第120話 ガルガリエル

「だ、大丈夫だったんですか? 爆発音が何回か聞こえてきましたが」

「あー……大丈夫ですよ」


 シンバ王朝遺跡から出てきた俺たちを迎えた魔法騎士さんは、すっごい心配してくれていたらしく、俺たちの顔を見た瞬間に安堵の息を吐いていた。実際、結構な無茶を何回もやらかしたし、王朝遺跡の一部を破壊することにはなってしまったが……生きてはいる。

 結果的に色々なことが起き、その殆どが面倒くさいことばかりだったが、得られたものはその苦労に見合っていると思う。グリモアやクラディウスに関して色々と知れたのは、明確に成果と誇れる内容だろう。まぁ……ルシファーが俺の中に入り込んできたことに関しては、プラスマイナスゼロって感じだけど。


 俺がルシファーから与えられた『全能の光ルシフェル』というグリモアは、自身の背後に12枚の光り輝く天使の羽根を展開することができる。因みに、背中から直接生えている訳ではなくて背後に12枚の羽根が展開されるだけで、外付けの装備みたいなものだ。

 どういう原理なのかわからないが、俺は全能の光を使うことで空を歩くことができる。飛んでいる訳ではないのがポイントなんだが……空中に足場があるように歩くことができるのだ。俺の中にいるルシファーがなにかしているのかと思ったが、答えたくないことには一切答えないので真相は不明。



 色々なことがあって疲れた身体でなんとかその日のうちにクロノス魔法騎士学園に戻ってきた俺を出迎えたのは、なんとなく落ち込んだ表情のエリッサ姫。別に俺を迎えに来た訳ではないのだろうが、偶然出会ってしまった。


「……門限ギリギリの時間に帰宅?」

「遠出してたから」

「シンバ王朝遺跡だったかしら? 確かそんな場所に行くとか……」

「言ったっけ?」


 俺、エリッサ姫にそんなこと伝えた記憶がないんだけど。


「お節介な親戚が教えてくれたわ」

「エレミヤか」


 この学園にいるエリッサ姫の親戚とか、そう多くないだろ。そんでもって、俺がシンバ王朝遺跡に行くことを教えた人間で、最初に頭に思い浮かんだのがあのイケメンスマイルだった。


「それで? なにか成果は……あったみたいね」

「想像以上の成果はあったよ。だから、俺としてはそんなにエリッサ姫が落ち込んでいる理由を聞きたいんだけど」

「それは──」

『ん? 貴様……か? ふははははは! 太陽の使者がこんな小娘に? くっ、ははははははっ! 笑いが止まらん! 本当にお前の周りにいる人間は面白いな!』

「うるせぇ!」


 人の身体の中で騒ぐんじゃねぇ!


「……なんか、急に貴方以外の声が聞こえたきがしたのだけれど、気のせいかしら?」

「気のせいってことにしておいてくれ」

『器を間違えたんじゃないか? 第三位ソロネの長ともあろうものが、そんな無力で何も知らない小娘の身体に……くくく、抱腹絶倒とはこのことか!』

「黙れ」

「やっぱり気のせいじゃないわよね。そして、物凄く私のことを馬鹿にしているわね」


 俺の身体の中でいきなり騒ぎ出したルシファーに、俺とエリッサ姫は同じような感情を抱いていた。勝手にベラベラと喋り出したことへの怒り、馬鹿にされたことへの怒り……とにかく傲慢でうざったらしい存在だなこいつ。


『ふぅ……まぁ、そう怒るな』


 一通り笑ってから自分は冷静ですみたいなこと言ってんじゃねぇよ、しばくぞ。


『小娘、名前は?』

「……エリッサ・クーリア」

『クーリア……そうか、サンダルフォンが目をかけていた連中の末裔か』


 サンダルフォン……それはフローディル内務卿が持っていたグリモアの名前。クーリア王家がそのサンダルフォンとやらに目をかけられていたのに、フローディルについていたということは……そのサンダルフォンとやらは、フローディルのことを認めていたってことなのかな。


『お前の中に存在しているグリモアの名はガルガリエル……太陽の使者と呼ばれた第三位ソロネの長たる天族だ』

「ガルガリエル……私の、グリモアの名前?」


 ルシファー……こいつ、まさか他人が発現させていないグリモアまで見抜くことができるのか。それが本当だとしたら普通にとんでもないことだと思うが、果たして本当なのか……いや、このクソ天使が嘘のことであんな腹を抱えて笑うことはないだろうから、嘘ではないだろう。


「テオドール、詳しく説明しなさい」

「……はい」


 そうだよな……グリモアの名前とか色々なことで忘れてたけど、俺とエリッサ姫しかいない場所でそれ以外の声が聞こえて、それが自分の中に眠っているグリモアの名前を知っているなんておかしな話、詳しく聞かないと納得できるわけがない。



「そのルシファーとやらが語ったことが真実かどうかは後にして、私の中にグリモアが存在しているのは本当なのね?」

「多分……」

『信用がないな、テオドール・アンセム。私のことをもっと信頼するといい……小娘の中に眠っているガルガリエルは王族に相応しい力だぞ?』


 いや、知らんわ。

 自分の好きなことにしか口を出さず、基本的に自分以外の全てを見下している傲慢そのものみたいな奴を、誰が信用できるかって話だ。


「ガルガリエル!」

「……叫ぶだけで出たら苦労しないのでは?」

「コツを教えなさいよ!」


 いや、そもそもルシファーの言うことが本当なのだとしたら、自分の内側に存在しているガルガリエルとやらの力を目覚めさせる必要がある訳だろ? 名前を知ってもそれができないと意味はないから、多分今までと大した違いはないと思うぞ。

 今度は押し殺したような笑い声が身体の中から聞こえてくるんだが、こいつ本当に性格悪いな。エリクシラが全能の光ルシフェルを見て性格悪そうと言っていたが、こりゃあ本当だな。


「まぁ、私の中にしっかりとグリモアが存在していた……それが知れただけでもよかったと考えるべき……なのかしら?」

「グリモアは誰にでもあるって、前に言ってただろ?」

「凡人の思考は貴方みたいな人には理解できないのよ」

「いやぁー……エリッサ姫は凡人の枠に入ってないんじゃないかな」


 少なくとも、クロノス魔法騎士学園で序列10位代に入っている人間を、世間的には凡人とは言わないだろ。そりゃあ、言い方は悪いけどエリッサ姫なんてエレミヤとかに比べたら凡才かもしれないけど、比べる相手が悪いって話であって、普通にエリートだと思うけどな。

 序列が2位の俺が言っても、嫌味としか思われないだろうから言わないけどさ。

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