第105話 偉い人と対策会議

「魔族か……考えもしなかった情報源だな」


 ヴァネッサから取り敢えず有用そうな情報を聞き出した後に……クロノス魔法騎士学園に重要な人を何人か呼んだ。

 古書館の椅子に座って縮こまっているヴァネッサ、その横で本を読んでいるエリクシラ、興味深そうにヴァネッサを観察しているエレミヤ、全く興味がなさそうなヒラルダ、欠伸をしていてあんまり話を聞いていないニーナ、なにかを紙に書き込んでいるアイビー、優雅に紅茶を飲んでいるエリッサ姫とアッシュ……そして、俺が呼んだ本命の人たち。


「魔法騎士団にもこの情報はしっかりと伝えておいた方がいいと思いまして」

「そうだな……これが真実だとすると、確かに国の危機」

「……フローディル殿が言っていた終末か」


 腕を組んで紙に書かれた内容について考え事をしている父さん、父さんの言葉を待っているセルゲイ総長、その横でフローディルのことを思い浮かべているであろうボールス第1師団長。


「終末の竜クラディウスか……文献にそのような存在が描かれているとは、確かに聞いたことがあったが……神話のようなもので、実在するとは思っていなかったな」

「私も、なにかの比喩表現だとばかり」


 まぁ、過去の神話って結構ただの比喩だったりするしな。火山が大噴火したのを「神が怒った」みたいな記述で残すようなもんだな。ただ、今回の終末の竜クラディウスに関しては……マジで存在しているやばい奴っぽい。


「東の海からやってくる……確かに、東の海は人類にとって未踏の場所。船よりも遥かに大きい海獣の群れが縄張りとして暴れまわっている場所だからな」


 やっぱりその海の方がよっぽど終末なのでは?

 セルゲイ総長の言葉を聞いている感じ、マジで人間も東の海を越えたことがないみたいだし……クラディウスはどこからやってくるのか一切わからないって感じか。


「…………重要な部分は記憶させてもらったよ。これは確かに、騎士団に持ち帰って国の上層部と話し合わないといけないことだ……総長」

「だがなぁ……モーグス殿は理解を示してくれるだろうが、それよりも上になると……貴族たちも目に見えない脅威に対しては金を出し渋るだろうし」


 いや、目に見えない脅威って……この間、ちょっとした戦争があったばかりだろう……俺が起こしておいてなんだけども。


「国としても、今はエルグラント帝国への援助がある関係上、大きくは財政を動かすことも難しい……これ以上、国民の負担を増やせば西側諸国に攻められたことと合わせて、反発も大きくなってしまうだろうし」


 うーん……ボールス師団長の言っていることも半分ぐらいは理解できるが、やっぱり俺に政治はわからん!


「とにかく、国としても終末の竜に対して少しでも対策を考えて欲しいんです。正直、学生の俺には手に負える事態じゃないので」

「うむ、確かにこれはしっかりと対策を立てなければ話にならないが……我々の対策だけで本当に対抗できる相手なのかが問題だな」

「ドラゴンハートの名が泣きますよ、総長」

「ミスラ……息子の前でちょっと格好つけるのやめろ」


 あ、それは言われなくてもわかってるから大丈夫。なんか父さん、ちょっと格好つけてるなーって、見ればわかるから。


「だから、クラディウスに対抗しようなんて馬鹿のすることだって言ってるじゃない。あんなの生物が勝てる相手じゃないんだから、普通に逃げて隠れればいいのよ」

「……ですって」

「そう言う訳にはいかない。私たちが住んでいる土地を荒らさるのを、震えて待っているのでは魔法騎士の名折れだ」

「それが無駄だって言ってるのよ。クラディウスだって逃げ隠れする奴をわざわざ追いかけて殺しに来ることなんてないんだから、素直に最初から隠れてればいいの。震えて待っていたら名折れとか、そんな無駄なプライドの為に種族そのものを危険に晒すのは馬鹿のやることだって言ってるのよ」

「ヴァネッサ、口を閉じて」

「んーっ!?」


 これだから人間は馬鹿なのよ、みたいな態度で嘲笑いながらセルゲイ総長の言葉を否定したヴァネッサは、俺の言葉によって簡単に口を閉じた。

 ヴァネッサ・ゲルズ・パウロネス・ヴァン・ヴィクターの名前を指定して、俺とエリクシラを主として契約魔法を結んである。今のヴァネッサは俺とエリクシラの命令には基本的に逆らうことができない状態なのだ。


「……総長、言葉は汚いですが彼女の言うこともあながち間違いではないかと」

「ミスラ、臆しているのか?」

。終末とまで呼ばれる生物など、既に生物の域を超えています……人間が対抗できないと魔族が言うのも、納得できると言うものです」


 まぁ、事実として1つの王朝が滅んでいるんだから……クラディウスは確かに人間にとって終末そのものだと言える。対抗するには、きっとなにかしらの策が必要だ。それも……人知を超えたなにかでないと。


「発言してもいいかしら?」

「エリッサ様? どうぞ、なんでもおっしゃってください」

「ありがとう……フローディル内務卿はその終末に対抗しようとしていたのよね?」

「あぁ……具体的な方法を持っていたのか知らないが、少なくとも対抗しようとは考えていたみたいだな」


 アイビーにそこら辺を聞いてみたが、諜報員としても結構な下っ端なので知らされていないことが多いから知らない、とさ。ここまで優秀なアイビーが下っ端なのかとも思ったが、どうやら生まれた時からの諜報員で、フローディルの下で働き始めて間もないのだとか。


「残していた資料なんかはないのかしら? あの人がそんな無計画に対抗しようなんて思えないのだけれど……」

「それは、そうだな」


 なにかしらの対策方法が無ければ、無限に時間を巻き戻したところで勝てるものではないし……なにかしらの対策方法は考えていたんじゃないかな。富国強兵の先にそのなにかがあったのか……それとも、そのなにかを手に入れたから富国強兵を進めようとしていたのか、死人には口がないのでわからないが……調べてみる必要はあるかもしれない。


「本当は他国にも協力を要請したいのだが……エルグラント帝国は戦争中で、クロスター王国はその援助で忙しいからな。西側諸国を大人しくさせることができれば、どうにかなるのだろうが」

「無理じゃないですかね」


 あいつら、この国よりも終末の竜について知っているはずなのに、余所の国に喧嘩売っちゃうような馬鹿だからな。

 


 

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