第74話 魔法騎士団副総長

「やれやれ……これからすることを考えると、真面目に建国祭を楽しんでいる気分にもなれないな」

「少しぐらいはいいじゃない。貴方の仕込みが上手くいくかどうかわかるのも、午後の話でしょう?」

「……なんでここにいるのかな?」


 観客席でぼーっと試合を眺めていたら、王族席にいるはずのエリッサ姫が隣にやってきた。ドレス姿になって王族の観覧席にいるものだと思ったのだが、何故かいつも通りクロノス魔法騎士学園の制服を着ている。


「私だって出るのだから、当然よ」

「出るのっ!? 王族がっ!?」


 本末転倒では?


「私だってお父様に反対されたけど、魔法騎士として結果を残している以上は出ない訳にもいかないでしょう? 序列だって上位なんですから」

「まぁ、そうなんだけど……えぇ……」


 王族に見せるための建国祭で王族が出るのっていいのか?

 いや、クロノス魔法騎士学園に通っている以上はいいんだろうけど……なんか違うくない?


「ふぅ……エリッサ様、テオドール、楽しんでいるかな?」

「いや、お前の試合は楽しくなかった」

「そりゃあ……悪かったね」

「結果が分かり切ってたからな」


 さっきまであの闘技場で戦っていたエレミヤが笑みを浮かべながらやってきたんだが……こいつの試合は一方的でつまらなかったので途中から欠伸しながら見てたぞ。だってエレミヤさぁ……普通にそこら辺の魔法騎士より強いんじゃないんのかって思うぐらいには強いし。最初からどっちが勝つかわかってる試合を見て楽しめる性格じゃないんだよ、俺。


「テオ!」

「ん?」


 俺のことをテオと呼ぶ人間は少ない……と言うか、学園で言うとニーナだけなんだが……今の声は女性の声ではなかった。だが、俺のことをテオと呼ぶ男性……建国祭に誰か知り合いなんて来たのか、と思い返してから1人だけ思い当たる人物がいた。


「テオ! やっぱりお前も建国祭見に来てたのか! いやー流石俺の息子だな!」

「……いや、クロノス魔法騎士学園でやるんだから見に来るぐらい普通だろ、


 俺のことをテオと呼ぶ魔法騎士に関係のある男性……つまり父親だ。


「テオドール、の……」

「父親?」


 俺の父さんという言葉に反応して、エリッサ姫とエレミヤがすぐさまそちらに視線を向け、影の中から顔を出したアイビーと少し上の席にいたはずのリエスターさんまでやってきた。

 俺に向かって元気に手を振りながら近づいてきた父さんは、俺の傍にいるアイビーを見てからなんとなくニヤけた顔になってから、エリッサ姫とエレミヤ、そしてリエスターさんの顔を見て固まった。


「……テオ?」

「あー……学友と、試験官?」


 顔を引き攣らせた状態で俺に説明を求める視線を向けてきたが、どうやらアイビー以外の3人に心当たりがあったようだ。


「……?」

「あー……今は私的な状態だから、やめてくれないか……」


 ミスラ、副総長? リエスターさん、今副総長って言ったか?


「……父さんって下っ端じゃなかったのか?」

「なっ!? 貴方、自分の父親のことも知らなかったの!?」

「うん」


 だって普段から自分のこと「俺は上司の無茶ぶりを聞いては王国を走り回るだけの下っ端みたいなもんだよ……給料はいいけど、無茶ぶりはやめて欲しいよな」って社畜みたいなこと言ってたから。精々が部隊長ぐらいで、中間管理職でもやってんのかと思ったけど……思ったよりがっつり管理職だったな。


「ミスラ副総長と言えば、家庭のことが大切だからって叙爵を断った人じゃないかな?」

「そうよ。お父様が酷く残念がっていたわ」

「へー……やるじゃん父さん。かっこいいよ」

「複雑! 息子に初めてかっこいいって言われたことがそれってなんだか複雑な気持ちだぞ!」


 いや、マジで凄いと思うよ。副総長ってことは単純に師団長よりも上の立場じゃん……てことは、滅茶苦茶偉いってことだ。

 叙爵を断ったのは家族の為って言っているけど、ようは爵位を与えられて面倒な立場になりたくなかったってことだろ? まぁ……母さんだって農家やってるのが楽しくて、金で好き放題するのは性格的に合わないって言ってたな。


「もしかして母さんってどっかの貴族令嬢だったりする?」

「いや、農民」

「そっか……そうだよな」


 あの図太さは農民だな。


「……それにしても驚いたな。テオドールは自分のこと平民だってずっと言っていたから、本当に平民だと思ってたんだが……まさか父親がミスラ・フリューゲルス副総長だったとは」

「フリューゲルス?」

「まぁ……母さんと結婚する前に使ってた名前、みたいな?」


 へー。


「すっごい興味なさそう……本当に父親なのよね?」

「そうだよ。家でずっと片手魔法剣術の相手して貰ってた父親」

「む、息子が知らない間に王族と公爵家に繋がり持ってる……恐ろしい!」


 うるさ。


「竜種を単独で討伐する実力……父親譲りだったのか。副総長とは私は何度も剣を合わせた仲だからな」

「リエスターさんが? そっか……じゃあ下っ端って嘘吐いた父さんが悪いな」

「ごめんって!」


 普通に俺は魔法騎士団の副総長なんだぜって言ってくれれば、もうちょっと尊敬してやったのに……いや、そもそもあんな郊外の家に帰ってくるのは本当の休暇の時だけだったんだろうな。家でぐらいだらしない父親でいさせてやるのが優しさか。


「なんかすっごい息子に優しい目を向けられてるんだけど……これ、絶対に駄目なやつでしょ」


 そんなことはない……これからちょっと優しくしようと思っただけで。


「初めまして、エレミヤ・フリスベルグです。テオドールは……切磋琢磨する相手として、そしてかけがえのない親友として仲良くしています」

「切磋琢磨はしてるかもしれないけど、そんな親友になった覚えはないぞ」

「私の方が宿敵として、そして恋人として仲良くやってるわ!」

「恋人になった覚えもないぞ」

「次期公爵が親友!? 第2王女が恋人!? そしてサラッと流したけど竜種を単独討伐!?」


 おぉ……驚くことが多いな。


「何をそんなに驚くのですか? 副総長も学生時代に竜種を単独で討伐したと聞きましたが?」

「いや、あれは流れと言うか……その……」

「一緒じゃん」


 リエスターさんがいるから父さんの情報もぼろぼろ出てくるな。

 それにしても……父さんって滅茶苦茶偉い人だったのか。こんなに驚いたのも久しぶりってぐらいに驚いてるな……と言うか、じわじわ来たな。


「ふむ……道理でアンセムの姓で調べても特になにもわからなかったんですね」

「なんて言った?」


 調べた? アイビー、今俺のこと調べてたって言った?

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