第92話 手がかりはないみたい

「西側諸国……ルーカス諸国連合が何故あれほどに他国に対して侵略行為を繰り返しているのか、気になってしまって」

「大穴から魔獣が湧いてくるからじゃないのか?」

「そこも疑問に思ったんですよね……何故、ルーカス大陸に存在する大穴から魔獣が出てくるのか。そして、魔獣が大穴から湧いて出てくるものならば……何故、海を挟んだこちらの大陸にまで魔獣が存在しているのか」


 それは……確かに。


「テオドール、君……どうやってるのかな、それは?」

「え?」


 アイビーの疑問を一緒に考えていたら、横から呆れたような顔をしたエレミヤが話しかけてきたんだが……どうかしたのか?


「どうやって戦いながら会話しているのかな?」

「……あぁ! あれは俺が作った分身魔法でな、フローディルと戦った後に色々と改良を加えて、事前に記憶させた動きから相手の魔力の揺らぎに対して最適な動きを繰り出すように設定してあるんだ」


 これならよっぽど予想外の動きをされなければ分身がやられることはないと思う。魔力消費が増えたのと、事前に剣術の型とか組み込まないといけないから面倒だけど……分身としては大成功だろう。


「結論から言って、ルーカス連合が侵略を繰り返している理由は……食糧難だからです」

「なんだって?」


 え? 魔獣が危険でー、とか……そういうことじゃなくて?


「勿論、魔獣が原因です。魔獣が際限なく湧いてくるせいで、農地を広げることができずに中々に苦労しているみたいですよ。だから、魔獣が少ないエルグラント帝国や、クーリア王国の土地を自分たちの支配下に置いてしまおうと」

「普通に交易すればいいじゃん」

「それでは完全に相手の国に食料を依存することになるじゃないですか。あの諸国連合はクーリア王国よりも古くからあるので、そこら辺のくだらない誇りがあるんじゃないですか?」


 まぁ……自国で食料自給率が確保できない国なんて、世界情勢がガラッと変わるだけで大変なことになるのはよくあることだしな……どうすっかな。魔獣が原因だったら、大穴をなんとかすることで解決できたかもしれないけど、食糧難が理由だとちょっとキツイか。でも、大穴から出てくる魔獣がいなくれば農地を拡大することも……できるのかな? そもそも魔獣を生まれてくるって意味わからないし、もしかしたらよくわかんな呪いとかあるかもだし……わからん。

 魔獣が嫌だからみたいな単純な理由なら、楽なんだけどな。


「んー……元から西側諸国の連中と仲直りできるなんて思ってもないけど、だからと言って戦争を続けるのはなぁ……」

「小規模とはいえ、既にエルグラント帝国との戦闘は始まっていますよ」

「マジ?」


 気が早いな……流石に数十年以上もいがみ合っている所は違う。襲撃事件からたったの数ヶ月で、当事者ではないエルグラント帝国がさっさと開戦してるんだよな……クーリア王国との仲直りなんてマジで不可能だと思う。


「絶対に西側諸国には屈しないとアピールすることで、皇子様は次期皇帝としての立場を固めているんじゃないですか?」

「そんなこと必要か?」

「帝国だって一枚岩ではないですから」


 そりゃあそうだけどさ。


「おい」

「ん?」


 後ろから声をかけられたので振り返ったら、ボロボロのアッシュとニーナが明らかに怒った顔してた。あぁ……分身君、負けちゃったのね。もっと事前に型を色々と仕込んでおかないと、流石にアッシュとニーナには勝てないか。


「全然、グリモア使えるような気配がないね。やっぱり意識の問題じゃないか?」

「そういうことじゃない。俺たちと戦っている最中に談笑とはいい度胸だな」

「……悪いけど、そもそも戦いになってなかっただろ?」


 これはマジ。エレミヤも苦笑いを浮かべながらも否定していないし、実際に俺からするとなにも得るものがなかった……こちらの攻撃に対して素早く対応してくるアッシュだって、魔法を絡めれば別に苦戦する部分はない。


「弱者を甚振るような趣味は、俺にはないからな」


 ここはキツイ言葉でもかけておかないと……多分、この2人は一生変わらない。恐らく、そういう意識的な部分から変えていかないと……グリモアが発現することはないだろう。魂から生み出されるものだからな……気持ちの問題だ。

 アッシュは馬鹿ではないから、俺が何を言いたいのか理解しているはずだ。ニーナはちょっと……馬鹿だから無理かもしれないけど。


「……今日はここまででいい。色々と、考えたいこともある」

「私はまだやるぞ、テオ。単純にお前と戦いたい」


 やっぱり馬鹿だったわ。



 お望み通りニーナをボコボコにしたのでエリクシラに回復を頼んでいる間に、アイビーとエレミヤの間に座った。


「終末の竜とやらは確認できたか?」

「いえ、全く」

「そうか……本当にいるのかな」

「さぁ? それすらわからないですね……エリクシラさんから、古代文字を解読する方法を探してきてくれとも言われましたけど、全く手がかりがありませんでしたから」

「……エリクシラは西側諸国に行っていたこと、知ってたんだな」

「はい」


 エリクシラってそういう情報をどこから仕入れてくるのか知らないけど、結構持ってるよな。あれで家では落ちこぼれ扱いされてるんだから不思議だよな……俺からすると、単純な力を持っているよりも、そういう得体のしれない情報網とかの方が怖いんだけど。


「フローディル内務卿はその存在を確信していた。つまり……なにかしらの情報を掴んでいたことになる」

「……なんか、生前の資料とかないかな」

「さぁ? 彼には身寄りもいなかったみたいだし……国が回収、処分しちゃったんじゃないかな」


 現在、クーリア王国は次期宰相と内務卿を決定しなければいけなくて忙しいみたいだな。特に、フローディルが焚き付けた次期国王の権力争いが残っているから、第1王子派と第2王子派のどちらの人間が宰相と内務卿の立場を手に入れるのかで、争っているみたいだ。

 内部で争ってい場合ではない、と言いたいところだが……次期国王と宰相、内務卿の仲が拗れていたらまともな政治もできないだろうし、そこは仕方がないのかな。


「取り敢えず、なにか情報が入るまでは学生としてしっかり勉強するのがいいんじゃないかな。そろそろ進級だし」

「進級か……そういえば、最近は決闘とかあんまり聞かないな」

「進級時の序列試験があって、そこで決まるからね……今の時期に決闘してもあんまり旨味がないんだよ」

「へー」

「君、本当に序列に興味ないよね」


 そりゃあ、な。

 序列が高いと基本的に決闘を挑まれることが多くなる訳だろ? しかも、挑まれる側にはメリットが無いようにできてるからな……実力が高いのだから堂々と受け止めろ、みたいな謎の騎士道精神。魔法騎士には騎士道精神なんか必要ないとか言うくせに、そういうところだけ残ってるのはなんなんだよ。

 俺は別に……試験で勝手に上がっていくだけでいいかな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る