第126話 天族の過去

『天族の中でも戦闘能力に特化した者たちの中で、突出した戦闘能力を持っていた7人を第一位セラフとして頭に据えたものが七大天族だ』

「……ルシファーも第一位セラフじゃなかったか?」

『私をそんな細かな連中と同じにするな』


 つまり、ルシファーはどちらかと言うとサンダルフォンと同じような立場だったってことなのかな。


『種族関係なく罪人を裁く剣を振るうミカエル、水を自在に操り味方を守るガブリエル、味方の傷を治し敵に冷酷な死を突き付けるラファエル、天族の敵を燃やし尽くす炎を持つウリエル、仲間にすら恐れられた光を操るラグエル、自らの影を使って死を体現するサリエル、強化無比な雷霆を手足のように扱ったレミエル』


 ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエル、ラグエル、サリエル、レミエル。このうちの審判者の剣ミカエル海の槍ガブリエル死の翼サリエル慈悲の雷霆レミエルは確認しているが……残りのラファエル、ウリエル、ラグエルには出会ったことがない。


「そんな強力な天族? がいながら、クラディウスには勝てなかったのは何故?」

『ふむ……理由はたった1つ、天族は万能で綺麗な存在ではなかったからだ』

「綺麗な存在では、なかった?」

『クーリアの小娘、お前は人間が全員協力すればクラウディウスに勝てるとして、必ず全員が一致団結できると思うか?』

「……無理ね」

『それと同じだ。天族は強力な種族ではあっただろうが……人間と同じように、足並みを揃えることができない種族だった』


 なるほどね……共通の敵が出てくれば人間は一致団結することができるとはよく言われるけど、それはあくまでも一時的なものでしかない。共通の敵に対して一致団結して、優勢になった瞬間に……人間はバラバラになる。戦いの後にどうやって金を回収するのか、自分が一番活躍したのだから報酬は多く貰うべきだ、そもそもその報酬はどこから払われるのか……こんなんで勝てると思うかって話だな。

 魔族が悪魔のようで、天族が天使のような存在だと思っていた訳だが、結局は魔族は魔族、天族は天族として生きていたただの種族だって訳だ。


『天族は戦いの最中に割れたのだ。アザゼルを筆頭に、シェムハザ、バラキエル、コカビエルなどの有力な天族が七大天族と敵対したことによって、天族はそもそも種族として立ち行かなくなるほどの絶滅戦争を始めた』

「内輪揉めで、絶滅戦争まで行くのかよ」

『それだけ、天族共は血気盛んだったということだ。魔族も、身内殺しは多かったと聞くが』


 お前ら、やっぱりどっちも欠陥種族では?


「人間だって殺人事件なんて沢山起こってるじゃない。国が割れるのなんて歴史を見ればありふれた話だし」

「確かに」


 じゃあそんなに変わらないか。


「その絶滅戦争のせいで、天族は人間の魂と同化した、と?」

『最終的にはそうなるな。ミカエルを筆頭とした七大天族側の天族は、アザゼルたちのことを堕落した天族であると非難し、殺し尽くす為に戦いを続け……勝利した時には多くの有力な天族が死んでいた。そんなボロボロの状態で、力をつけ始めたクラウディウスに勝てる訳もなく……天族は種族として滅んだ』

「でも、人間と同化することで生き延びた」

『魂だけの存在になったのを、生き延びたと言えるのならばな』


 意識があるのなら生き延びたと言ってもいいだろう。意識がない天族だって多いのだろうけど……それでも、全てがこの世界から消えたわけではないのだから。


『クラウディウスによって天族が滅びそうになった時、魂を人間と同化させることで力を残すことを考えたのは、サンダルフォンだった。思えば……奴はそうすることでクラウディウスに対抗する人間が現れることを予見していたのかもしれないな』

「……あくまでも、サンダルフォンはクラディウスを倒す為に、ってことか」


 話を聞いている限り、本当にサンダルフォンが特殊な立場にいたことがわかる。そんな力を持ったからフローディル内務卿は有能だったのか、有能だったからこそサンダルフォンが彼に託したのか……今となってはそれもわからないか。


「私の中にいるガルガリエルとやらは、ミカエル側だったのよね?」

『そうだ。第三位ソロネの天族はラファエルが指揮官であり、その直属の部下だったのがお前の中に眠るガルガリエル……太陽の天球を操る強力な天族だ。陽気なウザ絡みをしてくる奴だったが』

「そんないらない情報を伝えないで!?」


 はは、そりゃあ天族だって個性があって生きていたんだから、個人ごとに性格ぐらいあるよな。


「他の天族についても聞かせてくれよ」

『天族の力についてか?』

「性格についてだよ。何が好きだったとか、何が嫌いだったとか……個人としての、性格をさ」

『……やはり、変わった男だな。今の天族などただの力……そんなこと、気にする必要もないと言うのに』


 それでも、歴史から抹消されてしまった天族という存在をキチンと知ることができるのは俺たちだけなんだ。俺の書いているこのメモが後世に残るのかどうかは知らないが……できるだけ俺たちの記憶には残しておきたいと思った。


『いいだろう、天族について教えてやろう……この最大最強の天族であるルシファー様がな』

「……ねぇ、そう言えば聞き忘れていたのだけれど、天族が戦争とかしている間、ルシファーは何をしていたの?」

『…………黙秘する』

「どうせ幽閉されてたとかだろ。こいつ、どう考えても協調性ないし、ミカエル側からもアザゼル側からも嫌われてそうじゃん」

『私に喧嘩を売っているのか? なぁ、そうだろう?』


 絶対に事実だろ。


『はっ。私は奴ら如きには理解することもできない高尚な頭脳があったからな……わざとメタトロンに捕まっていただけのことだ』

「結局捕まってんじゃねぇか」


 やっぱりこいつ、強いけど性格破綻者だから幽閉されてただけだよな。


『ミカエルなどという屑に誰もかれも踊らされ……全く嘆かわしいことだな』

「ミカエルに恨みでもあるのかよと思ったら、マジであったな」


 ちっせぇ……最大最強の天族、心狭いな。


『ミカエルはやれ決まりごとは守れだの、傲慢な態度はなんとかしろだの、知的好奇心は身を滅ぼすだの……とにかく細かく面倒くさい奴だった。おまけに顔がいいからと爽やかな笑顔を浮かべて挨拶するだけで、全てが解決すると思っていたからな。何度あの顔面をぶん殴ったことか』


 そこはぶん殴りたいと思ったことか、じゃなくてぶん殴ったんだ。もう実行してるじゃん。

 そして、ミカエルの総評を聞いた感じ……ちょっと口うるさくなったエレミヤみたいな感じで笑えるな。

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