第101話 魔族って興味深い

「このっ!」

「んー……」


 やっぱり魔族の魔法って人間の魔法とは根本的な部分が違うな。人間の魔法とは、大気中に存在する魔素を体内に取り込み、身体の内側で魔力に変換してから、その魔力を事前に決めてある形通りに流すことで効果を発揮するものだ。突発的に、戦場で適当な形で魔力を流したりすると、なんの効果も発動しない……だけならまだしも、魔力が暴発して周囲ごと術者を吹き飛ばす、なんてことも起きたりする。

 それに対して、魔族の魔法は……見ている限り、もっと自由な感じだ。決められた形が存在しているようには見えないし、あのヴァネッサと名乗った魔族は炎魔法1つとっても、速度も温度も大きさもバラバラで、やはり人間の事前にかっちりと決まった魔法とは違う印象を受ける。

 考えられる要因は……魔族の肉体は魔素で構成されている、という部分だな。


「いい加減に当たりなさいよ!」

「いやー……無理でしょ」


 ここまで色々と考察できたのは、ヴァネッサが強くないからだ。人間とは体系の違う魔法だから最初こそちょっと驚いたが……結局はその違いの部分しか驚く場所がなかった。内務卿と戦ったり、師団長と戦ったりと……俺は真面目に戦うときは大体怪物しか相手にしかしてないから、マジでちょっと感覚が狂っている気がする。

 文献に載っている魔族と言えば、やはり怪物的な強さを持っていたと言われるような奴ばかりだから……魔族と言えば強い、みたいなイメージだったけど、そもそも強くない奴が文献に残る訳ないんだから当たり前だよな。


「生意気な人間!」

「俺が生意気って言うより、ヴァネッサが弱いと言うか……よくそんな強さで生き残ってこれたね」

「殺す!」


 だから無理だって。

 空中を飛びながらひたすらに魔法を撃ってくるヴァネッサだが、無意識なのか知らないが魔法を放つ時だけやけに高度が低くなる。当たらないかも、とか思って近づいて撃っているのかもしれないが……その距離だと俺が跳躍するだけで届きそうだ。魔族の魔法を観察するの飽きてきたし、さっさと終わらせるか。

 黒炎が地面に激突して爆発を起こすのと同時に、その爆発に紛れながら跳躍した。


「消えたっ!?」

「消えてない」


 魔法を放つために高度を下げていたヴァネッサの頭上まで飛び上がったので、そのまま頭を抑える。これで普通に落ちていくと思ったんだが……翼で飛んでいる訳ではないのか、俺が体重をかけてもそのまま飛んでいる。


「その程度で落ちたりなんか──」

「じゃあしょうがないな」


 魔族に対して容赦する気なんて最初からないから、五体満足のまま落とせないなら仕方がない。偽典ヤルダバオトで右の翼を根元から切断し、背中を踏んでからちょっと飛び上がって左肩から人間の肺がある部分を貫通させる。


「かはっ!?」


 ん……まだ落ちないか。

 ウルスラグナを抜いて腹部を貫き、首を掴んでから炎魔法を発動させた。流石にここまでやれば落ちるだろうけど……死んではないよな?

 ウルスラグナは手動で回収することになるので、ヴァネッサが墜落する前に抜いて置き、偽典は……抜くの面倒だからそのまま放置しておこう。

 結構な高度から墜落していったが……俺もそのまま落ちたら骨が折れちゃうかもしれないので、地上に向かって魔力を放出してなんとか勢いを殺し、着地はゴロゴロと転がってする。


「……生きてる?」

「こ、の……人間、風情が……」

「生きてるな。色々と聞きたいことがあるんだが、いいかな?」


 嫌とは、言わせない。


 偽典を抜き、四肢を拘束した状態で寝かせてその隣に座る。どう見ても痴女な格好なんだけど……腹と胸に穴が開いているのを見ると、流石に痴女とか言ってられない見た目だな。


「さて、まずは傷の治癒ってできる?」

「……殺す」

「元気だな、おい」


 返答が殺すしかないのか、お前は。

 ちょっと呆れてしまったが……腹の傷をちらっと見たら、少しずつ修復しているのが見えた。治癒魔法……ではないな。


「……大気中の魔素を取り込んで自分の肉体に変換しているのか? 魔族の肉体は全て魔素で構成されているとは聞いたが、そんな便利なことができるのか。」


 胸と腹に剣を貫通させた時も、人間とは違って流血の量が物凄く少なかったからな……そもそも魔族には血液なんて必要なくて、俺が血液だと思ったものはもっと別のものなのかもしれない。

 人間の血液は栄養を身体全体に運んだり、呼吸で取り込んだ酸素を身体に行き渡らせる働きがあるが……魔族は呼吸で魔素を多く取り込んでいるのかな?


「貴方、魔族を解剖して調べたいの?」

「俺が考え事してる間に大分回復したな」

「そりゃあ、誰かさんが丁寧に治しやすいように貫通してくれたものね」


 なんでこんな敵視されてんの?


「魅了にもかからないし、化け物染みた力を持っているし、言動は完全にイカレてるし、こんな可愛くて妖艶なお姉さんの身体を平然と剣で突き刺すし……貴方、馬鹿なんじゃないの?」

「自分で可愛くて妖艶なお姉さんとか言っちゃうんだ」

「当然よ。私はこの美貌で数多の男を魅了してきたんだから」

「それは嘘だろ。お前、魅了の魔法下手くそじゃん」


 ヴァネッサと戦闘していて、魔族の魔法をよーく観察したからわかるけど……攻撃魔法に対して最初に使っていた魅了魔法の完成度、赤ちゃんレベルだわ。


「……仕方ないでしょ!? 魅了の魔法なんて使う機会ないんだから! 魔族なんて数百年前の戦争で人間に敗北した負け犬種族なのよ! 奥深い山の中でひっそりと暮らしてるだけの弱小種族なの!」

「ならなんで王都に出てきたんだよ」

「そ、それは……その、若気の至りと言うか」


 薄々感づいてはいたが、このヴァネッサ……さては若いな?


「お前、生まれて何年だよ」

「そ、それは勿論、1000年以上生きてるとっても偉い魔族よ!」

「へー……多分、50年ぐらいだろ」

「ま、なんでわかるの……」


 魔法の練度からざっくりと推し量っただけだ。人間も魔族も、魔法なんてものは使えば使うほどに磨かれていき、洗練されていく。ヴァネッサの魔法は威力こそ凄まじいが……はっきり言って雑、拙い、汚いって感じだ。それが魔族の魔法の特徴なのかなと思ったけど……多分、成熟した魔族はそれをしっかりと使い分けられると思う。


「はー……子供も子供じゃないか……これじゃあ聞きたいことも全然出てこないよな」

「むっかつくわね……私ぐらいにもなると、この年でもう大人よ? 何でも聞きなさい!」


 小学生高学年の女子が、男子より先に成長期が来たから「私は大人」って言ってるみたいだな。あれ、後から思い返すとどっちも餓鬼なんだよな。


「じゃあ、グリモアの起源と発現方法とか知ってる?」

「グリモアは魔族を殺すための悪い技」

「は?」


 頭イカレてんのか?


「そうとしか教わってないもの!」

「やっぱり餓鬼じゃないか……じゃあ『終末の竜』については?」

「ひっ……」

「ん?」


 ちょっと……明らかになにか知ってそうな反応じゃないか?

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