第116話 怪しい奴
「ゆっくりだぞ?」
「わかってるわよ……でも、上まで行ったらそんなことも言ってられないわよ」
「それはそれ、これはこれ」
「都合のいいこと言ってんじゃないわよ」
あれから頑張って色々と探してみたけど、マジで何も見つからなかったので俺とエリクシラはヴァネッサに引き上げて貰っている。あんまり高速で引き上げられると、ナグルファルに見つかった時が面倒になるのでゆっくり引き上げられているのだが……マジで大量のナグルファルを蹴散らしながら突っ込むことになるとは思わなかった。とは言え、ヴァネッサの言う通りなら城跡は目の前なので思いっきり突っ込む距離は短いのでなんとかなる……と思いたい。
たった十数メートルを数分かけてゆっくりと上がっていき、ナグルファルがこちらを視認できない距離から一気に加速してもらい、俺だけが手を放してナグルファルの群れに突っ込む。
「派手にやるかっ!」
俺の役割はヴァネッサとエリクシラが安全に着地できるように援護すること。第一目標であるビームがヴァネッサたちの方に向けないことには成功している。
数秒間突っ立って構えているだけで大量の魔力を吸い込んだ偽典は、すぐに熱を放出して俺に限界を伝えてくる。ので、それを思い切り解放してナグルファルを蹴散らす。ここまできたら周囲の破壊なんて気にしてられない……生存優先だ。
「……本当に派手にやりましたね」
「まぁ、な」
偽典から放たれた魔力の奔流は、周囲の建物を派手に破壊しながら……数十体以上並んでいたナグルファルを一掃した。本当は遺跡に傷とかつけたくなかったが、ここまで敵が大量にいると仕方ないって部分も出てくる。
周囲のナグルファルを一掃したことでヴァネッサとエリクシラが降りてきたが、同時に後方から少しずつナグルファルが近づいてきているのが見える。しかし、前方の城跡方面からはやってくる気配がない……さっさと突っ込むか。
特に打ち合わせとかをした訳ではないが、俺と同時にヴァネッサとエリクシラも城跡方面へと向かって走り出した。しかし、エリクシラは相変わらずの運動神経をしているので、俺が途中で抱き上げた。
「ちょぉっ!?」
「じっとしてろ」
「来るわよ!」
もう少しで城の入り口らしき場所に辿り着くって所で、背後から突っ込んできたナグルファルがビームを溜めていた。
「俺が迎撃する!」
「ちょっと!?」
こんな所で立ち止まって迎撃すれば、周囲から更に追加の機体が現れるかもしれないが、かと言って背後からずっと攻撃され続けているのに黙っていられない。
高速で突っ込んできながらビームを溜めていたナグルファルに狙いを定めて、ウルスラグナから魔力の刃を飛ばそうとしたが……城の門に近づいた瞬間にナグルファルの電源が急に停止して、その勢いのまま地面を転がりながら俺の目の前にやってきた。
「は?」
高速で動いていた慣性のまま地面を転がったせいで、機体はボロボロになっているが……致命的に破損しているようには全く見えない。しかし、その機体の背後から近づいてきていた他のナグルファルも、門に近づいた瞬間にどんどん機能を停止していく。
「な、なにが起こってるのよ」
「エリクシラ、なにかしたのか?」
「な、何もしてませんよ」
そうだよな……ずっと俺に抱えられてたのに、いきなりそんな凄い魔法とか発動した訳じゃないよな。そもそも、エリクシラは魔力の節約とか言って
「……もしかして、門の中に入ってこられないようになっているのか?」
城の入り口よりも前方に存在する門には、詰所らしきものも存在していた跡もない。あれでは門である意味がないと思っていたが、まさかあの門の役割ってナグルファルが入ってこられないようにする為なのか? もしかして、あのナグルファルを作った文明とシンバ王朝って敵対してたのか? わからん……なにがどうなっているんだろうか。
まぁ、そこら辺は後で色々と調べるとして、城跡の中でナグルファルに追いかけ続けられる必要がなくなったのは大きいな。これで城の中を安全に散策できる……城の中にトラップがないとは思えないけど。
ここまでずっと走ったり戦ったりしていたので、少しの休憩を挟んでから城跡へと足を踏み入れる。巨大な建造物だが、後ろ半分は吹き飛んでいて前半分も上の方はボロボロに崩れ去っている。まさに古代の建物って感じだが、建築方法は王都の建物とそんなに変わっていない。シンバ王朝は大体2000年ぐらい前の王朝だと言われているのに、今と建築方法が変わらないと言うのは、やはり変なことだろう。
白く美しい石を使って建てられたのであろう城には、所々に破壊の跡が残っている。この破壊の跡というのがまた妙な形で、まるで巨大な生物に噛み千切られたかのような跡もあれば、弾痕のような小さな穴も存在している。当然だが、この世界に銃なんてものはないので、魔法によるものだと思うが……それにしても不自然だ。
「これ、内側から破壊されていますよね」
「そうだな。でも、こっちは外側から破壊されている」
「……気持ちの悪い魔力が残留してるわね」
ヴァネッサの気持ちの悪い魔力ってのは理解できないが、エリクシラが指摘した部分と俺が指摘した部分はそれぞれ内側と外側から破壊されている。これはどう考えてもおかしいだろう。
「文字……でしょうか? 古代文字とも違う記号のようなものですが」
「……暗号、じゃないか? こんなに短くまとまった文章を書いたりしないだろ」
「暗号だとしても何故、城の壁に?」
「さぁ?」
学者ですら全く見当が付かないようなものばかりなのに、ちょっと本で勉強しただけの俺らにわかる訳がない。
「外が随分と騒がしいと思ったら、まさか客人とはね」
「っ!?」
「
廊下を確認してからぶち壊れた広前へと足を踏み入れた瞬間、奥の椅子に座っていた女が話しかけてきた。俺は咄嗟にウルスラグナを抜き、エリクシラは迷いなくグリモアを起動、ヴァネッサは呆然としたまま突っ立っていた。
「何者だ」
「それはこちらの言葉なんだが……まぁいいや。私の名前は繝ォ繧キ繝輔ぃ繝シ、螟ゥ譌さ」
「なんて言いましたか? 全く聞こえなかったんですけど」
「ちゃんとした言葉で話しなさいよ……テオドール?」
繝ォ繧キ繝輔ぃ繝シに螟ゥ譌、だと?
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