第113話 ロボット

「……どれだけ長く描けば気が済むんだよ」

「そういう描き方ってだけじゃないの? 下には多分、当時の街並みみたいなものが描かれているんだから」


 壁画を見つけてから頭か尻尾を求めて壁画を眺めながら歩いているのだが、ずっと胴体が描かれている。壁画の上部にはひたすらクラディウスの胴体だけが描かれているのだが、ヴァネッサの言う通り下の部分には当時の街並みらしきものや、王族のようなものが冠を持っているようなことも描かれている。


「これ、もし人間の国がクラディウスによって崩壊しましたって絵だとしたら……シンバ王朝よりも更に前の時代を描いているものにならないか? シンバ王朝の遺跡にその王朝が滅んだ壁画は描かないだろ?」

「だとしたら、これは4000年前の出来事ってことですか?」

「それはわからないけど……」


 それか、シンバ王朝が滅んだ後に魔族がこの壁画を描いたか。ただ、そっちだとしても何故こんな地下の遺跡内にそんなものを描く必要があるのかって話になる。

 壁画は雄弁に過去の歴史を描いているが、これを描いた者の考えってのが全く伝わってこない。


「待て、なんか変な音してないか?」

「え?」

「気のせいじゃないの? ここに来てから変な罠ばっかりだからカリカリしてるのよ」


 ヴァネッサがこちらを小馬鹿にしながら肩を竦めたのと同時に、俺はヴァネッサの頭を抑えつけて姿勢を低くさせた。チカっと一瞬だけ光と共に何かが俺の横を通り抜けていき……数秒後に背後で爆発音と共に天井が崩れる音がした。


「敵だ」

「またぁ!?」

「どうしますか?」

「……この壁画はゆっくり見たい。倒すしかないな」


 さっきのナグルファルとは違って、無視して走り抜けるなんてことはできない。この壁画に描かれているクラディウスこそが、俺たちの求めていた情報なんだから。ただ……今の攻撃を見る限り、暴れられると壁画が粉々に吹き飛ぶ可能性の方が高い。


「俺が今から行って叩いてくるから、2人は極力壁画を破壊されないように守ってくれ」

「わかりました」

「わかったわよ……契約されてるから逆らえないし」


 そこまで行動を縛った覚えはないから、普通に断れると思うんだが……なんなの、そのちょっと押しが弱いツンデレみたいな性格は。


 再びチカっと光ったので迷いなく偽典ヤルダバオトを発現させて魔力を吸収する。偽典による魔力の吸収で無効化できるなら、少なくとも吸収の限界が来るまでは壁画を守ることができる。

 身体に雷を纏って無理やり身体能力を上げて前方へと向かって駆ける。さっきまでだらだらと歩いていた長い通路を一瞬で抜けていき……飛んできたビームを偽典で吸収する。2発吸収した時点でかなり熱を持ち始めているので、かなりの魔力量だ。


「っ!?」


 数秒間全速力で走った結果、再び大広間のような場所へと飛び出した。同時に、目の前で人型の機械が手からビームを発射してきた。今度は単発ではなくしっかりとレーザーのようなビームで、偽典で吸収しようにも続けられると堪えられそうにないぐらいの出力だ。


「舐めんなっ!」


 ただし、俺の偽典はただ魔力を吸収するだけの剣ではない。吸収した魔力を発散するように突きを繰り出し、溢れ出した魔力がロボットのビームを切断しながら腕を両断した。

 左腕を破壊されたロボットはすぐに顔をこちらに向けてきた。地上と地下で襲ってきたナグルファルと違い、瞳のようなレンズが人間のように2つついているロボットは、こちらを敵の1体と認識したようだ。

 暗くてよく見えなかったが、機体は青く塗られているし、所々に武装らしきものが見える。ナグルファルが量産機体だとしたら、こいつは高性能の少数しか存在しない機体ってことになるのか?

 俺よりも少し大きいぐらいで、巨大ロボットって訳ではないんだが……妙な威圧感がある。


「排除」


 喋った!?

 短い言葉と同時に左腕の残っていた部分を切り離しながら、ロボットは急速に接近してきた。速度としてはナグルファルと同じぐらいだが、動きが直線的なそれではない。周り蹴りを屈んで避けてから、カウンター気味に偽典を振るったが当たり前のように避けられた。


「敵対対象の戦力を分析、片腕での戦闘勝率12%……修復機能展開」


 修復って言葉聞こえた瞬間に、俺は偽典を投げつけてからウルスラグナを抜き、炎魔法を投げつけた。

 ロボットだから感情があるかどうかは知らないが、極めて冷静に偽典を避けながら左腕から魔力を放出している。俺が放った炎は避けることもなくそのまま受け……ウルスラグナは修復した左腕で受け止められた。


「っ!?」

「敵対対象の戦力を上方修正、勝率23%」


 偽典を引き戻して二刀流で攻撃を仕掛ける。ナグルファルと同じようなロボットならば、狙うべきは魔力を生み出している頭の部分だ。

 偽典とウルスラグナによる斬撃は両腕によって防がれたが、追加で魔法で生み出した剣を射出して頭を狙う。しかし、頭に当たる前にロボットが展開した34によって防がれた。


「はっ!?」

「敵対対象の戦力を上方修正……勝率52%」


 俺を相手にして52%も勝てるってか? 上等だクソ機械人形が……徹底的にぶっ壊してやる!

 ウルスラグナに魔力を流し込んで切れ味を上げ、掴んでいたロボットの指を切断してから偽典を消す。偽典ヤルダバオトは俺のグリモア……掴まれたところで消してもう一度発現させれば問題はない。


「損傷を確認。敵対対象の戦力を上方修正、勝率34%まで下降……修復機能展開」


 さて、その戦力分析はどこまで追いつけるかな!

 修復の為に腕を切り離した瞬間に、俺はウルスラグナから魔力の刃を飛ばしながら魔法剣を複数射出する。腕が3本になったら対処だって難しくなるはず。そして、奴はロボットだ……だから、思考の空白を突くような必要はない。真正面からぶっ叩く!


「敵対対象の戦力を上方修正、自己制限解除、勝率98%」

「は?」


 勝率の言葉を聞いた次の瞬間に、ロボットはいきなり光り輝きながら……俺の背後に回り込んでいた。咄嗟に偽典を振るうが、更に俺の背後に回り込まれる。

 これは……速いんじゃなくて、定点移動による瞬間移動か!?


「勝率100%」

原典デミウルゴス


 俺の両腕を掴んで勝利を確信したロボットの顔面に、右手に指輪として収まっていた原典デミウルゴスが黒い槍となって突き刺さった。

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