第75話 直接対決

「面白い人だったね」

「まぁ……家だとあんな感じだな」


 エレミヤは父さんのことを面白いと形容したが、家ではいつもあんな感じだぞ。

 なんかまだまだ色々と聞きたいことがあったみたいだけど、仕事があるので戻らないといけないとかなんとか……社畜で中間管理職の父さん、頑張れ。


「副総長は私の先々代の第3師団長だったと聞いている」

「そんな短期間で変わるもんなんですか?」


 え、師団長ってそんなコロコロ変わる役職なの?


「第3師団だけが特別だ。クロノス魔法騎士学園の近くでの仕事ということで、平時はどこの師団よりも仕事が忙しいからな……みんな短期間で辞めたがって副総長のように上の立場を目指すんだとか」


 呪いの立場かよ。そんで、なんでそんなこと言いながらリエスターさんは好き勝手にできてるんですかね……社畜耐性が化け物かよ。


「リエスター、師団長が勝手に遊びに行くな」


 なんとく楽しそうに頷いているリエスターさんの背後に、いつの間にかフルフェイスの突っ立っていた。第5師団長のロンドールだ。


「すまない。副総長が来ていたから挨拶にと思って」

「副総長……ミスラ殿か? 珍しいな……普段から執務室に引きこもって書類仕事ばかりやらされているあの方が、建国祭まで出てくるとは」


 えぇ……父さん、ガチの社畜じゃん。


「まぁいい。さっさと戻れ」

「わかってる……テオドール、君の試合を楽しみにしているよ」

「しなくていいです」


 多分、俺が戦うよりも先に仕込みの方が早いと思うから。



 建国祭も日程が進んできて、実力者同士がぶつかり始めたらしい。俺は魔法騎士団に関して師団長ぐらいしかまともに知らないので、実力者とか言われてもわからん。鏖殺騎士とかは見ればわかるんだけどね……見たことあるから。でも、未だに誰もグリモアが使っていないからあんまり盛り上がってる感はない……俺だけかもしれないけど。

 ちなみに、楽しみにしなくていいとか言っておいたのに俺の試合は普通にあった。速攻相手の武器を破壊して降参させたので、見所はなかったと思う。


「テオ!」


 すっげぇやる気もなくてぼーっと試合をエレミヤと一緒に眺めていたら、俺の名前を呼びながらニーナが走ってきた。


「どうした?」

「来たぞ」

「は?」


 え? 来たって俺の仕込みが?


「マジ? まだ準備してないけど?」

「思ったよりやる気満々って感じみたいだ」

「そうなのか……ならさっさと動かないと」


 どうやら、俺たちが仕込んだとっておきの反逆行為が既に始まっているらしい。本当は先に民間人を避難させるように誘導したかったんだが、仕方ないか。

 エレミヤと頷きあって動こうとした瞬間に、闘技場に巨大な火球が降ってきた。狙いは……貴族が中心に座っている座席だ。


「て、敵襲ですっ!」

「敵、だとっ!?」


 火球がゆっくりと降ってきたことで大パニックになっている闘技場の中、魔法騎士がフローディル内務卿に敵の知らせを持ってきた声を聞いた。明らかに動揺したようなフローディル内務卿の声に、ちょっと笑みが浮かんでしまった。

 それはそれとして、被害を大きくしたくないので火球をなんとかしようと思ったら、既に第5師団長ロンドールが飛んでいた。


「建国祭に敵襲! 魔法騎士団はすぐさま対応しろ!」


 地竜を切り刻んだ時と同じように、一振りで火球を細かく刻んだロンドールは闘技場にいる全ての魔法騎士に対応を呼びかけていた。

 そんな最中に、フローディル内務卿が王族の方に視線を向けて歩き出そうとしたのが見えたので、すぐさま前に出る。


「……どいてくれないかな?」

「どうして?」

「君も早く避難した方がいい……敵襲だよ?」

「それは貴方が仕掛けたことかもしれない。見逃すことはできないな」


 まぁ、俺がやったことだからフローディル内務卿はなにも悪くないんだけど。


「……そうか、君は私が何をしようとしているのかしっかりと理解しているようだ。そして、こうやって混乱を生み出した」

「あんな火球がただの学生にできると本気で思っているんですか?」

「いや、あれは魔法による火球じゃない。あれは……亜竜のものだ」


 正解。


「あ、亜竜が来たぞっ!」

「亜竜だとっ!? 何故竜が建国祭を狙いに来る!」

「ち、違う……背中に人が乗ってるぞ!」


 亜竜は竜種とは違い、人間にも飼育が可能な魔獣……なんだが、中々難しいらしくてクーリア王国では一般的ではない。制御できれば強大な軍隊になると思うが、魔法騎士でいいじゃんって声もあるみたいだ。だが……事実としてはこうして絶大な威力を見せている。


「……亜竜に人が乗った軍隊。亜竜隊があるのはだけ……つまり、これは君が手引きした襲撃と言うわけだな」

「ルーカス連合なんて名前があったんですか、知りませんでしたね……クーリア王国では西としか習いませんから」


 そう……俺がやったことは、建国祭の日付に王族が無防備に集まるから、まとめて殺すには打って付けだぞって教えただけだ……西側諸国に。


「外患誘致は即死罪の反逆行為と知っての行いかな?」

「王族の殺害だって問答無用の死罪だろ」


 やってることは同じさ。


「西側諸国の亜竜隊だと!? エルグラント帝国は何をしていた!?」

「奴ら、エルグラント帝国を迂回してやってきたんだ! そうに違いない!」

「馬鹿な……亜竜と言えど、そんな距離を飛べるわけがない!」

「エルグラント帝国が裏切ったのだ! そうに違いない!」

「軍は何をしている!? さっさと賊共を殺せ!」


 おーおー偉そうな人たちが好き勝手言ってるなぁ……今まで自分たちが軍縮って頻りに言ってたの忘れたのかな?


「君の狙いはルーカス連合にこの建国祭を襲わせて、全てを有耶無耶にしてしまおうということかな? 随分と荒っぽいことを考えるものだが……これは明確な戦争行為だ。私が手を下さなくてもこのままではルーカス連合とは戦争になるだろうな」

「どちらにせよ、戦争にはなるさ。西側諸国は随分とこちらの大陸にご執心だからな」


 まぁ……向こうの大陸は『終末の竜』による大穴から出てくる魔獣が嫌で、戦争ばかりしてるんだろうが。


「……まぁ、いいさ。これで口だけの貴族連中も軍拡に文句は言わなくなる。私が王族を殺す意味もなくなった」

「そうか。なら、一緒にルーカス連合を止めようか」

「いや、君は危険だ。自らの利益の為に平然と外患誘致をする人間を、そのまま見過ごすことはできない。君は、大を救うために平然と小を切り捨てたんだ」

「悪いが、問答をするつもりはない」

「君のその行為は、いずれこの国に害を及ぼす……ここで摘む」


 なーんでこんなことになるかな……俺はちらっと敵を呼び込んでフローディル内務卿と停戦状態に持っていけたらよかったんだが、まさかここで直接戦うことになるとは思わなかった。ただ……彼の言いたいこともわからないでもないから、仕方がないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る