第102話 拷問は趣味じゃないです

「なぁなぁ……そろそろ答えてくれよ。俺だってさ、他人を尋問するのが好きって変態趣味な訳でもないし、女性を虐めるのが性癖って訳でもないんだよな……だからさ、そろそろちゃんと答えてくれないかね? そうすればちゃんと拘束も解いてやるし、殺しもしない」

「し、知らないって! 本当に何にも知らないの!」

「知らない奴が、名前を聞いたぐらいでビビると思うか? よーく考えて嘘吐けよ……喋らないなら、このままずっと痛めつけることになるぞ?」

「良心とか無いの!?」


 魔族に対して可哀そうだなとか思うような心なんてある訳ないだろ。人間如きが、とか自分で言ってたんだからそこら辺は納得しろよ。


「やっぱ……ここで腕の1本ぐらい失っておくか? 魔族なんだから大気中の魔素を取り込んで回復するからいいだろ? ゆーっくりと腕に剣を差し込んでいくからさぁ……思い出した瞬間に知ってること喋ってくれていいぞ?」

「う、噓でしょ? ちょっと……本気?」

「大丈夫だって……治るんだろ?」

「痛いものは痛いのよ!?」


 だったら早く喋ればいいだろ……俺は別に痛めつける為にやってる訳でもないんだからな。

 偽典ヤルダバオトでやると、魔素を吸収しすぎてこのポンコツ魔族を殺しそうになるから、やるならウルスラグナだな。


「言う! 言うから! 降参するから!」

「はいはい……で、終末の竜について何を知ってる?」

「うぅ……」


 長命種の言葉ならある程度信用できる。ヴァネッサはまだ魔族として生まれて間もない餓鬼同然だろうが、彼女が仲間から聞いた情報は本当にその魔族たちが体感したものだろうから……情報の価値が違う。

 古代文字が解読できたとしても、その本に書かれていることが全て本当だとも限らないからな。情報は多角的に得るに限る。


「お、お母さんのお母さんが、昔に見たことがあるって」

「……祖母がってことか?」

「そう、なの」


 長命種って言うけど、魔族ってどれぐらいの頻度で子供ができたりするのだろうか……まぁ、そこら辺はどうでもいいか。

 祖母の時代に見かけたものが生きているのか……確か、古書館で発見した古代文字で書かれている本は、2000年ぐらい前の王朝によって書かれているのではないかと、エリクシラが推測していたが……それが本当なら魔族は1000年ぐらいで世代交代するのか?


は太陽を追いかけて遥か東からやってきて、その地の全てを破壊してから太陽を食らうために西へと消える……これが、お婆ちゃんの言っていた言葉よ」

「クラディウス?」

「貴方が『終末の竜』って呼んでる奴の名前……って訳じゃないけど、魔族にはそういう呼び名で伝わってる」


 じゃあ、あの古文書に頻りに出てくる固有名詞っぽいものは「クラディウス」でいいのか? 魔族の中に伝わっている名前だから、人間に伝わっている名前は別にあったのかもしれないが……とにかく、そのクラディウスとやらが終末の竜であることは間違いなさそうだ。


「東からやってきて西へと消える……この大陸から見てってことだよな?」

「そうよ……元々この大陸は魔族が住んでいたのに、後から人間たちが侵略してきたんじゃない」

「あー、そこら辺の話を聞くと長くなりそうだからいいわ」


 東から……そもそもこの国の東側ってどうなっているんだろうか。海の向こうには何の島もないって話だったが、確か海も空も原因不明の大荒れで近づけない、とかだった気がする。


「クラディウスとやらは東から来るらしいが、それはどこだ?」

「さぁ? 東の海は海獣の住処で、近づくことすらまともできないわよ。過去数千年、魔族たちも海獣の領域を抜けようとして……誰一人として帰ってこなかったらしいから」


 えぇ……そっちの方がよっぽど終末では?


「後は……しまった、エリクシラを放置したまんまだ」

「は?」

「もっと話が聞きたいから……解放せずに連れて行っていいか?」

「はぁぁぁぁ!?」


 仕方ないだろ、今は書店で本探し中だったんだから。



 取り敢えず俺の上着を着せてから、手足を拘束して背負って運んできた。背負われることに滅茶苦茶文句言われてもしたが、移動するにはこれが一番早かったから仕方がないだろ。

 王都の書店まで戻ってきたら、入り口の前で明らかに怒っている表情のエリクシラが座っていた。


「あー……遅くなった」

「そうですね、随分と約束の時間を過ぎていましたね。書店の中をぐるぐるとずーっと探していたんですけど、一向に見つかりませんでしたからね……誰とどこで何をしていたのか、教えてもらってもいいですか?」


 物凄い目が据わっている。デート中に抜け出して他の女と遊んでいたんだから、これは俺が悪いんだけども……流石にこれを見せれば納得してくれるかな。


「あの、これがね」

「……痴女? もしかして、私が書店で本を選んでいる間に昼間から娼館でも行っていたんですか? しかもその場で娼婦を縛って誘拐してきたと……通報させてもらっても……角?」


 あ、通報する直前に気が付いた。


「まさか……魔族、ですか?」

「そうそう……書店の中でいきなり襲われたから、ちょっと王都の郊外まで連れてってボコボコにしてきたところ」

「……貴方はなんでそう、自分から事件に巻き込まれていくんですか?」


 それは俺も知りたいよ。

 俺が魔族について知っている知識なんてたかが知れているが、エリクシラなら色々な本とかを読んでいるから、俺よりももっと詳しく尋問してくれるかもしれない。


「んむっー!?」

「あれ、これもしかして……生きてます?」

「生きてるよ?」

「…………流石に可哀そうだと思いますよ」


 えー?


 エリクシラに言われたので仕方なく、拘束を解いて書店の裏路地へと連れて行った。


「はぁ……現代の人間がこんな常識知らずな化け物だけじゃなくて助かったわ」

「災難でしたね……この人は人間の中でも異端なので、気にしないでください」

「やっぱりそうよね。ついに人間もこんな所まで進化してしまったのかと思ってしまったわ……よかった、ちゃんと話が通じる人がいて」

「おい、俺をだしに使って仲良くなるな」


 失礼だろうが……俺はちょっと異世界の知識が入っているだけの良識的な人間だぞ? 拷問は良くなかったかもしれないが……魔族と人間の関係を考えたら普通のことだろうが。


「私はエリクシラ・ビフランスと言います」

「び、ビフランス? え、あの……殺戮騎士のビフランス?」

「はい?」

「ふは……エリクシラ、やっぱりお前も似たようなもんじゃん」


 マジで笑える。

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