第71話 無意味な会議
「僕は全面的にテオドールの意見に賛成……なんだけど、普通に考えてことを起こす前に内務卿を暗殺するって、普通に国家反逆罪だから簡単に処刑されるよ。たとえ僕が公爵家の跡取りだろうと」
そりゃあそうだ。
「じゃあどうする?」
「どうするもこうも……無理じゃないか? この場にいるエリッサ様だけ助けて、後は知らんぷりするってのが一番楽だと思うが」
「そうしたら次は俺たちが戦争に向かわされるだけだが? そこで生き残ったら次の戦場までいくか? 納得もしてない男の下について? 悪いが俺はあの男の言う通りに働くのがごめんだな」
「……なぁエリクシラ、なんでこいつはフローディル内務卿のことこんなに嫌っているんだ?」
「私に聞かないでください。貴方の方が詳しいのでは?」
「俺が詳しい訳ないだろ。この男に勧誘されただけの男爵だぞ?」
だから聞こえてんだよ。なんで君たちはさっきから定期的に俺の悪口言ってるの?
「同族嫌悪よ」
「エリッサ姫、それだけはない」
「つい先日まで認めてたじゃない」
くそ……俺はあのおっさんと同族だって? そんな訳……ない、はず。
「……襲撃の瞬間を止めたら?」
ああでもないこうでもないと頭の中をぐるぐると色々な情報が巡っている中、ヒラルダが空気を読まずに告げた言葉に、全員が固まった。
「王族が集まって、それを全員殺そうって言うのならそれなりに派手な襲撃になると思う。だから、その瞬間を止めてしまえばいいんじゃないかしら」
「……あの男が尻尾を出すか?」
「うん、テオドールの言う通り、きっとフローディル内務卿は捨て駒にするような誰かを使って襲撃させるはずだ。だから、襲撃を防いでもなにも変わらない」
それこそ、エリクシラが語った通りエルグラント帝国のせいにするなら、エルグラント帝国兵と同じ格好をさせた奴に自爆特攻させて、殺した奴の口も一緒に封じるとか。あるいは、騎士の誰かに殺させてから、背後からフローディル内務卿がその者の首を討ちとるとか。
「そうかしら? 私、魔法騎士団に知り合いは多いけれど、王族を全員殺すことに賛同する人なんて早々いないと思うわ」
「……つまり?」
「フローディル内務卿は、自分がやろうとしていることの全てを語って味方を作っている訳じゃないと思うの。テオドールも言っていた通り、フローディル内務卿は他人のことなんて全く信用していないとしたら」
あり得るか。なら、襲撃犯をその場で止めて、魔法騎士団の連中を説得すればいいのか。
「待ってください。確かに、魔法騎士団の人たちが王族殺しに納得しているはずがないと思いますが、だからと言ってフローディル内務卿が敵なんだと言って素直に信じるような都合のいいことはありません」
「ならどうするの? エリクシラ・ビフランス」
「それは……その……」
「証拠をなんとかして掴まないといけない、ですね」
「無理だろ」
アイビーの言いたいこともわかる。確かに彼女のグリモアを使えば情報は幾らでも手に入るし、もしかしたらフローディル内務卿の裏側の顔だって手に入る可能性はある。でも、それを突き付けて崩せるほどフローディル内務卿の地位は安くない。それこそ、スマホの録音機能とか録画機能があれば動かぬ証拠として使えるかもしれないが、そんな便利なものはこの異世界には存在しない。
「やっぱり詰みじゃん。ひっくり返すしかないって」
「だからひっくり返すって野蛮じゃないか?」
「じゃあどうする……って何回もやったでしょ」
もう無理だって。
フローディル内務卿の作戦は完璧だ。きっと彼は、何かしらの方法で『終末の竜』の存在を知り、その為に何年もかけて準備をしてきたはずなんだ。あれだけの愛国心を持つ男なら、きっと国王にも軍備増強などの進言をしたはずだが……それでも彼がここまでのことをすることになったのは、きっと受け入れられなかったからだ。
宰相を捨て駒にしたのも、最初から既得権益に縋りつく邪魔者を国の為に排除したから。捨て駒として扱えば、自分の計画の助けにもなって一石二鳥だったはずだ。そして……恐らくは宰相と子爵反乱の件で軍備増強を進言して……再び断られた。それどころか、軍縮の話まで出ているのだ。
「もう正論であの男に勝つ方法はない。邪道でもいいからあの男を止めなければ……世界中を巻き込む戦争になるぞ」
戦争が始まって真っ先に命を散らすのは貴族じゃない。
もし『終末の竜』が本当に存在して、自国を強くしなければ生き残れないとしたら、西側諸国なんていう馬鹿の集団が戦争を仕掛けてくるのだから、先に潰してしまえば……言いたいことはわかる。だが、その過程で命を散らすのは貴族じゃなくて俺たちだ。俺は……愛国心を抱いて死んでいくのはごめんだな。
フローディル内務卿が『終末の竜』を討伐するための「必要悪」だとするならば、俺は今の平和を守るためにフローディル内務卿を殺す「必要悪」にもなろう。
「誰に賛同されなくても俺はやるぞ。戦争なんてごめんだからな」
「待ってくれテオドール、別に僕たちだって反対な訳じゃないんだ。ただ……どうすればいいのか全く思いつかない」
「俺だって思いつかないからこう言ってる」
もうどうしようもないんだよ。
「もし……もしの話よ? 私が国王の座を継いだら……全部なんとかならないかしら?」
「……は?」
頭おかしくなった?
「勿論、お兄様たちを説得しないといけないのはわかっているし、フローディル内務卿だって私が国王になったからってすぐさま納得する訳ではないと思うけれど……でも、全部上手くいくとは思わない?」
「思わない」
「思わないです」
俺とエレミヤに速攻否定されて少し怯んだ様子を見せたが、エリッサ姫の目には強い決意のようなものが宿っていた。
勘弁してくれ……こんな時まで頭お姫様か? そこさえなければ善良な性格で庶民的なお嬢様として好きなんだがな。
「だってフローディル内務卿の言いたいことも、テオドールは理解できるのでしょう?」
「そりゃあそうですよ。俺だって戦争が嫌だってだけで、既得権益に縋るだけのクソ無能貴族共が特権階級かざしてブクブク肥えていくのは嫌だし、人類の終末なんてもっと嫌だ」
「なら、もっと話し合うべきよ」
それができたら苦労しないんだがなぁ……そもそも、俺とフローディル内務卿が嫌っているものが同じでも目指している場所が全く違う。フローディル内務卿はクーリア王国が無事ならばなんでもよく、俺は俺が無事ならなんでもいい。この違いは大きいぞ。
「お父様の平和ボケも私は相当なものだと思うけど、フローディル内務卿の行き過ぎた自国主義もどうかと思うわ」
「国王のこと平和ボケって言えるのはエリッサ姫だけだな」
「事実でしょう」
うん……まぁ……そうね。
「いいわ。私が国王になって誇り高い国を取り戻してあげる! そうすればフローディル内務卿だってある程度は認めてくれるはずよ!」
そう上手くいくかな。
そんな意図を含ませた視線をみんなに向けると、エレミヤ以外の全員が目を逸らした。だからなんでエレミヤは常に俺側なんだよ。
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