第128話 曲芸
「手加減はいらない」
「するつもりないけどな」
決闘を申し込まれた場所から一番近い場所には屋内訓練場もあったのだが、教師から提案されたその場所を断り、俺とヒラルダは屋外訓練場を選択した。困惑した様子の教師だったが……理由なんて決闘を見ていればわかる。
ヒラルダは手加減するなと言ってきたが、彼女のグリモアである
「では、2年序列3位ヒラルダ・ミエシスと2年序列2位テオドール・アンセムの決闘を始める。互いに正々堂々と、騎士の誇りを忘れぬように」
立会人兼審判役の教師が、なんか言っているが……俺とヒラルダの決闘で正々堂々と騎士の誇りとかもはや関係ない。最後まで立っていた方が勝者で、立ち上がれなくなった方が敗者だ。
「始め!」
「
「
開始の合図と共に、ヒラルダの
ヒラルダのグリモアである
以前のヒラルダの戦い方と言えば、その攻防一体のグリモアを攻撃一辺倒にして本人も手に持っている槍で攻撃してくるって感じだったんだが、初手で水球を槍に変形させて自分の手で握って攻撃してきた。
「戦い方、変わったか?」
「手数があればいいって訳じゃないことを、知ったの」
「間違いない」
「は?」
水を放出する魔法……それは、子供がよく遊びで使っている水鉄砲の魔法の上位互換。生活魔法として、一般市民が水を出すときに使用する攻撃目的では全く使えない魔法。
そんな馬鹿みたいな魔法を見せられても、俺は困惑することしかできないのだが……ヒラルダはそれを有効な手段にできるグリモアがある。
「
「嘘だろっ!?」
『馬鹿だな……ガブリエルは水ならばなんでも操ることができる……グリモアとして水を展開するのはその一部にすぎない』
そういうことはもっと早く教えてもらえませんかねぇ!?
ただの生活魔法であるはずの水を放出するだけの魔法が、全て凶器になりえるなんてどんな悪夢だ。しかも、ヒラルダは魔法使いとしても優秀なせいで、一般市民がチョロチョロと水を出す魔法を、まるで消防車のホースから出る水のような勢いと量だ。なんとかそれを避けても、地面に当たって染み込む前に空中で停止して……どんどんと上空に溜まっている。
『面白いな……ガブリエルはその場にある川や雨を利用して攻撃していたが、人間が生活の為に生み出した魔法と組み合わせることでこうも凶悪になるとは。中々、人間の知恵も侮れないものだな』
「なんでちょっと嬉しそうなんだよっ!?」
「戦闘中にお喋りなんて、余裕があるようで羨ましいわ!」
ヤバいって……ヒラルダが普通の槍を持たなくなったのは、片手で
『ふふふ……私の翼を使え』
「断る!」
『だが、迷っている暇はないぞ?』
くそったれ……確かに、平面であの水を避け続けるのはキツイものがある。
『翼を生やして空中を歩くだけならば、魔法だと言い張ればいいだろう』
「あぁ……そうさせてもらうよ!」
本当は使いたくないんだが、ここで負けるのはなんとなく嫌なので使ってしまえ!
「
「やっと本気になったようね」
俺の背後に12枚の光り輝く翼が出現する。いつの間にか大量に集まっていた野次馬は、俺の背後に現れた神々しい翼を見て呆気に取られているようだが、そんなの関係ないとばかりにヒラルダは更に水を放出してくる。
翼を揺らめかせながらジャンプして、空中に立つ。
「え?」
落ちてくる場所を予測して水の槍を放ったヒラルダは、空中に立っている俺を見て呆然としていた。ヒラルダの思考が戻る前に、俺は空中の蹴って走り出す。
俺の想定よりも思考が戻ってくるのが早かったヒラルダは、即座に大量の水を操りながら空中を疾走する俺へと向かって水を差し向けてくるが……俺は空を蹴ってそれを避ける。
空に上下左右の概念は存在しない……俺は、頭を地面に向けながら空を走り、ヒラルダの水による攻撃を避ける。
『まるで曲芸師だな』
「うるさい」
空中をぐるぐる回転しながら走っている姿は、確かに曲芸染みた動きかもしれないが……ヒラルダの想像していない動きでなければあれだけの水を避けることはできない。
「くっ!?」
大量の水が槍や剣となって襲い掛かってくるが、自由自在な動きでそれを避けていく。時にはそのまま重力にしたがって落ちてみたり、逆に上に向かって落ちてみたり、地面と平行の状態で歩いたり、階段を上るように少しずつ上昇したり。
想像できない動きと言うのは、捉えることができない動きと同じだ。俺が狙っているのは……攻撃が当たらないことに焦ったヒラルダの隙だけ。
「……見えたっ!」
「しまった!?」
攻撃が当たらないことに業を煮やしたヒラルダが、自身の周囲に展開していた水の全てを使って面の攻撃をしようとした瞬間に、空中を蹴って真下にいるヒラルダに向かって加速する。どれだけ大量の水を操れようとも、速度は大したことない。一瞬の隙に接近して、
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