、マジで仕事で疲れて深夜テンションみたいな感じになっているだけでは? それか、仕事は真面目にするけど飲み会に行くとウザくなるから近寄りたくないタイプの同僚。

 そもそも、天族の仕事ってなんだよ。


『天族だって常に戦っている訳ではないので、仕事ぐらいします』

「ガルガリエルはラファエルと共に戦うことが多いが、同時にミカエルの下で普通の仕事もしなければならない立場だったからな。私はウザ絡みされた記憶が強いが」

『私は死んだ顔している姿を見ることの方が多かったですが』


 おいおい……七大天族とかいう上司がこんなんだから、中間管理職のガルガリエルがそんなことになってるんじゃないのか?

 グリモアの元になっている天族の性格が、そのままエリッサ姫に似るのだとしたら……どうなるんだろうか。


「……私、将来は社畜? 他人にウザ絡みするのかしら」

「ウザ絡みは今でもしてるんじゃないか? だって、不快かどうかって他人の感性だし」

「え」


 まぁ、俺はそこまで嫌だとは思わないけど。

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