第127話 何故か決闘することになった

「……俺のグリモアって、喋るのかな?」

『知らん』


 古書館の中にも関わらず、平然と神秘の書ラジエルを出して対話を試みているエリクシラを眺めながら、俺はルシファーに聞いたのだが考慮の時間もなく一蹴された。

 前に言っていた通り、俺のグリモアはどちらかと言えば魔族のグリモアに近いらしいから……俺の血に眠る先祖の力が偽典ヤルダバオト原典デミウルゴスってこと? なんか……変じゃね?


「むむむ……」

「なぁ、そのラジエルってどんな奴だったんだ?」

「私も気になるわ。天族って貴方みたいな厄介者ばかりだった訳じゃないでしょう」

『私を厄介者扱いしたのは、奴らが自らよりも遥かに強力だった私を恐れたからだ。つまり、奴らは私の力の前に屈したのだ』


 はいはい。

 エリッサ姫のことを小娘呼ばわりしておきながら、煽られたら即座に反応するところあたりがマジで煽り耐性低すぎて……ある意味傲慢なルシファーらしいんだけども。


『で、ラジエルか。奴は……とにかく自らの知的好奇心に突き動かされている奴だったな。魔法を収集して書物に書き記していたのも、ただの趣味だと言っていたし……魔族と積極的に戦った天族だったが、それも魔族の魔法を記録したいからだと言っていたな』

「魔法キチじゃねぇか」

「ある意味ではエリクシラと似ているのかも?」

「は? 私はそこまで破天荒な人間ではないです」

『まぁ、日がな一日、引きこもって書物に記録ばかりしている姿は確かに似ているかもしれないな』


 ほら見ろ。


「やっぱり、グリモアって持っている人間の人格形成に多大の影響を与えているよなぁ……そういう性格だからグリモアが生えてくるんじゃなくて、グリモアの元になった天族がそうだから、使用者もそういう性格になってくるみたいな」

「……なんとなく、それは不快な気もするけど」


 そりゃあ、自分の性格が知らない存在の影響で成り立ってますよなんて言われて、そうなんだって素直に納得できる人間は少ないだろう。生みの親や育ての両親ならまだしも、種族すら違うし会ったことも声も聞いたこともない存在によって歪められているのだから、猶更だな。俺としては、そもそも歪められているって表現が違うと思うが……天族のグリモアを持っている人間からすると歪められたと感じても仕方ないのかなって思う。


「じゃあ、ガルガリエルは能天気で現実が見えてない天族だったのかな」

「へぇ……貴方が私のことをどう思っているのかはよくわかったわ、テオドール」


 事実じゃん!


『ガルガリエルは……なんというか、普段は無機質な奴だったな。そもそも中間管理職のような立場で第三位ソロネとしての上司であるラファエルと、太陽の使者としての上司であるミカエルに挟まれた……社畜か? 部下も多かったしな』

「…………ごめん、エリッサ姫」

「謝らないで、余計に傷つくから」


 グリモアを持った魂は転生する……そう考えると、エリクシラは前世でもあんな性格だったのかもしれないし、エレミヤも前世からあんな性格だったのかもしれない。

 しかし、気になる点が1つ。


「グリモアを持った魂が転生するってのは理解できたけど、それなら歴史的に何度もグリモアの姿が確認されているもんじゃないのか? エレミヤの審判者の剣ミカエルだって前任者がいたってことだろ? そんな文献、1つも見たことがないが」

『当たり前だな。転生すると言っても、同一のグリモアを扱うもので私が見た最短が……約3000年だ』

「あ、そりゃあ無理だわ」


 人間、3000年も先に正確に物事を伝えることなんてできないし、今から3000年前って実はなんの資料も残っていないんだよね。残っているのはクラディウスに滅ぼされた2000年前前後のものばかりで、それよりも昔じゃないかって言われているものはあっても、本当にそれがそんなに昔のものかどうかは判断付かないからな。


「ん? じゃあ余計に七大天族が今の時代に集まったのは……なにかしらの意図があるんじゃないか?」

『そうかもな……そんなことは、私じゃなくて当事者共に聞け』


 当事者なぁ……でも、エレミヤは今日は公爵家の用事で学園にいないし、アイビーはいつも通り諜報のお仕事でいないし、リエスターさんは師団長だから忙しいだろうし……あ、ガブリエルヒラルダがいたわ。





「そうね、丁度いいから決闘」

「なんでっ!?」


 ヒラルダに事情を説明して海の槍ガブリエルを見せて欲しいと言ったら、何故か決闘を要求された。背後にいたエリッサ姫も困惑の表情を浮かべるぐらい、唐突な決闘宣言に驚いているのだが、止めることはしない。まぁ、この学園で決闘を止めるのは無粋なことだから仕方ないんだけど。


「なんで? 私が3位で、貴方が2位だからよ」

「あ、そういう……でもなぁ、だろ?」

「上等」


 この女がこうなったら人の話を聞かないことは知っているので、ここは素直に受けておこう。そうした方が後腐れなく話が進められそうだ。


『ガブリエルか……興味はないな』

「おい」


 相手の持ってるグリモアで興味あるかないか判断するのやめろ。お前、相手がエレミヤだったら、絶対に自分のグリモア全能の光使えってやかましく言ってくるだろ。


「先生」

「ん? どうした?」

「今から彼と決闘するので、審判役を」

「おぉ……おぉっ!? 2位と3位が!?」


 そりゃあ、先生だってそんな反応するわ。学年序列2位と3位が派手に決闘するのってあんまりないことだからな……基本的に、最上位の序列が上下するのは決闘じゃなくて試験の成績とかだから。理由としては……そもそも最上位の序列に座っている人間は、基本的に互いの実力を知っているので、そこら辺を計算に入れてどちらが勝つかを考えるからってのがある。そして、殆どの場合序列が上の人間が勝つので、決闘する意味がないとも思われている。

 今回は、別に序列を入れ替えることが目的じゃないから、決闘って手段にする必要はないと思うんだが……ヒラルダが要求してきたから仕方ない。最後まで付き合ってやろうじゃないか。


「貴方とまともに戦ったのは……最初の試験の時が最後」

「そうだな。だから、ちょっと楽しみにしてるよ」


 あの時のヒラルダは確かに強かったが、グリモアの力に頼り切った戦い方をしていたからな。あれから1年以上が経過して、ヒラルダがどう変わったのか……七大天族であるガブリエルの力を持つ人間としても、見極めておきたい。

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