第119話 全能の光
「私の質問は……お前についてだ」
「俺?」
「そうだ……白と黒、2つの魂を持つ者。お前は天族と魂を同一の物としていない……お前はなんだ? そもそも魂の構造からして妙な形をしているな。お前は……どこからやってきた」
「あー……異世界?」
これ、ルシファーには全部バレてるってことでいいのかな?
こいつは俺のことを最初に見た時から2つの魂がどうとか言ってたから、魂をしっかりと知覚できるのかもしれない。曖昧な感じではなく、その眼でしっかりと。
適当に異世界からやってきました的なことを言ったら、ルシファーは呆気にとられたような表情のまま固まり……急に頷いた。
「そうか、お前は少し前に時空の歪みと共にこの世界にやってきた存在だな? 私の感覚としては少し前だが、人間の感覚としては確かに10年以上前のことだろう……そうかそうか、異世界からなら確かに納得できる話だ」
「いや、俺は納得できないんだが?」
何を言ってるんだ。
「私の質問はこれでいい。そして……私が聞きたいことはもうなくなってしまったな」
「なら、これで質問は終わりか?」
「そうさせてもらおう」
そっか。
「じゃあ、俺たちに協力してくれるのかどうか、それを聞きたいな」
「ふむ……私としては、クラウディウスによって世界が滅びようとも関係ないのだが」
「関係ない? この世界に生きていながらか?」
「私はその程度で死ぬほど脆い存在ではない。天族の中でも最も完成された天族……この世界を外から見つめる神に匹敵するほどの力を持った、最強なのだからな」
「外から見つめる、神?」
「そんなのいる訳ないじゃない」
やはり、存在するのか。
エリクシラとヴァネッサはルシファーの言葉を世迷言のように感じているようだが、俺としてはいない方がおかしいと思う。
元々はクラディウスの存在そのものが、その神による掃除ぐらいだと思っていたのだが……それはルシファーの言葉によって否定された。しかし、それでも疑問は残っている。そもそも誰がこの世界に俺の魂を持ってきたのか、そして世界の端を確認することができない理由……恐らく、この世界は地球のように球体でできた世界ではない。
差し詰め……神が遊ぶための箱庭。サンドボックスゲームみたいなものなのだろう。そして、ルシファーはその上位の存在に気が付いた世界のバグのようなものなのだろう。
「自分が最強だから、人間と協力する気はないと」
「あまり興味はないな」
「傲慢な奴だな」
「それが
クソが……この女、マジで肉体はただの器にしか過ぎないと考えているな。恐らく、本当に肉体が死んでも魂だけで生きながらえることができ、しかも肉体を再生する方法があるんだろう。正しい意味での不死……手が付けられないな。
「だが」
「?」
傲慢にこちらを見下ろしていたルシファーは、ゆっくりと視線を動かして俺を見つめてきた。
「君がもし、己の命すらも惜しむ気はないと言うのならば、私は君に協力してやることもやぶさかではないぞ?」
「さっきからずっと上から目線で喋りやがって……命ぐらい簡単に懸けてやるよ」
「テオドールさん!?」
一度は死んだ身だ……今更何を惜しむことがある。
家族を、友人を、守れるなら今更命の1つや2つ懸けるのに躊躇ないなんかありはしない。
「ただ、無駄死はしないからな。俺が命を落とすって言うのなら、俺の命に釣り合った結果を残してもらう」
「これは……また難しいことを言うな。君の命は凡百のそれとは価値があまりにも違うのだと理解しての言葉かな?」
「黙れ。凡百の命だろうが命は命だ」
「ふ……私にとって救う価値のない命と、価値のある命では全く重みが違うのだがな……君にとっても、そうだろう?」
こいつ……本当に人間どころか、生物全てを下に見てやがる。だが、それだけのことができるだけ、ルシファーには力があるということだ。
クラディウスのことを詳しく知り、世界の在り方について詳しく知り、そして全てを見下すことができるほどの力を持っている……なるほど、命を懸けて仲間にするには悪くない奴だ。
「魔族よりも天族の方が悪魔らしいとは思わなかったが、いいだろう。俺の魂と命をお前に預ける」
「取引成立だな。ならば、私は
「は?」
騒がしく?
俺が疑問に思う前に、ルシファーが突然光り輝いて目の前から消えたと思ったら、急に胸に激痛が走った。
「うぐっ!?」
「テオドールさん!」
「ちょ、ちょっと大丈夫なの!? なにが起きたのよ!」
「あの、野郎……」
『こんな美女に対してあの野郎とは、少々言葉遣いが悪いんじゃないかな?』
一瞬で、ルシファーが何をしたのか理解した。
『肉体を捨て、君の身体にお邪魔させてもらった。これで望み通り、君に力を与えることができる……方法は指定していないだろう?』
こいつ、やっぱり天使じゃなくて悪魔だろ。
「家賃払いやがれ」
『ふむ……私に払える家賃など、これぐらいしかないがな』
ムカついて冗談で家賃を要求したら、俺の中でなにかが勝手に動いて背中から12枚の羽根が生えた。
「は、羽根!?」
「こ、これどうなってるんですか!?」
「俺が聞きたいわ」
俺の背中から飛び出した純白の翼。左右6対となる大きな鳥の羽根は、ルシファーが戦闘態勢に入った時に見せたものと同じだ。
『そうだな……彼らと同じような感じで名付けるのならば『
「名付けるって……今、作ったのかよ」
『当然だ。私が人間と魂を同一にすることなどない……それはつまり、私の力を扱ったことのあるものなど私以外にいないのだから、グリモアとしての名前も存在しない』
クソ……こいつ、俺の身体に勝手に入り込んだと思ったら、俺に3つ目のグリモアを勝手に生やした。ただでさえ2つもあってエリクシラに色々と言われてたのに、なんで3つも持つことになるんだよ。
「そ、それ……グリモア、ですよね」
「そう、らしい……俺だって困惑してる」
「なんと言うか……ピカピカ眩しくて、自己主張の強い性格の悪そうなグリモアですね」
言われてんぞルシファー。
『それにしても君の身体は面白いな……異世界人ともなると色々と興味は尽きないのだが、どうしてくれようか』
なんか勝手に人の身体弄繰り回そうとしてない? これ、本当にこいつに協力頼んで大丈夫だったのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます