第97話 生徒会が来た

 とんとん拍子で2年生になった。

 いや、進級できたことはいいことなのかもしれないけど……ちょっと納得いかないことがある。


「いやー、これからよろしくね、テオドール」

「……よろしく、テオドール」


 隣の席に座っているエレミヤ、序列は1位。

 そして俺を挟んでエレミヤと反対側に座っているヒラルダ、序列は3


「それにしても……僕としては君が1位だと思ったんだけど、まさか2とはね」

「いや、俺はそもそも10位でよかったんだが?」

「それじゃあつまらないだろ? この説明会が終わったら、すぐにでも僕と決闘して、どっちが1位か直接決めないかい?」

「絶対に嫌だ」


 そう……何故か俺は序列が2位になっていた。

 学園のカリキュラム説明のオリエンテーションは、序列順に椅子を並べられて座らせられるのだが……最前列でエレミヤとヒラルダの隣だから、滅茶苦茶気まずい。


「平民がこんな上位だったことってあるのか?」

「よくあること」

「そうそう、リエスターさんだって平民出身だけど、クロノス魔法騎士学園は首席で卒業した「学園最高の才女」とまで呼ばれている人だからね」

「そういえばそうだったな……」


 じゃあ、平民が上にいることはおかしくないのか……フローディルだって平民出身だって言ってたしな。


「それで……テオドールは将来どうするのか決めたのかい?」

「……なんで?」

「進級試験に総長が来たんだろう?」


 なんで誰にも言ってないのに知ってるのかな……公爵特有の謎情報網ですか?


「総長が1年生を見に来るなんてまずあり得ないからね……どうせ勧誘でもされたんでしょ?」

「まぁ……」

「総長自らが勧誘に来るなんて、将来は相応の立場を約束されているようなものじゃないか。受けない理由の方を聞きたいな」


 うーむ……魔法騎士団内は実力主義、成果主義みたいなところはあるけど……総長が見に来るような人間ならそんなこと言わなくて勝手に成りあがってくるってことだろうな。

 魔法騎士にならない理由……そうだな。


「俺は、フローディルの意志を受け継いでいかないといけないと思う」

「それは、君が背負う必要は──」

「違う違う……別に背負うとかではないよ」


 ただ……やり方は乱暴で、民の命を無為に散らすものだったかもしれないけど、それでも国の為、人類の為を思って戦っていた人間がいることを、俺だけでも知っておかないといけないと思った。

 あの戦いから数ヶ月が経って、ようやく見つけた俺の答えだ。第1師団長のボールスさんにも、フローディルの意志を無理に継ごうなんて考えなくていいと言われたが……これは俺の決意みたいなもんだ。


「確かに急ぎすぎだったのかもしれないけど……彼の言っていることもまた1つの正義だった。だから、それを挫いた俺くらいは知っておかないといけない」

「……そっか」

「ちょっと待って。いい話みたいにしているけど、フローディル内務卿? どういうことなの?」

「あ」

「やべ」


 最近、エレミヤとは2人で喋ることが多かったから、横にヒラルダがいることなんてすっかり忘れてたし、今はオリエンテーション中だったわ。幸い、学園の理事長がベラベラとデカイ声でずっと演説してくれているから、ヒラルダ以外には聞こえていないようだが……しまったな。


「うーん……ヒラルダには知る権利があるんじゃないかな。ミエシス辺境伯の1人娘だし」

「は?」


 俺を挟んで喧嘩するな。



 なんとかヒラルダを落ち着かせながらオリエンテーションの時間を終え、俺は1人で学園の屋上に来ていた。

 学園の屋上からは王都がよく見える……ちょっと遠いけど。


 エレミヤに言われて、将来のことをちょっと真剣に考えることにした。年齢的にも高校2年生が大学に進学するのか、そのまま高卒で就職するのか悩む、みたいな感じだな。

 魔法騎士になる、と言うのは最も手堅い未来だと思う。これでもこのクロノス魔法騎士学園では上位の成績だし、入団してから頭角を現すことができるぐらいの実力があることは自負している。なんなら、師団長にだって負けないからな。

 魔法騎士にならない理由は……魔法騎士になってしまえば、国の為に以外に動くことができなくなるということ。俺の将来なりたい職業なんて全くわからないが、将来的にやらなければならないことはある。それが、フローディルの意志を継ぎ『終末の竜』に対処することだ。

 エリクシラやアイビーが調べてくれたことを纏めると……終末の竜に関することを知りたければ、西側諸国に向かうしかない。そして……魔法騎士になったら国交を結んでいない西側諸国に向かうことなんてできる訳がない。

 結論、現状は魔法騎士にはなれないけど、終末が片付いたらなれるかも。


「ふぅ……」

「屋上は進入禁止だって知ってましたか?」

「あ?」


 知らないけど。

 また派閥の誰かかなって振り向いたら、全く知らない生徒がにっこりと笑っていた。


「どうも、新3年生の序列5位、オフィーリア・ベルナールと申します」

「ベルナール……確か、公爵家の」

「はい、そのベルナールです」


 へー。

 クーリア王国に存在する公爵家は2つ。エレミヤの家名であるフリスベルグ家と、目の前の女性が名乗ったベルナール家だ。

 でも、ベルナール家って力が弱まっているみたいな話を本で読んだ気がするな……そうすると、彼女はその復興の為にこのクロノス魔法騎士学園入学した、とか? いや、ないな……貴族の子供ってただ箔をつけるためだけにクロノス魔法騎士学園に入るらしいから。


「その……もしかして、屋上に入ったことを注意されてるんですかね、俺は」

「それもありますが、それだけが目的でもありませんよ?」


 よかった……いや、よくないわ、それもありますがとか言われてた。


「1番の目的は……貴方を勧誘することです」

「生徒会に?」

「はい」


 あー……そう言えばこの学園の生徒会、序列が上の方の連中で構成されてるって聞いたな。でも、俺の同級生で序列が上の方……エレミヤとヒラルダか。


「もしかして……新2年生、序列の上から3人が生徒会に入ってないから問題になってたり、します?」

「問題にはなってませんよ。ただ……生徒会の権威が揺らぐから入ってくれとは思っていますが」


 いや、それを問題になっていると言うのでは?

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