第66話 悩みどころ

 さて、これで敵はフローディル内務卿になった訳だが……どうしようか。

 相手が民衆からの支持もあるお偉いさんだとしたら、中々に面倒なことになることは確定しているのだが……敵の正体がわかっているだけ進展していると言えるだろう。今までは形のない靄を相手にしているようなものだったが、しっかりと敵が見えるようになったんだからな。


「そう言えば……」


 なんか、前にエリクシラか誰かがフローディル内務卿は、以前は魔法騎士だったみたいなこと言ってなかったか? だとすると、彼の能力……特にグリモアについて知っている人間がいるかもしれない。周辺を探るのは難しくても、その力を知る方法はあるはずだ。

 そうと決まれば、リエスターさんにでも聞いてみるか。第3師団長である彼女なら、フローディル内務卿の魔法騎士時代の同期とかを知っていると思うから。ただ……あの人もなにかと忙しい人だからな。


「テオドール、フローディル内務卿との面会が終わったならさっさと授業に出なさい」

「……なんでいるのか聞いてもいいのかな?」


 突然ドアを開けて入ってきたエリッサ姫にちょっと困惑してるんだが……なんでいるの?


「絶対に色々な理由をつけて授業に出ないであろうことは理解しているからよ。貴方、自分がそこまで真面目だと思っているの?」

「いや、全く思ってないけど」


 当たり前だろ。


「……それで? 何故貴方がフローディル内務卿と面会なんかしていたの? しかもこんな会議室まで借りて」

「本当は寮の自分の部屋にしようと思ったんだけど、流石にエレミヤとエリクシラから止められた。そんで教授に相談したら理事長まで慌てて出てきて会議室開けてくれた」

「まぁ……普通に考えたら優秀な生徒への勧誘だと思われるものね」

「ね? あの内務卿が相手となると流石に理事長も慌てるよな」


 普段は大物って雰囲気出している体型が狸なおやじだけど、基本的には自分よりも上の存在にへこへこしているタイプの人だからな。でも、学園の理事長なんて上の人間にへこへこしているぐらいの方がいいのかもな。冒険者ギルドの統括をしている人は、逆に滅茶苦茶厳つくて目上の人間だろうと睨み付ける角刈りのおっさんだけど。


 さて……俺は今、かなり迷っている。と言うのも、暗殺者を差し向けられるほどに今の状況に巻き込まれているエリッサ姫に全てのことを教えてあげるべきなのか、それともこれ以上巻き込まれないように安全を確保してなにも伝えないべきなのか。

 まぁ……当然ながら、エリッサ姫の性格からして絶対に情報を伝えずに全てを終わらせた場合、必ず怒られるのだが……だからと言ってこれ以上この件に巻き込むと、守り切れる保証はない。

 俺のグリモアは圧倒的な攻撃力を発揮することができても、できることは少ない。そうすると、強力な敵と戦った時にエリッサ姫を守り切れるかと言われると……厳しいと言わざるを得ない。

 だからと言って教えるのもな……必ず首を突っ込んでくるし、それを守り切るのが難しいのは同じことだ。


「何故黙っているの? 急にどうしたの?」

「……いや」


 究極の選択だ。いっそのこと教えてしまって守るか、教えずに密かに裏から守るか。

 フローディル内務卿にはああいったが、実はかなり情が出てきたところだ。自分の利を優先する性格であると自分で理解しているが、どうやらそれ以上に絆されやすい人間でもあったらしい。馬鹿な話だが……顔を知っている人間が不幸な目に合うのは正直言ってかなり心にくる。まぁ……自分が嫌なだけって考え方が、利己的な心からきているのかもしれないが。


「そう……わかったわ、貴方が今考えていること」

「マジ? 当ててみてよ」

「いいわよ」


 はぁ……いや、なんでこんなバカップルみたいなことを俺が言わなきゃいけないんだよ。


「ずばり、貴方は一ヶ月後に迫った建国祭のことを考えているわね。魔法騎士科の人間は基本的に参加するように言われるけど、希望者だけが参加するのよね。でも、序列が上位の人間が参加しないわけにはいかないから、50位ぐらいまでは強制参加だものね」

「ほー……そうなんだ」

「違った!?」


 全然違うわ。


「建国祭とか個人戦とかはどうでもいいんだよ……今はとにかく、色々な問題で手一杯でな」

「交流戦は?」

「そもそも交流戦がなんなのかも知らない……ってこれ前にアッシュに言ったら呆れられたな」

「当たり前でしょう」


 当たり前なのか。でも、確かにクロノス魔法騎士学園で真面目に魔法騎士になろうとしている人間からしたら当たり前なのかもしれないな。俺は違うから当たり前じゃないと思うけど。


「いい? 交流戦は1年生、2年生、3年生が関係なく当たる個人戦よ」

「個人戦と何が違うの?」

「一番の違いは、同学年同士での戦いは絶対にないように設定されることね」


 へー……そういうのもあるんだ。


「でも、毎年優勝してるのは3年生の1位だろ?」

「去年は2年生の1位だったアルス会長が優勝してるわ」


 マジ? 下剋上したことがある人がいるのか……普通にすごいな。


「アルス会長はグリモアを扱う人間の中では珍しく、グリモアの内容までみんなが知っている人なの」

「グリモアを秘匿していないのか?」

「する気がないんでしょうね。だって、知ったところでなんとかなるものじゃない、単純にして絶対の力ですもの」


 流石にそこまで言われるグリモアには興味あるな。


「グリモアの名前は『万人の盾ザフキエル』と言って、円形の盾を出現させるグリモアなのだけれど……」

「だけど?」

「魔法を反射して、あらゆる攻撃を受けても絶対に破壊されることのない盾、らしいの」


 それはすごい。最強の矛と最強の盾の話じゃないけど、どんな攻撃を受けても破壊されることのない盾ってのは面白いな……斬ってみたくなる。


「どんな攻撃を受けても破壊されることがないってのは本人が言ってるのか?」

「え? 周囲が言ってるだけよ」


 じゃあダメじゃん。


「……それより、建国祭の話を考えていなかったのならなにを考えていたのよ。その内容がフローディル内務卿と話していた理由なの?」

「はぁ……」


 結局は話が戻ってくるのか。でも、秘密にしていてもこのままだと暴かれてしまいそうだな……いっそのこと全部話しておいた方がいいか? 危機感も持ってくれるかもしれないしな。

 

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