第98話 文字の解読は専門外です

「生徒会の権威ですか……それは結構大変なことだと思うんですが」

「いえ、そうでもないですよ。世代によって生徒会の権威が強まったり弱まったりするのがこの学園なので」


 自由すぎないか?


「そうですね……前会長であるアルス・クーゲルさんは、真面目で生徒会の規律を重んじる人でしたが、もっと前の序列1位だったリエスター・ノーブルさんは全く生徒会になんて興味がなかったみたいで、会長を序列1位ではない人がやっていたので……全く権威はなかったみたいですよ」

「なにしてんだあの人」


 流石に序列1位になったんだから生徒会ぐらい運営しろよと思うのは、俺が2位だからなのか?


「それで……生徒会って具体的に何をするんですか?」

「機密な部分もあるので全ては言えませんが……建国祭なんかも騎士団と連携して運営したりしますよ? この間は襲撃事件でそれどころではありませんでしたが」

「それは……」


 すいません、その犯人は俺なんです。


「……その、エレミヤって」

「断られました」


 ですよね。


「彼は公爵家の跡取りですからね……まぁ、気持ちはわからないでもないですよ」

「貴女もでは?」


 エレミヤやエリッサ姫とよく似た金髪を持っていることからも、彼女だって立派な王族の血縁だと思うのだが。


「私は四女ですので」

「あ、そういうことですか」


 なるほど……確かに、長女ならまだしも四女ともなると流石に自由が生まれてくるんだな。やっぱり男に継がせたいと考える人が多いし、更に四女ともなると……公爵家に生まれただけで、殆ど低級貴族と扱いは変わらないだろう。勿論、彼女の姿を見ればわかる通り、四女だからとオシャレができないぐらい冷遇されている訳でもないし、クロノス魔法騎士学園に入学できるぐらいには自由が生まれている訳だ。


「ヒラルダは……聞くだけ無駄ですね」

「よくわかりますね。やはり仲がいいというのは本当なようですね」

「それ、ヒラルダには否定されませんでしたか?」

「されましたが、エレミヤ君は普通に親友だと言っていましたよ」


 あの野郎……友達ではあるかもしれないけど、殆ど腐れ縁みたいな仲だし、親友ってほどベタベタしているつもりはないぞ。


「その顔を見るに、エレミヤ君が一方的に親友だと思っているだけのようですね……それはそれで仲がいいと思いますが」


 こいつ、無敵か?


「で、生徒会に入ることを是非とも検討していただきたいのですが」

「あー……」


 どうすっかなぁ……将来のことを考えて魔法騎士にはなれないと思ったばかりだし、断りたいんだが……ここまで丁寧に色々と説明して貰って、しかもエレミヤとヒラルダが拒否してるってのが中々……いや、ここは父さんに言われた通り我を通そう。


「申し訳ないですが、俺にもやりたいこと……いえ、やらなければならないことがあるので、それはできません」

「そうですか……残念です。来年にはクロノス魔法騎士学園の生徒会の権威が失墜してしまいますね」


 良心の呵責に期待するな。


「まぁ……別に問題はありませんけど。ちょっと予算が減る程度ですから」

「えぇ……」


 逆に、なんで序列上位が入ってないだけで予算が削られるんだよ。催し物として使いにくくなるからか? そこら辺は学園理事長の裁量だからわからんが……流石に可哀そうだろ。


「あ、屋上には許可なく立ち入らないでくださいね」

「はい」


 それは俺が悪いわ。



 将来の選択肢を漠然と決めた俺が次にやるべきことは……なんとかして古代文字を解読できないかを頑張ることだ。幸い、と言ってはなんだが……このクロノス魔法騎士学園の古書館にはそれなりの数、古代文字で書かれているものが存在している。何故、西側諸国で使われていた古代文字の本が大量にクロノス魔法騎士学園にあるのかと言うと、エルグラント帝国が植民地支配から解放された時に、西側諸国が置いていった蔵書とかをくれたことが原因らしい。解読するための本とか欲しかったな。

 全く未知の言語と言う訳ではない……と言うのも、そもそもこの古代文字は現在の人間が使っている文字の元になったものが多く存在しているので、なんとなく発音できたりはするのだ。ただ、意味が通らないだけで。

 あー……あれだ……日本人が中国語を見た時に発音できないんだけど、意味は形から半分ぐらい推測できるみたいな。


「……後から一気に片付けるの大変なので、必要ない本は逐一片付けてくれませんかね?」

「おー」


 エリクシラになんか文句言われた気がするけど、今はとにかく本に集中したいので適当に返事をする。どうせそこまで気にするようなことなんて言ってないだろうし。


「ふーむ……これ、終末の竜じゃないか?」

「はい?」


 挿絵なんてものはないが……以前に見た終末の竜が描かれている本に似たような文字が書き込まれている。そして、その単語が頻繁に出現していることから、固有名詞なんじゃないかと推測する。


「でもこれ、竜じゃないですし……文字の使い方が微妙に違いませんか?」

「……なぁ、これもしかして……古代文字でも書かれている年代が違うんじゃないか?」

「……なんですか、その果てしなく面倒くさそうな推理は」


 いや、でも……前にエリクシラが発見してくれた終末の竜の挿絵が書かれていた本に比べて、文字が全体的に複雑になっているというか……あっちの本の方が後世に書かれたわかりやすい本みたいな感じになってると思うんだが。


「仮に、ですよ……もし、本当に書かれている年代が違うんだとしたら……」

「終末の竜が目撃されたのは1度だけじゃない、か?」


 と言うことは、その終末の竜とやらは……不定期に何度もやってくるってことか? そんな地震みたいな存在なのか? てか、本当にそうだとすると俺が生きている間に来てくれるのかすら疑問じゃないか。


「フローディル内務卿はすぐにでも対策をしようとしていたってことは、なにかしらの予兆があったとかではないんですか?」

「わからないぞ。いつの時代だって今すぐ来るかもしれないと警戒する人間はいるだろ」


 まぁ、俺はフローディルがそこまで馬鹿だと思っていないが。


「……まずは、古代文字で書かれた書物たちがどれくらいの年代に書かれたものなのかを推測して並べていかないと駄目なんじゃないですか?」

「め、めんどくせぇ……」

「文句言わないでください」


 くそ……仕方ないと言えば仕方ないんだけど……こんな細かい作業はあんまりやりたくないぞ。

 よし、アイビーを呼んできて巻き込もう。

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