第110話 シンバ王朝遺跡
進級してから3か月ぐらい経った。
エルグラント帝国と西側諸国の戦争は相変わらず一進一退の泥沼状態らしく、クロスター王国とクーリア王国が支援していると言うのにこの状況とは、西側諸国の国力がわかる。
終末の竜「クラディウス」に関しては……これと言った有用な情報は得られていない。ヴァネッサに魔族から情報を持ってくるように伝えたが、どうやら本当に魔族の中に2000年前から生き残っている魔族が殆どいなかったようだ。それに、ヴァネッサが人間に契約によって縛られていることも関係しているだろう……俺の感情としては、別に契約を解いてやってもいいが……そうすると絶対に協力してくれないしな。
拒否感を示す人間の方が多いと思うが、俺は魔族と協力して共存していくのは悪いことだと思わない。まぁ……魔族が住んでいた大陸にやってきて、いつの間にか因縁ができて絶滅戦争をしちゃうような間柄だから、仕方ないと言えば仕方ないけれど。
この3か月、俺はずっと色々な場所を下見しながら授業を受けていた。気温が高くなってくる季節には、授業の区切りとして長期休暇が与えられる。その期間に実家に帰るような人もいれば、学園に残って自主的に補習を受けたりする人もいるようだが……俺は前々から計画していた2000年前の王朝遺跡に向かおうと思っている。
「本当についてくるのか?」
「当たり前です。シンバ王朝遺跡に立ち入ることができるなんて、普通じゃありえないんですよ?」
「そうか……よくわからないけど」
俺は調べるまでそのシンバ王朝遺跡という名前すらも知らなかったんだが……一般人の立ち入りが禁止されている王朝遺跡だが、今回は俺のコネで特別に調査させてもらえることになった。
「それにしても……副総長の息子って便利な立場ですね」
「な。もっと早く知ってたら色々と便利に使ってたわ」
王朝遺跡に一般人が立ち入らないように監視するのも魔法騎士の仕事なのだが、父さんのコネを使って特別に入れてもらえることになった訳だ。
ちょっと悪いことにコネを使って入ろうとしていた俺に、ついてくると言って聞かなかったのがエリクシラ。本を読むことと魔法騎士になること以外にそこまで興味を示さないエリクシラにしては珍しく、王朝遺跡に行くという俺に絶対に同行したいと言い始めたのだ。どうやら、失われた技術が多くあるというシンバ王朝に興味があるらしい。
「楽しみですね……古代魔術に関して発見があるといいですが」
「そんな数日調査したぐらいで見つかるなら、国の考古学者がとっくに見つけてるだろ」
「わかってないですねぇ……こういうのは浪漫と運命ですよ」
へー。
浪漫を語るエリクシラ、そしてなにかの参考になるかもしれないと思って強制参加にさせたヴァネッサの3人でシンバ王朝遺跡へと向かう。
「む、ミスラ副総長の息子さん……テオドール・アンセムさんですね」
「そうです」
「お話は聞いています。中には古代の魔術によって仕掛けられた罠などが残っている場所もあるといいます、充分に気を付けてください」
挨拶してくれた魔法騎士の人は……胸の紋章的に第4師団の人かな。
第1師団が王都中心部、第3師団がクロノス魔法騎士学園、第5師団が王都外郭部と、それぞれがそれぞれの場所を守っているが、第4師団はこういうところを守っているのかな。
「私が付いていってもなにもわからないと思うんだけど……なんで私が一緒に行かなきゃいけないのよ」
「お前の方が長生きだから」
「適当ね!?」
長生きなのはいいことだろ。
後ろで騒いでいるヴァネッサを無視して、王朝遺跡へと足を踏み入れる。中心に元々は城だったのであろうデカイ瓦礫の山、周辺にはその城下町だったのであろう建物群……敷地はクロノス魔法騎士学園よりも遥かにでかいな。
「気を付けてくださいね……このシンバ王朝遺跡は、外敵を警戒して作られたのではないかと推測されているぐらいには、罠が多いらしいですから」
「じゃあ街ってよりは、城を中心にした砦だったのか」
「そうじゃないですかね……当時のシンバ王朝が、なにと戦っていたのかは知りませんが」
「魔族じゃないの?」
「違うわよ」
違うのか。
取り敢えずは大通りらしき場所を普通に歩いている。ここら辺の罠は考古学者たちが解いてしまっているらしいので、大通りから中心の城跡までは安全なはず。ただ……魔法騎士がそれなりの人員を使ってこの周囲を封鎖している理由が、この遺跡を歩いている。
「……あれが、噂の?」
「そうですね……原理は不明ですが、2000年以上前から動き続けている、人型の魔導兵器です」
大通りを歩いていた俺とエリクシラの視線の先には、苔が生えてボロボロになっている岩の塊のような人型兵器が存在していた。国の考古学者たちが満足に調査できていない原因の1つである、人型魔導兵器「ナグルファル」だ。
「撃って来るかな」
「間違いありませんね」
「そっか」
「
エリクシラはさっさと戦闘準備に入った。
エリクシラの魔力に反応したのか、ナグルファルはこちらに顔と思わしき部分を向けてきた。顔にはレンズのように光る部分が1つ……1つ目の顔のようにも見えるが、やっぱり動きは人間らしくない。真っ白な岩で身体が構成されているはずだが、機械のような駆動音を響かせながら、足裏から炎を噴射してこっちに飛んできた。
「ふっ!」
俺が剣を構える前に、エリクシラは神秘の書に記録されている魔法を展開していた。ジェットエンジンみたいな動きでこっちに飛んできていたナグルファルは、空中で巨大な手に掴まれたかのように動きを止め、エリクシラが手を振るのと同時に地面に叩きつけられた。
「危ねっ!?」
それだけで一気に腕と足が取れたので終わりかなとか思っていたら、顔だけこっちに向けてレンズからビームを放ってきた。そのまま放置したらエリクシラが攻撃されそうだったので、咄嗟にウルスラグナで弾いたら、次の瞬間にはエリクシラが再びナグルファルを地面に叩きつけていた。
「あの状態からまだ動くとは思いませんでした」
「俺も……まぁ、初見だしな」
資料で幾つか見たけど、実際に自分の目で見たのは初めてだから仕方ないさ。まだ俺とエリクシラ、ついでにヴァネッサだって無傷なんだから大丈夫だって。
それにしても……マジで機械人形って感じの動きと性能をしているのを見てしまうと、もしかしたら2000年以上前の技術って、今の人間より上だったんじゃないかな。
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