第83話 勝利
「まさ、か……そんな、隠し武器があるとは……思わなかった、よ」
「……しぶとい男だな」
フローディルの胸を刺し貫いた
心臓を貫いたと思ったが、微妙にずれていたらしい。しかし、大きな血管が傷ついたようだし、どうやら肺を貫通していそうだ。このまま放置していても、すぐに力尽きるだろう。
「アズライト、石は……砕かれて、しまったか」
「もうこれで時間逆行はできない……隠しているものがなければな」
「ふ……君との戦いで、そこまで、隠し事ができる余裕は、ない」
まるで隠し事をしていた俺には余裕があるみたいな言い方しやがって……俺としては結構ギリギリの戦いだったんだぞ? 最初に時間を巻き戻らされた時には普通に顔面貫通しそうな攻撃受けそうだったし、それ以降も結構無茶苦茶なことばかりされていた。こうして手傷少なく勝てたのは……エレミヤが突っ込んできたことによる2対1の状況だったからだ。
「終末は、必ずやってくる……足掻いて、みることだ……」
こちらを嘲笑するような、それでいて心配するような表情で言葉を遺してフローディルは目を閉じた。
エレミヤは自分が握っていた
「死んだみたいだね。彼を対象に発動していた剣が消えた」
「そんな使い方できるの?」
意味わからんな、お前のグリモア。
「どんな理由があろうとも、僕らは国の内務卿を殺した……かなりの言い訳を用意しないと駄目だね」
「その前に亜竜隊……というかそろそろ来るだろう西側諸国の本隊をどうにかしないと駄目だろ」
「そっちは問題ないだろう。エルグラント帝国を避けながらこちらに向かってくるには、彼らだって途方もない距離を船で渡らなければならない。だからこそ、亜竜隊を先に向かわせて奇襲攻撃で国の中枢を麻痺させようとした」
そうさせるように俺たちが仕向けたんだけども。
「西側諸国はこっちの思惑通り動いてくれたけど、それ以外は?」
「動いていることは確認した」
「そうか……なら、さっさと亜竜隊を殲滅するか」
「そうだね……幸い、魔法騎士団の師団長が全員揃っているお陰で、亜竜隊による被害は殆どないから、さっさと終わらせようか」
エレミヤはそれだけ言って、魔法騎士と亜竜隊が戦っている方へと駆けていった。俺もそれを追いかけようと思ったんだが……なんとなく、フローディル内務卿の遺体をそのままにはしておけなかった。
「……悪いな」
彼の目指した強国は、俺だって全く理解できない訳ではない。目指していた先が全く別方向だったとも思っていない。だからこそ、互いにぶつかって片方が消えてしまうことに罪悪感はあるが……立ち止まってはいられない。
「アイビー!」
「なんですか?」
闘技場の上の方から影を飛ばして亜竜隊を攻撃していたアイビーを呼び、フローディルの死体に視線を向ける。
「……いいんですか?」
「避難させるだけでいい」
彼の死体をそのままにしておく訳にはいかないだろう。アイビーのグリモアなら移動だって簡単にできるだろうから、ここは任せる。
上空を飛んでいる亜竜隊の中でも、一番豪華な鎧をつけている奴に目をつけて飛ぶ。魔法騎士との戦いに集中していたらしく、こちらには全く意識が向いていなかったので、警戒されることもなく一瞬で近づくことができた。
「な、なんだ貴様っ!?」
「死ね」
フローディルが最後に時間を巻き戻した時に溜まっていた魔力を
「『
亜竜隊の動きが鈍った瞬間に、リエスターさんが雷と共に消えて上空を飛び回っていた亜竜を2匹落とした。
「テオドール、闘技場の外にもかなり敵がいる。亜竜隊はここに集結しているようだが、敵の本隊らしきものも港に近づいていると報告が来ている」
「……エルグラント帝国は?」
「向こうもすれ違いざまに攻撃を受けて混乱状態らしい」
「そうですか」
となると、最後の仕込みさえ上手くいけば終わりか。
闘技場の敵は全て魔法騎士団に任せるとして、俺はさっさと外に出るか。
「待てっ! 魔法騎士は外には出さんぞ。我こそは連合ライム国の──」
「今、そういう気分じゃないんだ」
フローディルを殺したことで俺のテンションがガタ落ち中だ。名乗りを上げてくれているところ悪いが、さっさと殺して押し通る。
「むぉ!? 血気盛んな若者よ……だが、騎士の礼儀を知らんとは……その身で味わうがよい、野蛮なる王国の若造よ!」
「邪魔だ」
なんかグリモアらしきものを発動しようとしていたようだが、
どうやら闘技場の外に俺たちを出したくなかったようだが、それは亜竜隊で魔法騎士団を抑えながら、なんとか本隊で王都を攻め落としたいってことなんだろう。しかし、遠目に見える王都が荒れている様子はない。
「テオドール!」
「……エリッサ姫? 逃げたはずじゃ」
「こんな状況で1人だけ逃げられるわけないでしょう?」
いや、王族なんだからそこは素直に逃げてくれ。
「そんなことより、来たわよ」
来たって……あぁ、西側諸国に対するカウンターの仕込みがってことね。
王都の南方面から船を回してきた西側諸国……ルーカス連合の船が確かに遠くに見える。そして、その本体を足止めするように展開されているクーリア王国の軍隊と……ルーカス連合の更に南から迫る、クロスター王国の軍旗。
「クロスター王国は間に合ったか」
「えぇ……これで、こっちの勝利はほぼ決まったわ」
西側諸国にエルグラント帝国を避けて船で進行することができるルートを教えたのは俺たち。そしてエルグラント帝国にそのタイミングを教えて海上で背後から奇襲するように情報を流したも俺たち……その前にちょっと攻撃を受けたらしいのは想定外だけど。最後に……クロスター王国へと事前に協力の要請を出していたのも、俺たちだ。まぁ、最後のはエリッサ姫の名前を使ったけど。
エルグラント帝国とクロスター王国を巻き込んだのは、これでクーリア王国が一方的に両国を搾取することができなくなるから、である。本国の防衛の為にわざわざ助けてくれた国に対して、高圧的なことをすることはないだろう……特に、過激派右翼みたいなフローディルがいなくなり、日和見主義の貴族と穏健派の国王しか残っていないクーリア王国なら、なおさらだ。
「はぁ……外患誘致に内務卿の暗殺かぁ」
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
「もし指名手配でもされたら、西側諸国を巡る旅にでも出るかな」
マジで。
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