第67話 しょうがないから教えた

 うん……話しておこうかな。黙っていても面倒なことになるだけな気もするし、このまま行くと隠し通すことなんてほぼ不可能だと思うから。


「フローディル内務卿、敵だったんだよね」

「……は?」


 いや、どこから言えばいいんだろうかと思ったんだけど、一々細かく説明していくと面倒なことになることは確定なので、さっさと本題から話していこう。エリッサ姫の金髪が魔力によってふわりと浮かび上がり、こちらを睨み付ける碧眼が鋭くなった気もするけど気にしない。


「国を裏から操って富国強兵をしようとしていたのが、フローディル内務卿だったって話。それでさっき色々と交渉してくれたんだけど……申し訳ないけど断っちゃった。南の半島全部くれたらいいよって言ったら怒られちゃってね」

「ふぅ……」


 うん、滅茶苦茶怒ってるな。今のは怒鳴りたくなるのを抑え込んで息を吐いたって感じのため息だった。


「まず、南の半島というのはアクラレン半島のことであっているかしら?」

「そうそう」

「馬鹿なのかしら? あんな国の生命線とも言える場所を庶民にぽんとくれる訳がないでしょう? 大体貰ってどうするの?」

「え? 国の命は俺が握ってるぞー……みたいな? 取引価格を無駄に高くしてもいいかもね。だって俺の土地になるんだから、採掘するにも金払ってもらわないといけないし」

「やってることも言ってることも反逆よ?」


 そりゃあそうだ。


「それで? フローディル内務卿が敵だった、貴方はアクラレン半島をくれるならいいよと言って、それを断られたから仲間になるのをやめたってことなのかしら?」

「うーん……」


 ちょっと違う気もする。だってそもそも、フローディル内務卿は俺のことなんて最初から仲間にする気なんてなかったから。適当に上手く使ってから、裏で始末するぐらいのつもりだったんだろうと思う。何故なら、彼は俺のことを愛国心のない獣ぐらいにしか思っていないから。と言うか……彼だって俺と相容れないことなんてわかりきっているはずだ。


「何故、フローディル内務卿は貴方に会いに来たのかしら」

「そりゃあ……俺のことを危険に思っているからじゃないか?」


 俺はそうだと思うよ。俺のことをなんとも思っていなかったら、最初から個別に対応なんてしないだろうし、俺のことをただ単に強いだけの奴だと思っていたら普通に暗殺でも企んでたでたはずだ。でも、彼の目の前でお気に入りの女を簡単に制圧され、エリッサ姫に差し向けた暗殺者も返り討ちにあった。多分、フローディル内務卿は一度でいいから俺に直接会って手を引くように言いたかったんだと思う。


「それに……俺とフローディル内務卿は一緒に歩くことなんてできないよ。コインの表裏とは言わないが……限りなく反対に近い位置に存在していると思う」


 だからこそ、似通っている部分もあると思うけどな……認めたくないけど。絶対に認めたくないけど。


「ちょ、ちょっと待って……じゃあ最初から仲間にする気なんてなかったのに会いに来た理由は危険だと思ってるからってだけなの? そんな理由であの内務卿が……」

「事実として動いたんだ。起こった事実はしっかりと受け止めて次に活かしていかなければ駄目だろう?」


 フローディル内務卿が俺個人の為に動いたことに対して、簡単に考察するのなら……俺以外の事柄は大体片付けることができる算段がついている、とか? それで、実際に俺に会ってみて絶対に懐柔することが不可能であると確信したから簡単に引き下がった、とか?

 ここまで全部俺の考えでしかないが、そこまで遠いことでもないと思う。


「仕掛けてくる……というか、国をひっくり返そうとしてくるのは間違いなく、建国祭の近くだろうな」

「……何故?」

「決まってる。王族の全員が一か所に集まることになんの違和感もないからだ」


 もし、俺以外の全てを片付けることができる算段があるのなら、王子同士を対立させる必要なんてない。簡単に全員を消し去ってしまえばいいのだから、後は国民に怪しまれないように王族の全員を集めればいい。

 王族の誰か1人が暗殺されれば大騒ぎになるだろうが、全員が同時に死ねば逆に御しやすくなる。


「実際、建国祭は王族全員集合だろ?」

「……そうね、強制だもの」


 そもそも王族の前で魔法騎士同士が実力を示すお祭りなんだから、そりゃあ王族が集まらない訳にはいかないよな。ただ……一つだけ気になることがある。


「建国祭を狙ってくるということは、第1師団から第5師団まで全ての魔法騎士を正面から相手にするってことなのよ? そんなこと、いくらフローディル内務卿でも不可能じゃないかしら」

「そこなんだよな」


 王族が全員集合し、王都に住まう民の半数が来ると言われている建国祭には、当然ながら魔法騎士団が勢揃いだ。魔法騎士団の師団長全員が横に並ぶ光景を見たくて、わざわざ王都以外から来る人もいるぐらいには、魔法騎士団にも人気があるからな。

 以前、エリッサ姫に告げた通り、魔法騎士団と真正面から戦うなんて愚の骨頂。はっきり言って自殺行為でしかない。しかも建国祭は魔法騎士だけではなく、王国騎士隊も王国魔導士隊だって揃っているんだぞ? 国民には詳細が明かされていない近衛騎士団だって潜んでいるって噂もあるし……そんな相手に何をしようって言うのか。


「そもそも、フローディル内務卿は建国祭でかなり重要な役割を持たされるわ」

「宰相がやらかして空席だしな」


 建国祭の総責任者は基本的に宰相になるはずなんだが、その宰相を自分で駒として使って追い落としたのだから、その分の仕事もあるはずなんだが。


「……でも、フローディル内務卿が自分で建国祭の責任者になれるってのは、考えようによっては利になっているのか?」

「第3師団が常に傍にいるのに?」

「うーむ」


 わからん。

 庶民から魔法騎士になり、そこから実力と民衆からの人気だけで内務卿に成り上がった男だ。政治的な手腕も見事と言われるもので、いくつも国内外の問題を解決してきたあの内務卿が、そんなくだらないことで詰むとも思えない。

 真正面から戦って誰にも負けるつもりなんてないが、頭の方ではそうもいかないからな。あの内務卿を相手に知恵比べで勝てると思うほど自惚れてはいない。


「終末……そうだ、終末ってなんのことかわかるか?」

「…………物事の終わりのこと?」


 言葉の意味を聞いてるんじゃねーよ。

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