第125話 七大天族

「あ……」

「教官、剣ぶっ壊れたんですけど」

「……あ、そ、そうだな」


 アルス先輩が吹き飛んでいった方へと視線を向けて固まっていた教官に、剣がぶっ壊れたことを申告する。まぁ、刃を潰しただけの鉄剣にあれだけの魔力を込めて壊れない盾に叩き込んだらそうもなるよなって感じだ。折れたってよりも砕けたって感じだもん。

 それにしても……あれだけ魔力を込めて叩き込んでも、アルス先輩が吹き飛んだだけで、万人の盾ザフキエルにはまともに傷が入っていないのだから恐れ入る。確かに……あれは人々守る盾なのかもしれないな。


「ふぅ……まさかあんな力技で攻略されるとは思わなかったよ」

「そうですか? 逆にあれ以外の攻略方法が思い浮かばなかったんですけど」

「そんなこと、ある?」


 だってどんな攻撃も防がれちゃうんだから、本体を狙おうってのはまず考えることだろ? でも、その本体が反応良くて背後からも搦め手も通用しないってなると、もう盾ごとそのままぶっ飛ばした方が早い訳で。最強の盾は確かに強いが、それはあくまでもアルス先輩が持っているから強いんだなって。


「でも、君にグリモアを使わせることもできなかったね」

「いや、そもそも本気でやるとか以前に、俺のグリモアは相手を殺すことに特化していると言ってもいいですからね。流石にこんな模擬戦でもない、授業の組み手でそんなもの使ったら駄目ですよ」

「そんな物騒なグリモアなのかい? まぁ……そういうのもあるか」


 実際、エレミヤの審判者の剣ミカエルだって模擬戦では使えないような殺傷能力が高いグリモアだし、そういう能力って沢山あるんじゃないかな。

 ルシファーの言っていた通り、全てのグリモアが天族の力に由来するのだとしたら、殺傷能力が優れているグリモアが多いのも頷ける話なんだが。だって、魔族と常に戦争していたらしいから……そんな連中の力なんて全部相手を殺すためのものだろ。アルス先輩の万人の盾ザフキエルがおかしい方だろ。


『ザフキエルは戦場には基本的に立たない男だったからな。奴の役割は弱者を守ること……万人番人の盾として特徴的な盾を手に、弱者を守り続けていた』

「……それって、ルシファーも守りを突破できなかったのか?」

『馬鹿め。私を誰だと思っている』


 あーはいはい、最強ね。



 最近、俺はルシファーと色々と雑談することが多い。天族について色々と聞いている、とかではなく……彼女が見てきた様々な魔法について聞いたり、グリモアとなった天族たちの性格や武勇伝なんかを聞いているのだ。武勇伝に関しては、自分が最強だって話に落ち着くのは何とかして欲しいが……俺の周囲にいる人間のグリモアについて、色々と喋ってくれるのは面白い。


「んー……」


 ルシファーから聞いたことを事細かにメモしていく訳だが、逆に俺からルシファーに対して話せることなんてそう多くない。ルシファーは別に期待していないと言っているが、それでは面白くないってのが俺の考えだ。


神秘の書ラジエル審判者の剣ミカエル海の槍ガブリエル死の翼サリエル慈悲の雷霆レミエル時の牢獄サンダルフォン爆砕の大刀アバドン……俺が今までに見たグリモアってこれくらいか?」

「そんなに見たの?」


 古書館でいつも通りの場所に座って、ルシファーから聞いた話なんかをメモしていたら、エリッサ姫がひょっこり覗き込んできた。普通に身体が接触しているので困ってしまいます。


『ふむ……サンダルフォンとやり合ってよく生きていられたな』

「いや、まぁ……うん、確かにね」


 勝ちはしたけど、あそこで勝ってなかったら多分、俺の方がやられてたんじゃないかな……それだけ時の牢獄サンダルフォンの力は強力だった。ルシファーがそうやって言うぐらいには、滅茶苦茶強い天族だったのかな?


サンダルフォンは天族の中でも特殊な地位にいた。他の天族たちとは違い、階級は与えられず……ただ天族の脅威に対抗するためだけの存在だった……のだが、奴は弱者である人間を慈しみ、人間の中で突出した才能を持っていた者を頭として人間をまとめさせた』

「それが……私の、先祖」

『そうだ、それがクーリアの血族』


 そう考えると……よくもまぁ、何度も滅びから逃げてクーリア一族は残っていたものだな。もしかしたら、文献に残っていないだけで過去に何度かクーリア王家は王朝を起こしていたりするのかな。それとも、既に血族は断絶しているけど、名前を継ぐ者が何度も現れているとか。


『とにかく、サンダルフォンは変わった奴だった。階級を与えられなかった特殊な生まれも関係しているのかもしれないがな』

「天族の脅威に対抗する、か……それは結局、クラディウスが該当するのか?」

『そうだな。結果的には、人間を必要以上に痛めつける必要はないと主張したサンダルフォンが合っていたのかもしれん。我々が人間を追い詰めた結果、生まれてしまったのがクラウディウスなのだからな』


 時の牢獄サンダルフォンを発現させたフローディル内務卿が、終末に抗おうとしたのはサンダルフォンの意志だったのかもしれない。


『言ったはずだ。奴は特殊な天族だった……もしかしたら、現代でも自分の力を所持する者に対して私のように助言を施していたのかもしれないぞ』

「それなら、フローディルの根拠のない焦燥感にも説明がつく、か?」


 いや、それよりルシファーは助言してるつもりだったんだ。俺はてっきり暇だから雑談に付き合ってくれているだけだと思っていたんだが。


『それにしても……ミカエル、ガブリエル、サリエル、レミエルとは、七大天族がこうも揃っていると、偶然とは思えんな』

「……それは、クラディウスに対抗する為に集まったと?」

『さぁな……そもそも、天族の全員が意識を残しているとは限らない。ただ、七大天族とまで呼ばれた連中が、人間の魂と同化した程度で意識が消えるとは思えん』

「それって……意図的に黙ってるってことか?」

『お前のように身体の内側、魂が干渉する場所から一方的に喋られてなんの影響も受けないほど、人間は強くないと言うことだ』


 しれっと俺のこと人間じゃない扱いした?


 七大天族かぁ……その力を十全に扱えるのならば、もしかしたらクラディウスも倒せるかもしれないってことなのかな。

 審判者の剣ミカエルを持つエレミヤ、海の槍ガブリエルを持つヒラルダ、死の翼サリエルを持つアイビー、慈悲の雷霆レミエルを持つリエスターさん……この4人が、俺にとっての重要人物か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る