第77話 決着´

 俺が踏み込むと同時に、フローディルも盾を再構築してから踏み込んできた。剣での直接対決は分が悪いと理解しているはずだが、まさか真正面から来るとは思わなかった。


「ん?」


 フローディルはウルスラグナによる斬撃を回避して、剣で偽典ヤルダバオトの斬撃を受け止めた。さっきまでの彼ならば、間違いなく盾で受けてから反撃に転じようとするはずだが……まさか俺のグリモアの能力を知っているのか?

 確かに、エレミヤとヒラルダは知っているから、もしかしたらどこかしらから漏れるかもしれないとは思っていたが、まさかこの短期間でこちらのグリモアの能力まで知っているとは思わなかった。


「……君のそのグリモア、能力の詳細まではわからないが、魔力による防御は不可能なようだ」


 あ、知らないんだ。


「そう思うか?」

「……盾で受けていたら簡単に切り裂かれていただろう。私の左腕を狙っていたのだろう?」


 狙いまでバレてるか……さて、生かしたまま無力化するのが一段と難しくなったな。とは言え、真正面から打ち合えばこちらの方が有利なことは間違いない。それに、俺の偽典を舐めてもらっては困る。

 再び踏み込んできたフローディルの剣を、偽典に力を込めて切断する。俺の偽典は魔力を吸収するだけの剣ではない。魔力の振動による切れ味は、そこら辺の武器なら簡単に断ち切れる。

 自らの武器を失って目を見開いているフローディルは、すぐさま後ろに向かって飛んだのでそれを追うようにウルスラグナから斬撃を飛ばせば、胴体から大量の血が噴き出した。


「とんでもない切れ味に、魔力を無効化する能力……それに加えて、魔力による不可視の刃、か……やはり君は、私の乗り越えなければならない、障害」

「事件が解決するまで眠っていてくれ」





■の■■サンダルフォン





 俺が踏み込むと同時に、フローディルも盾を再構築してから踏み込んできた。剣での直接対決は分が悪いと理解しているはずだが、まさか真正面から来るとは思わなかった。


「は?」


 盾で俺の偽典ヤルダバオトを受け止めようとしてきたので、そのまま左腕を切断してやろうと思ったら、刃が触れる直前に盾が爆散した。急な音と光で俺の動きが一瞬止まった隙に、いつの間にか展開してたフローディルの魔法の刃が俺の頬を掠めた。


「……今のが直撃しないか。やはり君は私とも格の違う怪物だよ」


 冗談ではない。

 自慢ではないが、俺は生まれてから一度も「苦戦」というものを経験したことがない。先天性の魔法の才能に加えて、父さんとの訓練によって鍛え上げた後天性の剣術で敵と言う敵をバッタバッタとなぎ倒してきた。だが、この男は別格だ。まるでは、明らかに異常だ。

 まぁ、だからと言って初めての「苦戦」に動揺したりはしない。実戦で苦戦したことがないだけで、剣術だけの模擬戦で父さんに勝てたことがないんだから、負けと言うものは嫌と言うほど身体に染みついている。だからこそ、まだ負けていないと身体が理解している。


「君は危険だが……やはりその力は惜しい。君は将来父親であるミスラ副総長すらも超えて、軍務伯にでもなるのかもしれないね」

「嫌だね。立場のある人間ってのは相応に責任と義務が付き纏うから、俺はそんな将来ごめんだ」

「そうか……まぁ、その考えには少しだけ理解を示すよ」


 生まれついての為政者みたいな性格してる癖によく言うよ。


「では、君は将来どうやって生きていくつもりなのか聞かせてくれないか?」

「……アンタが言っていた『終末』ってやつは調べた。だからそれを何とかする方法は、探してみたいと思う」

「そうか! やはり私と君は似た者同士だな」


 最近、それが否定できなくなってきたから困ってるんだよ。


「残念だ……出会い方が違えば、私たちは同志になれただろうに」

「そうだな。そこだけは、同意するよ」


 フローディルは盾を再展開しないまま、剣を両手で持って向かってきた。盾を爆散させたことといい……こいつ、俺の偽典ヤルダバオトの能力を知っているな。どこから漏れたか知らないが、厄介なことだ。だが……まだを使うには早い。何故ならば、素の能力ではこちらが上回っているから。ただ、未来予知染みた動きにだけは注意しなければならない……あれの対応を間違えると一手の差で俺の命が危うくなってくるからな。


 そう言えば、奴は今のところグリモアを発動させていないが……条件は何なのだろうか。発動条件が存在するグリモアは必ず能力が凶悪なものになるから、注意しなければならない。あの未来予知染みた動きが、もしかしたら奴のグリモアかもしれないけど。


「魔法か」


 接近戦の不利はやはり向こうも理解しているらしい。フローディルは自分の背後に幾つもの魔法陣を展開しながら、こちらに狙いをつけている。だが、俺だって接近戦ばかりの脳筋じゃない。魔法陣は俺がクロノス魔法騎士学園に入学してから、古書館で読み漁った部分だ。魔法陣を瞬間的に見て中身がなにか判断できるぐらいには、得意分野なんだよ。

 パッと魔法陣を見た感じ、中心的に展開されているのが雷の魔法……周囲にあるのは剣、か? 雷を放ちながら魔力の剣を飛ばすって戦い方かな。まぁ……自らの動きを阻害しない、シンプルな片手魔法剣術らしい魔法だ。

 飛んできた雷魔法を偽典で吸収しながら、魔力の剣はマントで受ける。このマント、魔力ならなんでも弾けるようにしているので、対魔法ではほぼ無敵の防御力を持っている。

 こちらが魔法を無効化してくるのを見て、とても面倒くさそうな顔をしているフローディルに、ちょっとイラっとした。なんだその顔は。


「俺は二刀流ってのが苦手なんだ」

「……何を言っている?」

「だから、それを活かせる魔法を考えた」


 燃費が悪くて誰も使わない魔法って書物には書かれていたけど、それをちょこっとアレンジすることで独自の魔法として使えるようにしたものがある。それが……自らの分身を呼び出す魔法。


「なっ!?」


 虚空からもう一人の俺が現れたことに、フローディルは驚愕しているようだが、その隙は命取りだ。

 分身がウルスラグナを手に取り、俺は偽典を片手に突っ込む。フローディルは動揺しながらも魔法で迎撃してくるが、偽典でひたすらに魔力を吸収しながら肉薄した。

 剣で迎撃しようとしたフローディルに対して、分身が不可視の刃を一度飛ばしてそれを弾き、二度飛ばして右足に大きな傷をつける。


「終わりだ」


 足を傷つけられて素早く動けなくなったところに、本体である俺が吸収した魔力を開放すれば、偽典は耳に響くような高音を鳴らしながらフローディルの左腕の肘から先を切断する。


「馬鹿、なっ!?」

「2対1みたいで卑怯だから使わないかなって思ったけど、アンタが想像以上に強かったからな」


 これで、一先ずこちらは決着だ。さっさと魔法騎士団と仲間の援護に向かわないと……仕込みの2段階も上手くいってくれれば問題ないと思うが。









「『■の■■サンダルフォン』」


 時計の針が、動く音がした。

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