第70話 みんな集まった

「集まってくれてありがとう。今日は緊急のお話だ」

「……質問いいか?」

「はいアッシュ」

「なんで派閥で集まっているはずの場所に、エレミヤとヒラルダ、それにエリッサ様までいるんだ?」

「今回は派閥で集まってるんじゃなくて俺が信頼できる人間に集まってもらっているからだな」

「そう、か」


 古書館2階の奥に空いていた机でエリクシラ派閥の全員。それに加えてエレミヤとヒラルダ、エリッサ様が集まっている。当然、話すのはフローディル内務卿について。


「で、話す前に1つ。アイビーとニーナ、それとアッシュは聞かないって選択もできる。これから話すことは……国に反逆するようなことかもしれないからな」

「僕は?」

「お前は最初からこっち側だからダメ」


 そもそもエレミヤが始めたんだからな?


「問題ない」

「私も残りますよ? だって聞きたかったことだと思うので」

「……例の話だろう? 今更逃げる気なんてない」


 おぉ……ニーナは鏖殺騎士のせいでギラギラだし、アイビーとアッシュは今から俺が何を喋るのかわかっているらしい。まぁ……このメンバーを集めてエレミヤが関係あったらそれしかないんだろうけど。


「……私は?」

「個人的に巻き込んだけど、多分関係ない話ではないと思うよ」


 自分を指さして首を傾げるヒラルダだが……流石に辺境伯は関係ないとは逃げられないと思う。この話を聞いてフローディル内務卿につくってことなら流石に拘束させてもらうけど。

 全員納得できたみたいなので、一気に全てを喋る。俺とエレミヤが追いかけていた敵がフローディル内務卿であったこと。彼は恐らく富国強兵政策を目指して王族の全滅を狙っていること。エリクシラの推察交じりだが、彼はエルグラント帝国とクロスター王国を支配して西側諸国とも戦争をするつもりだと。そして……彼の行きつく先が『終末の竜』であると。

 全員の反応は……当然ながらバラバラ。エレミヤは納得したと言わんばかりに頷いているし、アイビーは予想以上の話に嬉しそう。いきなりぶっ飛んだ話をされて頭から煙が出そうなニーナに、苦い顔をしているアッシュ。フローディル内務卿の名前を聞いて目を見開いているヒラルダと、初めて聞いた『終末の竜』の話に頭を抱えるエリッサ姫。


「と、まぁ……状況ははっきり言って最悪……どころかほぼ詰みかけだ」

「そうだね。建国祭で堂々と王族を全員殺そうなんて正気の考えじゃない。まず、魔法騎士団の半数と王国騎士団を全員味方につけているとかでもないと、そんなことはできないと思うし」

「だよなぁ」


 あの男が単純に自分の手腕に対する自信だけで強気になるとは思えない。根回しが済んでいるからこその自信なんだろうと思う。というか、フローディル内務卿からすると全てが上手くいくと思っていた状態で、根回しも数年前から進めていて後は実行するのみって段階で急に俺と言う不確定要素が割って入ってきたって感じだろう。そりゃあ……向こう側としてもムカつくよな。


「状況は詰みかけって言うか、もう終わってる。ここから盤面を逆転するなんて不可能」

「ヒラルダの言う通り、まず無理だ。相手がとんでもない馬鹿ならともかく、俺なんかよりよっぽど頭がいいフローディル内務卿だって考えれば、勝手に失敗してくれる可能性はない。戦うこと自体が自殺みたいなもんだな」

「はぁ……ありえない」


 うん……エリッサ姫の気持ちもわかる。はっきり言って、クーリア王国随一の頭脳を持ちながら実力をしっかりと持っている相手に対して、時間も準備も足りないのに戦おうなんて方が無謀だ。こんなの最初から死にに行くようなものだ。


「だが、盤面を逆転する方法はなくても、勝つ方法はある」

「どうやって? 頭はよくないが普通はそんな便利なものがないことぐらい、私にもわかるぞテオ」

「盤面上で勝てないなら、盤面そのものをひっくり返せばいい」

「……なぁエリクシラ、テオって時々馬鹿になるよな?」

「元からじゃないですか?」


 聞こえてんだよ。


「あはは! いやいいね、テオドール。君の考えは僕好みだよ本当に」

「……やはり、エレミヤは貴方のことばかり見ている」


 そこのゲラゲラ笑ってる1位と、何故かそこで俺に視線を向ける2位は黙ってろ。


「そもそも、ここまで全て語ってきたことがフローディル内務卿の作り上げた盤面だ。エルグラント帝国とエリッサ姫の婚約に始まり、王子2人の対立構造、宰相の不在、魔法騎士団の動き……真正面から戦って勝つ方法なんてない! 断言する!」

「だから頭が悪い方法で解決しようって? だがどうする気だテオドール。はっきり言って、俺やエレミヤが動いたところで戦力としてはたかがしれている……頭が悪い方法と言っても……真正面からしかないだろ」

「ならアッシュ、フローディル内務卿は味方を信用していると思うか?」


 俺はここに勝ち筋があると思う。


「……ないな」

「そうだ。あの男は味方のことなんてこれっぽっちも信用していない。なんなら魔法騎士団の師団長を味方に引き入れていたとしても、恐らくは捨て駒程度にしか考えていないはずだ」

「つまりなにが言いたいんだ?」

「あの男がいなくなれば全ての計画は瓦解する。簡単なことだろ?」


 そもそも盤上遊戯であんな狸と戦おうってのが間違ってる。首謀者がわかったなら首謀者がことを起こす前に消せばいい。

 俺の言葉に対して、賛成っぽい雰囲気なのは……エレミヤだけだな。なんでお前はいつも俺側に立ってるの? これが滅茶苦茶美人な金髪公爵家令嬢とかだったら惚れてたかもしれないのに、なんでお前は男なの?


「無理、だと思いますよ?」

「どうして?」


 今までずっと黙っていたアイビーが、少し言い辛そうな顔で意見を言ってくれたが……アイビーがこんな弱気な言葉を発するところは初めて見た。


「フローディル内務卿は確かに政治手腕も凄いですけど……魔法騎士としても桁違いの力を持っています。噂でしかないですが……現在の第1師団長を単独で制圧できるほどの力だと」


 マジ? それって滅茶苦茶楽しそうじゃん。


「あ、ダメそうですね」

「テオって私のこと色々言うけど、自分の方が蛮族じゃないか?」

「小市民面しているだけよ、この男は」

「エリッサ様にもそんなこと言われるんだ……この人……流石は試験を受けなかった人」

「試験受けたのに最下位一つ上だった女は黙ってろ」

「なぁっ!?」


 事実だろ。

 

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