第111話 罠の先
シンバ王朝遺跡……聞いていたよりもイカレた場所である。
ナグルファルと名付けられた人形共はポコポコと出てくるのに、普通に強い。エリクシラが
「貴方がもっと本気出せばすぐに終わると思うんですけどね!?」
「おいおい……こんなところで本気出したら遺跡がぶっ壊れちゃうだろ」
一番面倒くさいのはそこだ。
俺がグリモアを解放して魔法を使用しながら大暴れすれば、確かにもっと楽に片付くかもしれないけど……シンバ王朝遺跡のような歴史的に価値がある建造物を破壊するなんて俺にはとてもできないことだな。だから、ウルスラグナに魔力を纏わせて最低限の攻撃しかしていないのだが、ナグルファルはそんなのお構いなしにビームを放って来るから厄介だ。
大通りを進んで城跡に近づいていくほどに、襲ってくるナグルファルの数が増えていく。
「えぇい面倒くさい!」
「派手な魔法は使うなよ」
「そんなこと言ってられません」
エリクシラがブチギレて周囲の全てを巻き込んでナグルファルを倒そうとし始めた時、運がいいのか悪いのか……俺とエリクシラは罠を踏んでしまった。
異常な浮遊感に下へと視線を向けると、罠が発動して地面が割れていた。
「嘘だろっ!?」
「なにやってんのよ!?」
全く罠なんて気にせずにナグルファルを警戒していた俺とエリクシラは、同時に落とし穴に落ちそうになったのだが、ヴァネッサが手を掴みながら飛んでくれたおかげでなんとか落ちずに済んだ。
「重いからさっさと引き上げるわよっ!」
「す、すまん、頼む……ヴァネッサ!」
「え」
すぐに上に引き上げてくれとヴァネッサに頼もうとした瞬間、ナグルファルの1体が俺たちの手を掴んで飛んでいるヴァネッサに向けて突進してきた。ギリギリでナグルファルの突進を避けたヴァネッサが安堵の息を吐いた次の瞬間、ナグルファルは自らの心臓部であるコアを暴発させて自爆した。
「しまっ!?」
「うぉぉぉぉ!?」
「落ちてますよっ!?」
「なんとかできないのかエリクシラ!」
「無理ですー!?」
くっそ、こんなことになるのならエレミヤから空を飛ぶあの魔法を教えてもらえばよかった! エリクシラの
俺たちの中で唯一飛べるのはヴァネッサだけだったのに、ナグルファルの自爆のせいで羽根をやられているようだし、治って空を飛べるようになるよりも先に落下する方が早い!
「くっそっ!」
苦肉の策として、エリクシラとヴァネッサを抱き寄せてから自分を中心として斥力を発生させて落下する力を軽減する。10メートル以上落ちていた感覚だが、斥力のお陰で怪我をすることもなく落下することができたが……上を見てもかなりの距離があるように見える。なにより、ヴァネッサの傷が治って外に出られたところで……外にはナグルファルが大量にいることを考えると、もう一度落ちるだけだしな。
「大丈夫か?」
「な、なんとか……」
「普通に死にそうよ」
「そう言えるうちは死なないから安心しろ」
魔族の治癒能力があれば死ぬことはないだろうが、ヴァネッサの傷が小さい訳ではないので無理はさせられないな。それよりも、俺たちが落ちてきた場所は……かなり広いな。てっきり串刺しトラップみたいなものでもあるもんだと思っていたが……暗い空間に落とされただけだ。
「何か見えますか?」
俺が手から炎を出して周囲を明るくしていると、エリクシラが近づいてきた。
「……あっちに進めそうな道はある。だが、落とし穴の先にこんな通路があるなんて、明らかに罠ですって言ってるようなもんだろ」
「そうですけど、上に戻るって選択は」
「無理だろうな」
上に戻って狙い撃ちにされるか、このまま進んで罠にはまるか……嫌な場所だな。
だが、これだけの防衛能力が存在している都市だったのだとすると……やはり古代王朝はなにかしらの勢力と常に争っていたことになる。それが魔族だったのか人間だったのか、それともまだ発見されていないなにかだったのか。それはわからないが……ヒントはこの王朝遺跡に隠されていると思う。
「進もう。それ以外の選択肢はない」
「でも」
「それ以外の選択肢はない、と言った」
他に道はなさそうだし、上でナグルファルが動いている音も聞こえてくる。ここでグズグズしていたら、そのうち上からどんどんナグルファルが降ってきそうだ……さっさと進まなければ。
ヴァネッサを立たせてから、暗闇の中を手探り状態で歩く。地上にあったようなトラップがこの場所に無い訳がないので、炎で照らして周囲を確認しながらゆっくりと進む。
「……燭台?」
「壁にずらりと掛けられていますね……灯してみますか?」
「いや、そもそも何を燃料にして燃えるんだ? 蠟燭があるようには見えないが」
左右の壁には金色の燭台がいくつも掲げられ、そのままずっと奥まで広がっている。やけに豪華で派手な通路だが、ここが落とし穴の先にあった場所であることは忘れてはいけない。
「灯しちゃいますからね」
「……」
暗いことを嫌がったのか、エリクシラはすぐに炎の魔法で燭台に近づいていき……俺がその首を掴んで思い切り引っ張った。
「ひんっ!?」
「敵か?」
エリクシラが灯そうとした燭台の近くに、通路の奥から矢が飛んできた。トラップ式の仕込み矢なんだろうが……それにしてはなにかを踏んだような様子もなかった。なにを感知してエリクシラに対して矢を放ったのか、それがわからないと動くに動けないんだが。
「っ! また来たわよ!」
「魔力か」
俺が周囲を確認するために再び炎を掌に出現させて1歩踏み出した瞬間に、奥から高速で矢が飛んできた。飛んできた矢を素手で掴むと、矢の先が肉に食い込むように作られていることがわかった。そして……先には毒が滴っている。
「嫌らしい罠だな」
「どうするのよ。魔力に反応して矢が飛んでくるのに、暗くて足元は見えないのよ?」
「……強行突破だ」
「え」
「嘘ですよね?」
エリクシラとヴァネッサを抱えて、斥力を発生させながら走る。
「馬鹿ーっ!?」
「ありえないですぅぅぅぅっ!?」
これが一番速いんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます