第93話 進級試験は地獄だった

「さて、じゃあやろうか」

「なんで?」


 俺の目の前には、ノリノリで武器を構えるリエスターさん。そんで、それと相対している俺は……マジで困惑してます。



 事の発端は、進級試験だった。

 魔法騎士科から転科するのか、それともそのまま魔法騎士科に残るのかを迫られる時期だが……今年は建国祭のこともあってかなりの人数が転科し、進級試験を受ける人が600人ぐらいらしい。元々が1000近かったことを考えると、1年生で既に4割が脱落しているんだよな……魔法騎士団に入るにはそれだけ厳しくないと駄目ってことなんだろうけど、流石に厳しすぎないか?


「では、これより進級試験を始める。序列が高い生徒から順番に試験を受けてもらう」


 序列が高い順番ってことは、俺は10番目か……そもそも進級試験の中身とか全く知らないんだけど、そこら辺はどうするんだろうか。


「……進級試験ってなにするの?」

「は? 普通に掲示板に貼られていたわよ?」


 隣に座っていたエリッサ姫に聞いたら、馬鹿じゃねーのみたいな顔をされた。学生掲示板かー……寮から遠いせいであんまり見てないんだよな。もっと学内に大量に置いてくれよって思ったけど、俺が怠惰なだけなのか? 科学技術が発達した世界なら、大量に紙を刷って配るんだろうけどな……流石にこの世界じゃ無理か。


「仕方ないわね……進級試験は、個々人で試験内容が違うのだけれど、基本的にはその人の実力を見極める為に、魔法騎士と1対1で決闘するのよ」

「へー……でも、勝てない奴が大半なんじゃないの?」

「勝つのが目的じゃなくて、実力を見極めるのよ。もし、この進級試験時で魔法騎士に勝てるなら、魔法騎士団からも勧誘が来るから全力で挑む意味もあるし、勝てなくても相応の実力を見せれば普通に進級できるわ……もっとも、1年から2年の進級なんてよほどのことをやらかさないと通るらしいけど」


 詳しいな……流石王族。そんで、仕方ないって言いながら教えてくれるの滅茶苦茶優しい……エリッサ姫のこと好きなったわ。


「今、失礼なこと考えたでしょ」


 やっぱり好きじゃなくなった。


「序列10位、テオドール・アンセム」

「あ、はーい」


 エリッサ姫と喋っていたらすぐに俺の順番が来た……のかと思ったら、どうやら10人以上同時に受けることになるみたいだな。600人を1人ずつやってたら途方もない時間がかかるから仕方ないけど。

 受付してくれる騎士さんについていったら、ちょっと憐れみみたいな視線を向けられた。なんでだろうと思いながら、試験会場になっている闘技場の扉を開けたら──


「やぁ」

「え?」


 にっこにこで機嫌がよさそうなリエスターさんがいた。


「え、この試験会場はリエスターさんが担当してるんですか? じゃあここに来る人は外れですねー」

「君だけだよ」


 まぁ……うん……知ってた。

 だって、他の連中は野外訓練場の方に連れていかれていたのに、何故か俺だけ屋内闘技場に連れていかれたからね。


「さて、じゃあやろうか」

「なんで?」


 と言う訳で、俺は何故かリエスターさんと進級試験をやることになった。こういうので師団長が出てくるのおかしくないか?


「騎士団の上の方から正式に君の実力を確かめたいって話が来ていてね」


 そう言いながら、リエスターさんが観客席の方に視線を向けたのでそちらに顔を向けると、幾人かの魔法騎士らしき人がどっかりと座っていた。鎧の豪華さから……多分、偉そうな人だと思うんだけど。


「右端に座っているのが総長だよ」

「総長!?」


 つまり父さんの上司……魔法騎士団において最も立場が上の人間。


「まぁ、そこはいいとして……構えなよ。開始の号令なんて行儀のいいもの、ここにはないからさ」


 それはどういう意味なのか、聞き返そうとしたら既にリエスターさんが目の前まで迫っていた。グリモアを使用していないのにこの速度……はっきり言って反応できたのは奇跡だ。


「今の、危なかったでしょ?」

「わかりますか?」

「じゃあ、上げていくよ」


 ギアを?

 俺がウルスラグナを抜刀するのと同時に、何かが飛んできたので弾いた。


「……針?」

魔針ましんって言ってね。魔力を薄く固めることで牽制として使える、初歩的な奇襲術だよ」


 いや、魔針って言われればわかる。


「それ、暗部の技じゃないですか?」

「そうだね。でも、使えるものはなんでも使う……それが魔法騎士だろう?」


 護国の騎士にとって騎士道精神は邪魔でしかない、か。

 立て続けに魔針が飛んできたので、ウルスラグナで弾いていたら、いつの間にかリエスターさんが消えていた。

 死角からパリっと、空気が避けるような音が聞こえたので反射的にしゃがむと、雷を纏いながら俺の上を通過していくリエスターさんと目があった。あの人……進級試験で平然とグリモア使い始めたな。


「……背後からの奇襲を避けられたのは初めてだよ。私のグリモアはその気になれば音よりも速く動くことができるんだけどね」

「今のは音より遅かったですよ。でも……本気出されたら流石に勝てないのでやめてもらっていいですか?」


 何事にも相性ってものがある。はっきり言って、俺みたいにオーソドックスに剣を振って魔法を放つタイプの魔法剣術使いは、あんな感じのなにかに特化した相手が滅茶苦茶苦手だ。速度に振り切れすぎているならいいんだけど、リエスターさんって絶対に他も高水準じゃん?

 一応、斥力で対応できないか試してみるか。


「ん?」


 今度は消えずにそのまま近寄ってきたリエスターさんに対して、斥力を発生させると、なにかを感じ取ったらしくあんまり近づいてこなかった。


「……外に押し出されるような力」

「そうですね」


 これでリエスターさんの高速の動きに対応でき、危なっ!?


「ほぉ?」

「え、なに今の」


 斥力を完全に無視して雷が飛んできたんだけど。そんなことある?

 多分だけど……今のは単純な物理現象としての雷じゃなくて、純度の高い魔力による攻撃……なんだと思う。俺が発生させている斥力は外に弾き出すような力を魔力で送っているだけで、厳密にちゃんとした斥力って訳じゃないから……弾き出す力よりも強い魔力なら突破できるはずなんだけど、だからってあんな高速の雷飛ばしてくるか?


「やっぱり君には、全力をぶつけてみたくなる」

「やめてください、死んでしまいます」


 なんて俺の懇願も無視して、リエスターさんは全身に雷を纏って視界から消えた。

 やばいって。

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