第96話 序列試験は楽だった

 進級した。

 一言で表すとそれだけだが、何故か俺だけ師団長と戦ったりしたけど……進級は普通にできた。

 進級試験を受けて落ちる人もいたらしいが……基本的には殆どの生徒が進級することになる。元々1000人ぐらい所属していた魔法騎士科が、1年で600人以下になっていることは驚きだが……毎年のことらしいので気にしないことにした。


「で、なんで序列試験に筆記があるの? 逆じゃね?」

「……そういう伝統なんだから仕方ないですよ」


 偶々、隣の席になったエリクシラにそう言ったら、諦めろと返された。

 普通、進級試験に筆記が合って、序列試験には筆記が必要ないと思うんだが……何故か序列を決める試験に筆記が存在している。筆記で何を知ろうというのだろうか……もしかして、魔法騎士になる為にはそれなりの教養が必要ってことだろうか? それだったらもうただの学力テストってことで、別枠でやれよ。


 試験内容は……1年間習ってきた色々な一般常識的な話や、魔法に関する問題が多め。魔法科だと理論に関する論述問題があったり、普通科なら歴史の話がもっと掘り下げられたりしているらしいが……魔法騎士科は試験が一番簡単なのだとか。その分、実技がきついからな。


「……」


 やばい……滅茶苦茶に簡単だった。だって基礎的なことしか書いてないし、マジでなんの為にこのテストやってるのかわからなくなってくるな。

 ちらっと隣のエリクシラに視線を向けたら……堂々と寝てやがる。なんで普段は結構おどおどしてたりするのに、こういう時だけ大胆な行動ができるんだこの女は。


「……そこまで、解答用紙はそのまま伏せておけ。次は実技だ……事前に指定されていた訓練場まで行け」


 試験監督の人も滅茶苦茶欠伸しながら適当なことしか言ってないし……この学園、実は緩いのでは?



 序列を決めるための大事な実技試験……と張り切っている人も多いが、訓練場に集まった生徒たちの前に何人かの騎士が立っているだけだった。


「騎士に向かって渾身の一撃を叩きこめ、それで序列試験は終わりだ」


 は?

 周囲の生徒たちの反応を見ても、特になにも疑問などはないようだが……もしかして、序列試験ってこれだけなの? 俺が最初にサボった試験もそんなもんだったの?


「なにを挙動不審になっているんですか……さっさと叩き込んでさっさと終わらせますよ」

「元序列983位がなんか言ってら」

「はぁー? 貴方も序列984位じゃないですか」

「いいんだよ、俺は試験受けてなかっただけだから」

「試験受けてないのに、普通に退学にされてないのが奇跡だって知ってますか?」


 知ってる。


「そこ、遊んでないでさっさとしろ」

「わ、わかりました」


 渾身の一撃を叩きこむって、具体的にどうするんだろう。みんな魔法を使ってないみたいだけど……エリクシラはこんなのまた序列最下位になるのでは?


「次、序列149位……エリクシラ・ビフランス」

「とー!」

「…………」


 おい、試験官の騎士が嘘だろこいつって顔してるぞ。

 剣を両手で握って、重力に従って普通に振り下ろしたはずの剣が、なんで騎士の構えた剣じゃなくて肩に当たってんの? しかも、普通に鉄剣を使っているはずなのに鎧に対した傷もついてないし……そりゃあ騎士の人も困惑するよ。

 受けた騎士の人も、後ろで記録をつけてた人もエリクシラの序列が本当に149位なのか疑ってるぞ。


「つ、次」


 あ、スルーされた。


「序列……10位、テオドール・アンセム」


 俺の序列を聞いた瞬間に、騎士さんの全身に力が入るのがわかった。でも、別に俺はパワータイプって訳じゃないから、そこまで身構えなくてもいいと思うよ。

 ウルスラグナではなく、試験用に持たされた鉄剣を握る。ウルスラグナと比べて、刀身の重心位置が少し気になるが……まぁ大丈夫だろう。


「ふっ!」


 しっかりと両手で構えてから、騎士の構えている剣に向かって振り下ろす。狙うのは……刀身の中でも最も負荷の掛かっている部分。この試験の最中だけでも、幾度となく剣を受けてきた刀身には、かなりの負荷がかかっているはずなので……的確にそこに力を加えてやれば。


「……は?」


 紙を斬るようにぬるっとなんの抵抗もなく、騎士の構えていた剣だけを両断した。武器破壊のテクニックだな……実戦では殆ど使えないけど、習得すれば決闘とかで便利だぞって父さんに教えてもらった。今考えると、無茶苦茶なこと言ってないか?


「つ、次!」


 周囲の人間、全ての時間が一瞬だけ止まっていたが、最初に記録係の人が動き出したことで全員が慌ただしく動き始めた。


「ど、どうやったらあんなことができるんですか?」

「練習すればできるようになるよ……俺もかなり頑張ってなんとかできるようになったけど、実戦の動きながらだと無理かな」


 今のは力じゃなくて技で斬った感じだけど、実戦だったら魔力で切れ味を研ぎ澄ませてから力で斬った方が速い。あんなのは決闘とか、ああいう場面でしか使えない技術……いわゆる「魅せプ」ってやつだ。まぁ、魅せプと言っても初見で見せるにはインパクトのある技だと思うし、これで序列も上位のまま2年生も過ごせるかなって思っている。


「いいですね、魔法の才能もあって剣も振れる人は」

「魔法の才能はエリクシラの方が上だろ? そうじゃなきゃあんな魔法特化のグリモアなんて生えてこないって」

「グリモアが生えてくるって言い方やめませんか?」


 なんでだよ、一番わかりやすいだろ。


「そもそも、エリクシラだってもっと努力すれば魔力で身体能力を補強して剣を振るとか、あるだろ?」

「それ、簡単にできるんですか?」

「知らん」


 そういうのは、多分リエスターさんに聞くのが速いと思う。俺は精々、動体視力を無理やり上げるぐらいにしか使わないから……だって、魔力で身体能力を強化するって便利に聞こえて、筋肉を無理やり動かしてるようなもんだからね。使いすぎると翌日は筋肉痛で起き上がることもできなくなると思う。


「私にも剣の才能があったら、家で落ちこぼれなんて扱いされなかったんでしょうけど……」

「でも、才能がなかったから俺たちは出会えた訳だろ?」

「……口説いてるんですか?」

「口説いてない!」


 そういう意味じゃない!

 俺はそんな簡単に女の子に向かって「運命じゃん」みたいなこと言わない! 童貞の保守派なの!

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