第104話 終末を乗り越えたい
「今と昔の魔族の違いって、なにを言えばいいのよ」
エリクシラの脅されているヴァネッサは、言い辛そうにしながらも口を開いた。
「戦争でどう生活が変わったのか、そもそも戦争前は人間と交流があったのか……そこら辺ですね。後、知っているのなら昔の有名だった魔族の名前とか」
「知っている範囲でいいのよね?」
「はい……嘘を吐かなければ」
「い、言わない! 嘘は絶対に言わないから殺さないで!?」
あはは……俺の方からエリクシラがどんな表情でヴァネッサに詰め寄っているのか見えないが、結構怖そうな顔をしているな。エリクシラって、普段は教室の隅で本を読んでいる陰キャみたいな感じの癖に、イラっとすると結構荒っぽい面が出るからな。先祖が殺戮騎士なんて言われてるんだから納得だけど。
「せ、戦争前は南の半島を中心に魔族は国を築いていたのよ。基本的には人間の君主制と同じだけど……魔族の王様は血族じゃなくて、1番賢い人が王様になるの」
「賢い人? それは、強さや魔力の量とかではなく?」
「賢い人なの……なんでも、強さよりも賢さの方が生き残るには大切だから、とか……私も納得できていないけど」
ふむ……まぁ、俺は納得できるな。
国のトップである王様が、必ずしも強い必要はない。逆に、国のトップである王様は、必ず賢い者でなければならないだろう。力だけの暗愚など、国王になったら即滅亡しそうなものだ。
人間に伝わっている魔族の王って言うと、滅茶苦茶強くて最強みたいなイメージなんだが……実際はそうでもなかったってことか。
「賢い奴が王様になるなら、なんで戦争になんてなったんだ?」
前世で有名だった「孫子」の兵法書にも書かれていることだが、戦争なんてものは起こった時点で悪いことで、本当に賢いものは戦争なんて愚は起こさない。賢い奴が王様になるのだったら、そもそも戦争なんて簡単には起きないはずだが……人間側が無意味に侵略したとかかな。
「戦争が起きた理由は……当時の人間と魔族、両方の王様が馬鹿だったから」
「……うーん、普通」
だよね。
「本当なら賢さの方が優先されるべきなのに、力がある奴が無理矢理王様になって……人間の国も魔族が住んでいた土地が欲しくて積極的に戦争にした」
アクラレン半島には豊富な資源があるからな。恐らく、文明の発展と共に素材が必要になり……アクラレン半島が欲しいと考えるようになったのだろう。
「じゃあ今は?」
「山の中で、ひっそりと植物を育てたりして生きてる」
「植物?」
「ポポの木……魔素を放出する樹木で、私たちにとっての食料みたいなもの」
へー……そんなものが存在するのか。
確かに、人間は大気中の魔素を取り込んで、体内で魔力に変換しているから、減った分の魔素はどこから来ているのだろうとは思っていた。実際、そこら辺がわからなくて、放たれた魔力が再び魔素に変換されているのではとも言われていたが……そんなものが、そのポポの木とやらが魔素に変換しているのかな?
「人間の土地にだっていっぱい生えているじゃない」
「そんなもの見たことありませんが」
「もしかして……あれ?」
「そうよ」
古書館の窓の外に見える背の高い樹を指差したら、普通に頷かれた。
あー……魔素って人間には視認できないからな。あんなただの街路樹が変換の役割をしていたとは。
「では、過去の魔族は人間と交流していたのですか?」
「知らないわよ。私生まれてないもの……でも、お婆ちゃんは人間はゴミってお母さんから教えてもらったって言ってたわ」
「じゃあなかったな」
当時から、人間と魔族はそういう関係だったと。
「有名な魔族は?」
「さぁ……十把一絡げに殺戮騎士の被害者扱いされてるけど」
「……じゃあ魔族についてはこれでいいです」
あ、殺戮騎士の名前が出てきて逃げた。
「初代魔法騎士団については?」
「知らない。そもそも、魔法騎士ってなによ……騎士なの、魔法使いなの?」
「殺戮騎士が立ちあげた流派」
「う……すいませんでした」
殺戮騎士って名前出すだけで魔族って謝るものなの? もしかして、いい子にしないと殺戮騎士がやってきて殺されるよって教えてるの?
「グリモアについてですね」
「グリモアは……魔族を殺すための技術だってお婆ちゃんは言ってた」
「へー……魔族はグリモアが使えないのか?」
「……そう言えば使える奴はいるかも」
じゃあ違うじゃん。
「でも、人間がグリモアを使い始めてから、魔族との力関係が逆転したって」
「待て、グリモアを使い始めてから? 人間がグリモアを使えなかった時代があるのか?」
「え? そ、そうなんじゃ……ない?」
マジか……だとしたら、なにかしらの外部的な影響で人間はグリモアが扱えるようになった可能性が、あるのか? 魔族は遥か昔から存在しているから、その「なにかしらの原因」を知っている可能性があるのか。
「……最後に、終末の竜について」
「俺たちが一番知りたいのはそこだ。まず、終末の竜が最後に姿を現したのはいつだ?」
「クラディウスは……戦争の1000年ぐらい前、だった気がする」
大戦が約1000年前で、そこから更に1000年前……2000年前というのは、エリクシラが推測していた古文書の古代王朝の時期と合致する。やはり、終末の竜は2000年前に出現しているようだ。
「その2000年前、なにがあったのか知っているか?」
「え、確か……クラディウスが現れて、魔族もかなりの被害が出て人間は大半が死に絶えたって」
ヤバすぎるだろ。
しかし、この話だけでは何故クラディウスとやらが現れて破壊の限りを尽くすのか、そもそも2000年前から今までどこにいるのか……一切がわからないままだ。
断言できることは、実際にクラディウスが今現れたら……人類は抵抗することもままならずに、滅びるだろうということだけだ。
「あーくそ……なんで俺がこんな頭抱えなきゃならんのだ」
「落ち着いてください。まだ情報を集め始めたばかりですよ」
わかっている。
わかってはいるが……どうしたって滅ぶ未来しか見えん。人間どころか魔族にまで甚大な被害が出るような怪物だぞ。想像しただけで恐ろしいわ……どんだけ巨大な怪物なのか見当もつかない。
「貴方たち……まさかクラディウスに対抗する気?」
「悪いか?」
「馬鹿ね……魔族が今まで終末を乗り越えられてきたのは、刺激しなかったからよ。人間は前回もちょっかいをかけて消し飛ばされかけた……今まで種が存在しているのが奇跡なのよ?」
だとしても。
「いつ来るかもわからない脅威に震えながら生きるなんて御免だな」
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