第73話 いざ建国祭
建国祭が始まった。
元々は初代魔法騎士団団長、アルフレッド・ビフランスが国王の前で剣技を披露したことから始まっていると言われているこの建国祭での魔法騎士同士の決闘。魔法騎士は普段から私闘を禁じられているが、この日ばかりは誰もが公の立場で戦うことができるということで、実質クロノス魔法騎士学園のOB戦みたいになっている。
「ふっ!」
「なぁっ!?」
既に建国祭の第1試合が始まっているが、かなり朝早いので人がまばら……なんてことはなく、王都からだけではなく周辺の都市から集まってきた多くの人が盛り上がっていた。
闘技場で戦っているのは、確か第1師団の若い魔法騎士だったかな……その相手は、アッシュ・ガーンディだ。
「……今年の新入生は粒ぞろいだとは聞いていたが、まさか魔法騎士と互角にやりあうことができるとは思っていなかったな」
「互角? 目ん玉洗ってきた方がいいんじゃねぇか? 第1師団長さんよぉ」
「まぁまぁ……彼だって自分の部下が可愛いんですよ」
俺は意図的に王族と魔法騎士団の師団長たちが近い席に座っているのだが、第1師団長の貴族みたいなおっさんと、第2師団の荒くれっぽい男の仲が悪いのは一瞬で理解できた。ちなみに、第3師団長のリエスターさんは欠伸をしている。まぁ……この建国祭の準備で忙しかったみたいだしね。
仲が悪い2人の間に入っていったのは、おっとりした印象を持つお姉さん……アイビーが用意してくれた資料に載っていた第4師団長だろう。以前会ったことのある第5師団長は、フルフェイスの兜を被ったまま黙っているので……あの人はかなり真面目そうだな。
「流石にここまで揃っていると圧倒されますね」
「アイビー?」
「はい」
ちらりと背後の様子を窺っていたら、いつの間にかアイビーが横に座っていた。
「第1師団長ボールス、第2師団長エスタミル、第3師団長リエスター、第4師団長キマリス、第5師団長ロンドール」
「誇張無しにクーリア王国の最高戦力だな」
クーリア王国の魔法騎士は全員が確かに強いが……あの5人は別格だ。特に第1師団長のルーカスは見ただけで理解できるような実力者だ。もう立ち振る舞いからして、他とは一線を画している。
「あの中の半数は敵かもしれないんですから、全く嫌になりますね」
「それはまだ仮定の話だろう? 本当は全員敵かもしれないし、もしかしたら全員が味方かもしれない」
アイビーは俺の言葉に肩を竦めた。
俺たちのそんな事情などお構いなしに、闘技場の方ではアッシュが若い魔法騎士を打ち倒していた。
「……まだやるか?」
「まさか、降参だ」
魔法騎士側の敗北宣言に、初戦から会場は大きなどよめきが起こっていた。まぁ……普通に考えて1年生が初戦から魔法騎士に対して下剋上をするなんて思ってもなかっただろう。しかし、お手本通りの片手魔法剣術を相手にするアッシュは異次元の強さを発揮する。剣術を磨けば磨くほど、アッシュが優位になるなんてクソ面白いよな。
「やぁ……楽しんでいるかい?」
「……どうも」
すぐさま第2試合が始まろうとしている中、アイビーとは逆方向の隣にフローディル内務卿が座った。
「忙しいのでは?」
「まさか。私が忙しいのは開会前と、終わった後だけだよ……宰相がいなくなったせいで、授賞式にも出ないと行けなくて大変だ」
「でも、試合中は関係ないと」
「勿論。それは部下の仕事だからね」
なんか普通に話しかけてきてるけど……まだ敵対してるよね?
「あの件、結局君は拒否したと考えていいんだね?」
「まぁ……俺にも譲れないものはありますから」
「それはなにかね?」
「命、とか」
「自分のかい? 随分と臆病なんだね」
臆病で結構……生物の絶対的な役割は自らの子孫を残すこと。その為に最も必要な能力は生き残る力だ。
「……アッシュ・ガーンディ、彼はいい魔法騎士になるだろうね」
「……」
「ここで消さなければならない運命だと思うと、少し寂しいよ」
この野郎……アッシュがこちら側なことなんてお見通しだってか? 別に俺だって隠していた訳じゃないから、俺の学生生活を監視していればすぐにわかるだろうが……どっから見てやがった。
「フローディル内務卿、一つだけ教えてください」
「なにかな?」
「……貴方の考える未来に、クーリア王国の平和はあるのですか?」
「……どうだろうね。それは自分の手で切り拓いていくものなのかもしれない。終末を乗り越え、人類は神を捨てて自らの足で歩き始めなければならない」
「その歩き始めるための一歩を、貴方が踏み出すと?」
「民が……世界が許せば、だ。私は自らがどうなろうとも、国だけは必ず強くする……それが私の愛したクーリア王国へできる最大の恩返しだ」
ふーん……この人の守るべきクーリア王国の中には、王族や国民なんて含まれていないのかと思ったが、そうでもなさそうだ。そして……自らの起こした改革で自らが命を落とすことを覚悟している……と言うか、誰かに殺されるであろうことを予見しているようだな。
「じゃあ、引き続き建国祭を楽しんでくれ。準備にはそれなりに手間がかかったからね」
「楽しめる限りは楽しみますよ」
「ふふ……若いうちから先のことばかり考えていると、あっという間に老けるよ」
余計なお世話だ。
「なんというか……不思議な人ですね。自らの正義に酔っているようでもないですし、かと言って悪党とも言い切れない」
「やろうとしていることは国家反逆なんだから充分悪党だろ」
ただ、それが自らの私欲の為にやろうとしていることじゃないってだけで。大義の為であると言っても、犯罪行為は犯罪だからな。バレなきゃ犯罪じゃないとか自分で言っておいてなんだが、犯罪はどこまで言っても犯罪だ。
「1人殺せば悪党で100万人だと英雄、か」
「なんですか、それ」
「なんでもない」
大いなる大義の為ならばどんな犠牲を払おうともちっぽけなものだと、きっとフローディル内務卿は言うのだろうが……責任逃れはよくないな。
「自分がやったことに対しては、しっかりと目を開けて見つめてやりたい。そう思っただけだ」
これから俺たちがすることも、きっと大義の為って理由はつけられるが……単純に犯罪だ。犯罪は犯罪であって、そこに優劣はない。等しく裁かれる罪だ……だが、今更それぐらいで俺が止まるかよ。
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