第64話 第5師団長
「そんな……魔法騎士団と争うなんて」
「無茶か? 俺もそう思う」
真正面から戦えばまず勝ち目はない。かと言って、搦め手を使って奇跡を味方につけて勝ったとしても、今後の人生はずっと指名手配でもされるかもしれないな。そうなれば亡命先は……西側諸国のどっかだろうな。
「ど、どうすれば」
「危なっ!?」
俺の話を聞いて動揺しているエリッサ姫は反応できなかったが、こちらに向かって地竜が吹っ飛んできた。あの巨体が吹っ飛んでくるってどういうことだよって思ったが、事実として吹っ飛んできたんだから仕方ない。
「中心街に向けて吹き飛ばすとかどういう神経してんだ!」
「あぁ!? 知ったこっちゃねーよクソガキ! お前がちょろちょろしてっから邪魔なんだよっ!」
「それでも魔法騎士か!?」
「……まーだやってるわ」
「そうね」
野蛮人と野蛮人の言い争いは聞くに堪えないね。しかも、言い合っている最中も地竜は動き始めてるし。そんなに喧嘩するのならさっさと片付けてくれないかな……もう俺がやっちゃうよ?
「逃がさねぇって言ってんだろ!」
中心街に向けて進行しようとした地竜の目の前に、鏖殺騎士が立って大刀を振るった瞬間、爆風が周囲の建物を破壊した。やっぱりこの人、王都内を守護する魔法騎士には向いてないと思うんだけどな!
「ほらほらほらっ! もういっちょっ!」
爆発によって仰け反った地竜の腹に大刀を叩きこんで爆発を起こすんだが……地竜の突進と同レベルの被害を周囲に振りまいているように見えるぞ。
それにしても……あれだけの威力がある爆発を何度も受けているのに、地竜は倒れないな。逃げる様子もないし……本当になにかに操られているのか? 痛覚が無い訳ではないようだが……それにしたって死を恐れなさ過ぎている。
「はぁっ!」
ニーナも鏖殺騎士に食らいつくようにして地竜を攻撃しているが、正直に言ってしまうと実力不足感がある。ニーナの暴力的な剣技は、硬い装甲を持っている地竜のような相手には不利だからな。まぁ……鏖殺騎士の言う通り、まだ成長途中のガキだしな。
「いつまで長引かせるつもりだ。終わらせるつもりがないのなら私が片付けるぞ」
どこから声がしたんだと思ったら、俺たちとは通りを挟んだ反対側の建物の上に立っている人影があった。あれは誰なんだろうかとエリッサ姫に聞こうとした次の瞬間には、通りを走っていた地竜の身体が分割された。
「は?」
「な、なにがっ!?」
何も見えなかったらしいエリッサ姫の悲鳴にも似たような声を聞きながら、俺は目で追った斬撃を頭の中で再生する。
今、向かいにいる男は剣を1回振るった。その斬撃が離れた地竜の胴体を分割したんだ……しかも、連続で放って見えなかったんじゃなく、同時に斬撃が放たれて地竜の胴体はまるでまな板の上で包丁によって斬られたかのように、上から等間隔に切断されている。
「し、師団長! アタシの獲物だったのに!」
「馬鹿め。時間をかけて遊ぶのがお前の悪癖だと言ったはずだ……魔法騎士に求められるのは速度であると心得ろ」
「いや、瞬殺できるアンタがおかしいだけで、アタシは結構本気でやってたって!」
師団長……ならあれが、第5師団の長か。
「そこの君、どうやら一般市民ではないようだが、女性を助けていたのか。立派な心構えだな。将来は魔法騎士になると……エリッサ様っ!?」
顔面も鎧姿だったので男であることしかわからなかったが、俺が横抱きにしている女性がエリッサ姫であるとわかった瞬間に、すぐさまこちらにやってきて膝をついて頭を下げながらバシネットを外した。
鎧の中から出てきたのは、立派な髭が生えたダンディなおじさんだった。
「お久しぶりでございます。傷が無いようでなによりで……私の部下の馬鹿がすみません」
「い、いえ……」
「君、エリッサ王女を助けてくれて感謝する。やはり君は将来魔法騎士に……いや、君は既に魔法騎士科の人間のようだな」
「え?」
なんで見ただけでわかるの?
「君が腰に提げている短剣の鞘に描かれているのは、クロノス魔法騎士学園の校章だろう」
あ、これか……入学したときに貰ったからそのまま使ってたんだけど、見ただけでわかるもんなのか。いや、魔法騎士団の人は見慣れてるのかもな。
「そうか、エリッサ様も今は魔法騎士学園にご入学なされていると聞いていたが……君は学友か」
「まぁ……そうですね」
「なら大変な事件に巻き込んでしまってすまなかったな」
おぉ……蛮族の集団とか言われてる第5師団の師団長とは思えないぐらい紳士なおっさんだ。心なしか、茶色の髭と太陽を反射するスキンヘッドがかっこよく見えてきたぞ。
「アリーナ! 後で始末書は大量に書いてもらうぞ!」
「えぇ!? なんでっ!?」
「馬鹿者! エリッサ様が近くにいるというのに無駄に時間をかけて周囲に被害を出しておいて、なにを言うか!」
「ぐっ……それは、その……すんません……」
おぉ……あの鏖殺騎士がぐうの音も出ないぐらいに論破されてしまった。魔法騎士として王族を守るのはなによりの仕事なのに、それを放置して地竜と遊びながら周囲に被害を出していた訳だからな。いることに気が付きませんでした、は済まされないのが王族ってもんだ。ただ……別に擁護する訳ではないが、彼女は地竜を相手に遊んでいた訳ではなく、しっかりと本気で戦っていた。周囲への被害は確かに馬鹿にならないが、しっかりと避難が終わっている場所でしか爆破能力は使っていなかったし、そもそも地竜を瞬殺できる師団長の方がおかしいのであって、彼女は悪くないと思うが。
「ちっ……」
近くにやってきたニーナは、かなり悔しそうにしていた。普段なら色々と喋っていそうなものだが、今は不機嫌そうに……いや、落ち込んでるのか?
「ニーナ」
「……今はなにも言わないでくれ、テオ」
あー……これはかなり落ち込んでますね。そりゃあ、ニーナだって冒険者としてかなりの腕前であると言われ、実際に序列で言うと上から10番目ぐらいまでは来ている訳だから、自分に自信があったんだろうな。でも、実際に竜種と相対して……いや、ショックだったのは多分、鏖殺騎士との実力の差だろう。
「魔法騎士ってすごいな」
「だから、何も言わないでくれ」
「はいはい」
「テオドール、もう少し女性の扱い方を勉強しなさい」
俺が悪いの?
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