第129話 元々の目的
浅い。
ヒラルダに向かって振るった
空に足を付けながらゆっくりとヒラルダの方へと視線を向けると、彼女の左側に傷ができていたが……やはり深い傷にはなっていない。
「っ!」
水流を変化させることなく、そのまま柱のような形で投げつけてきたので、なんとなくでそれを避けながらこれからどうするかを考える。
魔力切れなんて全く考えていないかのように、ひたすらに水を放出しながら
「そこ!」
俺が一先ず、と地面に着地した瞬間に巨大な槍の形をした水が飛んできた。
ここは、ヒラルダよりも先に水にしっかりと対応した方がいいな。
「はぁ!」
「おっと!」
ウルスラグナから放たれた炎の刃が、周囲の水をまとめて蒸発させると同時に、水蒸気に紛れてヒラルダが突っ込んできた。水の槍を手に突っ込んできているようだが、今のウルスラグナに近づけば水は跡形もなく蒸発する……はずだったんだが、ヒラルダが手に持っている水が蒸発しない。疑問に思ってヒラルダの手を見ると、徐々にその水の槍が凍っているのが見えた。
俺がウルスラグナに付与魔法を使って炎を付与したように、ヒラルダも付与魔法を使って氷を付与した、ということだが……俺の付与に対抗する為にかなりの魔力を使っているはず。そして、水なら自在に操れる
「くっ!?」
「接近戦で俺に勝とうなんて、なっ!」
氷の槍とウルスラグナが何度かぶつかってから、略式魔法によって付与されていた炎がウルスラグナから消える。同時に、俺はただの魔力を研ぎ澄ませながらウルスラグナに纏わせて、氷の槍を切断する。
「しまっ!?」
「遅い!」
ウルスラグナを左に持ち替えてから、地面に刺さっていた
迫りくる大量の水を避けながら一気にヒラルダに近づいてから空いていた右手で首を掴み、空中を蹴って地面に向かって勢いよく落下する。
「かはっ!?」
勢いよく地面に叩きつけられたことで、ヒラルダは気絶したらしく周囲で俺を襲おうとしていた水が一気にただの水に変わって地面を濡らす。即座に意識を取り戻したヒラルダだが、首の横に刺さっているウルスラグナと、俺の手元に飛んで戻ってきた
「そ、そこまで!」
最初は近くにいたのに、戦いが始まった瞬間の激突で遠くまで逃げていた立会人の教師が制止してくれた。いつの間にか増えていた野次馬たちは、みんな顔を青褪めながら距離を取って逃げていた。
まぁ……あんな派手な戦いしてたら、自分たちの所にも飛んでくるんじゃないかと思って逃げたくなるのも仕方ないけど、俺もヒラルダもそんな魔法やグリモアが暴発するほど弱くはないから安心して見てられるんじゃないかな。俺とヒラルダのことをしっかりと知っているエリッサ姫なら……駄目だ、あの人も逃げてるわ。
「しょ、勝者はテオドール・アンセム……序列上位の者が勝利したので、序列の変動は無し、だな」
「大丈夫か、ヒラルダ」
「……悔しい」
ま、そんなこともあるさ。
決闘は基本的に序列が上の人間にとってメリットは存在しない。それは、実力が上の人間は下の相手に対しても真正面から相手をしなくてはいけない、とかいうよくわからない騎士道精神から来ているものらしいが、そのせいで序列が上がるほどにひたすらに挑まれるんだから、たまったもんじゃないよな。流石に、一桁にもなると殆ど決闘を挑まれることもなくなるんだけど。
背中で輝く
かなり派手な決闘をして俺が勝利した訳だが、ヒラルダの左腕に浅い切り傷1つで終わった。後は服が濡れたこと以外に特に被害はないし……やっぱりある程度以上の実力者と決闘って形でやるとあんまり傷ができないんだよな。互いに避けちゃうのもあって。
「それで、なんで決闘したんだったかしら?」
「俺がお前に
「あぁ……そうだったわ」
この女、やっぱり頭のねじぶっ飛んでるだろ。
「それで、なにかわかったのかしら?」
「いいや? 戦いに一生懸命だったから何もわからなかった」
「そう……仕方ないわね。
やれやれって感じでヒラルダが
「あの……流石にこんな人目のある場所ではやめない?」
ヒラルダの
決闘以外の場面で、グリモアを発動して暴れたら当然停学だろうし……確かに、あんまり人目がある場所でする話でもないよな。
「仕方ないか、ヒラルダ……一緒に来てくれるか」
「私は決闘で負けたから、言うことぐらい聞くわ」
その発言はなんか変なことを想像させるからやめろって。周囲から「あの2人ってそういう関係なの?」みたいな目を向けられちゃうだろ。
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