第109話 山賊退治は簡単だった

「よし、ヴァネッサは自分の家に戻ってクラディウスの情報を仕入れてこい」

「……そんなこと言われて戻って、情報が集まるのかしら。大戦の生き残りはそれなりにいるけど、クラディウスが現れた時代の生き残りなんて殆ど残ってないわよ」

「なんでもいいから、情報を貰って来てくれ」

「契約してるから言うこと聞くけど……大した情報なかったからって殺さないでよ?」


 俺がそんなことするような人間に見えるか? と言うか、俺がエレミヤと戦っている姿を見てから露骨に俺に対してきつい言葉を使わなくなったんだけど、どんだけ怖がってんだよ。


 ヴァネッサには取り敢えず魔族の暮らしている場所まで戻って、少しでも情報を持ち帰ってくることを命じた。正直、そこまで期待はしていないが……俺たちが闇雲に探すよりはマシだろう。グリモアの謎、クラディウスの脅威、西側諸国の問題、解決しなければならないことは沢山あるが、今は学生として過ごしながら少しで対策を考えていこう。

 こうなってくると、学生って立場が一気に狭苦しく感じるな……もっと自由に動ける立場だったら、いっそのことエルグラント帝国の助太刀って言い分で西側諸国へと渡るんだが、学生だとそうも言ってられない。


「アイビー、なんとか西側諸国の情報を持ってこれないのか?」

「それ、こっちでも色々と探っていますが……どうにも向こうの警備が固くなっていますね。多分、この間の建国祭のせいだと思うんですけど」

「相手が密偵を警戒しているってことか?」

「警戒しているって言うか……問答無用で殺そうとしていると言うか」


 えげつないなぁ……冤罪で裁かれた人間も大量にいそうだな。

 なんでそこまでして西側諸国はこちらに喧嘩を売るのか……土地の問題ってのもあるんだろうけど、結局は連合ってこともあって引き際がなくなっているのかもしれないな。西側諸国だって一枚岩ではないだろうし、だからと言って今すぐに分裂することもできないって感じかな。


「はぁ……」

「集中した方がいいんじゃない?」

「こんな生温い訓練で、か?」


 俺とアイビーが雑談している横から、ゆっくりとこちらに歩いてきたエレミヤ。

 現在、俺たちは山の麓にいる。2年生になると序列が高い者たちが学級として集められて、成績優秀者だから実戦訓練が多くなるとは聞いていたのだが……まさか学生に魔獣退治と山賊退治を任せることがあるとは思わなかった。

 魔法騎士になったら人を殺すのが当たり前になるのだから、学生のうちから慣れておけってのも理解できるんだが、だからって山賊退治に学生を利用するなよ。


「そろそろ接敵します!」


 俺たちと一緒に行動することになってしまった……名前も覚えていない序列が30位ぐらいの女子生徒が、俺たちに敵が迫ってきていることを教えてくれた。4人1組で動いているのだが、こんなメンバーで固まったら山賊なんて欠伸してでもなんとかなるわ。


「っ!? こっちにもガキがいるぞ!」

「包囲されてやがる! やっぱり罠だったんだ!」

「くそったれ! こんな美味い話がある訳ねぇって言っただろうが!」


 ふむ……どうやら、魔法騎士側で情報を操作して山賊どもをここら辺におびき寄せ、4人1組の学生たちに包囲させながら殲滅させるってのが作戦かな。そうすると、背後には魔法騎士団が後詰として残っているから余所の所まで敵を倒しに行く必要はないな。


「数は?」

「あ、7です!」

「さっさと終わらせるか」

「了解」


 俺がウルスラグナに魔力を纏わせ、エレミヤは魔法を発動、アイビーはいつも通り微笑みながらグリモアを起動。


「しっ!」

「はぁっ!」

死の翼サリエル


 俺の放った魔力の斬撃が山賊2人の首を刎ね飛ばし、エレミヤの放った光の刃が山賊2人の身体を消し飛ばし、アイビーから伸びた影が山賊2人の心臓を貫いた。


「ひっ!?」

「終わりっと」


 さくっと最後の1人を殺して、山賊退治は終わった。序列30くらいの彼女には手柄がなくて悪いと思いながらも、俺たち3人ならさっさと片付けられるから楽だったな。山賊なんて所詮、冒険者にすらなれなかったゴミだからな……そうなるしかなかった人間には同情するが、それとこれは別。所詮、賊は賊だから仕方ない。


「あ……ご、ごめんなさい……うっ」


 あー……魔法騎士になるのならさっさと割り切れよ、ぐらいにしか思ってなかったけど……普通に考えて、今まで蝶よ花よと可愛がられて育ってきた貴族の人間が多いクロノス魔法騎士学園で、いきなり人の死を簡単に見せられると吐き気もしてくるか。実戦演習自体は今までも何度かあったけど、人を殺したのは初めてだもんな。

 俺の周囲にいる人間が、基本的に敵を殺してもあんまり気にしない奴ばかりだったから忘れてた。


「無事……なようだな」

「1人は無事じゃないですよ」

「……逆に、学生なのに平然と人を斬れるお前らの方がおかしいんだがな」


 ちょっと経ってからやってきた魔法騎士の教官は、転がっている7つの死体を見てから呆れたようなため息を吐いた。エレミヤはイケメンポイント稼ぎに、気持ち悪そうにしている彼女の背中を撫でてあげていた。ああいうところが女にモテるところなのかな……ただしイケメンに限るって奴な気もするけど。


「こちらの想定以上に山賊の数が多かったが、怪我をした生徒はいない。やはり今年の代は優秀だな」

「……そもそも怪我する前に割り込めるように、すぐ近くにいましたよね」

「そこは気が付いてなかったフリをしてやれ、アイビー」

「気が付いていたなら、なんらかの反応を見せろ」


 えー、だって授業なんだから「先生助けて」なんて言える訳ないじゃん。そもそも、諜報員として育ってきたアイビーは周囲を警戒する能力も高いんだから、すぐにバレるのは仕方ないって。


「全く……才能がある人間と言うのは、どうしてこうも問題児ばかりなのか」

「それ、自分たちの師団長にも言ってやってくださいよ」

「……確かに、リエスターさんは問題児だな」


 でしょ?


 実戦訓練はさっさと終わったが、結果的になにかを得た訳ではない。

 マジで、長期休暇の間にでも行って情報を求めるかな。2000年前のなら、もしかしたらクラディウスに関係あるものが残っているかもしれない。それに……古代魔法にも興味あるしな。

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