第99話 解読さえできれば……
「地味な作業ですねー」
「アイビー、文句言わずに手を動かせ」
「いや、貴方が一番やってないですからね?」
まぁ……俺には向いてないわ、こういう細かい作業は。じゃあなんなら向いてるんだよって言われたらちょっと弱いけど……とにかく、俺は本とか読むのが好きだけど、整理整頓するのは割と苦手なんだよ。
「そもそも、本当に並べた先に答えがあるかどうかも、わからないからな……この労力がただの無駄になるかもしれないし」
「そんなこと言ったらなんにもできないじゃないですか。やってみないとわからないですよ」
それはそうなんだが……やっぱり、必ず報われる努力じゃないとしたくないって気持ちも理解して欲しい。なんの成果も見えないのにひたすらに努力するのは、ただの修行僧だと思うんだよ。悪いけど、俺は神様なんて信じてもないし、修行して徳を積みたいとも思っていない。賽の河原は勘弁してほしい。
結局、大量の本を恐らくって感じだけで並べてみたが……現代の文字に変わるまでの部分は存在していなさそうだ。その過程で古代文字で書かれている本の中身を殆ど見た訳だが……どう考えてもくだらないことが書いてあるだろってものから、古代王朝に関する重要そうな本とかまであった。マジで、なんでも入ってる。
「解読したら歴史を揺るがすほどの発見とかも入ってるんだろうなって思うと……ちょっとワクワクしてくるな」
「……確かに」
「文字に変態するお二人さん、もう少し真面目にやってください」
えー。
「アイビーには浪漫ってものがないな……やっぱり諜報員みたいなことばっかりしてるからか?」
「悪かったですね。私は所詮、国の諜報員ですよ」
「マジ?」
本当に国の諜報員なの?
「はぁ……とっくの昔に知られているものだと思っていましたが、本当に知らなかったんですか? 私は元々、貴方のことを調べていたんですよ……フローディル内務卿の命令で」
「あ」
どっからフローディルは俺の情報を手に入れてたんだろうなーって思ったら、やっぱり身内にいたんだ。でも、ちょっと待てよ……そうすると、彼女は俺の情報をフローディルに流すと同時に、フローディルの情報も俺に流していたことになるのでは?
「……私は、貴方のことを信頼することにしたんです。だからフローディル内務卿を裏切るような形になりましたが……どちらが勝っても生き残れるようにはしていましたよ?」
「へー! 滅茶苦茶優秀じゃん」
「それで済ませていい話じゃないと思うんですけど……あのですね、つまりアイビーさんが裏切り者だったから、私たちがあれだけ苦労したんですよ?」
「それは違うだろ」
俺たちがあんなに苦労して、苦肉の策として外患誘致までしたのは、ただフローディルの作戦が完璧に近かったからに過ぎない。あの男がもう少し急ぎすぎない性格だったら……俺だって諦めて迎合していたと思うぞ。
だから、アイビーのせいで俺たちが苦労したなんてことはない。アイビーは俺たちの仲間で……フローディルの元仲間ってだけだ。
「ん? つまりもう諜報員じゃなくなったのか?」
なんか……小説とか映画とかだと、スパイの人間は一度スパイになったら二度とやめることができない、みたいな設定とかよく見かけるけど……アイビーは円満に退職できたのかな?
「まさか、諜報員として生まれたらその人生は全ての闇の中に捧げるのが当然です。そこから逃げようものなら、即座に殺されるでしょう」
「あ、やっぱりそうなんだ」
じゃあ、アイビーは今でも国の諜報員ってことだな。
「とは言え……この国の諜報員を仕切っていたフローディル内務卿が死んでしまったので、しばらくは麻痺状態でしょう。それに……たとえ新たに私の上司になった人が、テオドールさんを危険に思って排除を命令してきても、私はその上司を裏切って暗殺しますよ」
「なんで?」
諜報員にとって命令は絶対のはずだろ。わざわざ学生一人の友情を大切にして、国のお偉い人に逆らう意味もないと思うけど。
「……仮に、私がその命令に素直に従って、テオドールさんを本気で殺そうとしたらどうしますか?」
「なるべく苦しまないようにして殺す」
「だからですよ」
んー……つまり、アイビーは俺と戦うのが嫌だから上司を裏切るってことね。
「私、知ってるんですよ? エリッサ様を暗殺するために動いた暗殺者たちを、エリッサ様を抱えながら一蹴したことを。そんな相手に勝てると思うほど、自惚れていませんから」
「諜報員なのに、自分の命を優先するんですね」
「はい。だからエリクシラさんも安心して、私のことを信用してくださいね」
「今の流れで信用できるとでも?」
そこは信用してやれよ。
「あ、諜報員なら古代文字とか」
「読める訳ないですよ。諜報員のことなんだと思ってるんですか?」
「すいません」
鋭い視線を貰ってしまった……悲しい。
古代文字はマジで解読ができない……それこそ、ロゼッタストーンみたいに普通に読める文字と一緒に書かれているものがあったりすれば、普通に読めるかもしれないのにな……やっぱりそのためには、西側諸国に渡るしかないよな。
「やぁ、どうしたんだい?」
「エレミヤか……いや、古代文字の解読で手詰まり中だ」
「古代文字の解読……そう言えば、ずっと言っていたね。終末の竜の為に解読がしたいって」
「そうそう」
公爵家の生まれであるエレミヤならそういう本とか持ってるかなとか、藁にも縋る思いで前に聞いたけど、普通に知らないって言われたからな。
俺とエレミヤが並行して歩いているのは、訓練場に向かう道である。目的は……同じ場所だろうな。
「ふっ! はぁっ!」
「はははっ!」
訓練場に入る前から、ドッカンドッカンと何かが爆発するような音がしているが……多分、実際に何かが爆発している訳ではないと思う。
ちらりと訓練場の中を見ると、そこには剣を持ってひらすらにやり合っているアッシュとニーナの姿があった。
「……ずっとやってるな」
「よっぽどグリモアが使えないこと、気にしているみたいだね」
我武者羅に修行しても意味がないことを悟りながらも、動かざるを得ないのだろう。あの2人がもし、グリモアを手にしたら……どんな能力になるんだろう。
「む、テオドール」
しばらく2人の戦いを眺めていたら、アッシュがこちらに気が付いたらしく剣を収めてこちらに歩いてきた。
「エレミヤも揃って、どうした?」
「いや……進捗はどうかなーと思って」
「頑張ってるみたいだね」
「あぁ……進級したばかりだが、まだまだ俺にはできることがあるはずだからな」
その向上心は……俺も見習いたいな。
「……そう言えば、古代文字の本にグリモアについて書かれているものっぽいのもあったな。もしかして……グリモアについても西側諸国にいけばなんかわかるのかな?」
いや、これは考えすぎかな。
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