第58話 魔法騎士団の師団長

 国を操ろうとしている人間云々のことをなんとか誤魔化して、エリッサ姫を追い返した。

 それにしても……どうやら以前の宗教に頭をやられた人間の話も片付いていないらしいし、さっさとそこら辺の話を片付けないとドンドンと俺の平穏な学園生活が遠ざかっていくぞ。目立たないように生きるとか、そういうのはもう関係ない。今はとにかく、面倒ごとに巻き込まれることが嫌だってことだけだ。

 幸いと言っていいのか、こちらには公爵家の跡取り息子と情報を持っている怪しい女、それに加えて王族の1人がいる。ここまで情報を揃えている人間もそう多くないだろうから、情報的な部分で言えば俺はかなり優位にことを進めていると思う。まぁ、敵が国の中枢にいるのならば、王国の諜報部とか使ってるのかもしれないけど……そうだった場合は知らん。


 今はできることも少ないので、ひたすらに持っている情報を整理すべきだと考える。

 まず、敵は国の中枢に潜んでいて、あのくだらないちっぽけな宰相のプライドを使って上手く魔法騎士団の戦力を分析した。それにプラスして、よくわからない雑魚教団を生贄にすることで国民からの反感も抑え込んだ。あれだけのテロを起こされながら、首謀者である宰相を島流し状態ですよーだけで納得できるわけがないからな。

 いや、敵の狙いは国の弱体化だと俺もエレミヤも考えていたのだが……よくよく考えると変だな。だって、あの宰相ははっきり言って無能だった。この国の力を削ぐには……まずあの脳筋軍務伯を何とかする必要があると俺なら考える。王都内で暴れまわって大半の敵を撃滅したのは、あの軍務伯だと聞く。つまり、一騎当千の猛者だということだ。

 国の弱体化……魔法騎士団がある限りは不可能だ。なにせ、王国騎士隊なんかの王国軍隊なら国王が死亡して、跡継ぎの王子も立て続けに倒れたら軍は機能しないだろう。頭を失った生物のように、動けても手足をジタバタとさせるぐらいなもの。ただし……魔法騎士団は違う。成り立ちが戦争中なだけあり、あの組織はある程度国から切り離された部分にある。全を大切にする軍隊とは違い、魔法騎士団は個を大切にする。たとえ大勢の魔法騎士が国からの命令に従ったとしても、一部の実力者が怪しいと思えばすぐに独断で斬りに来るのが野蛮騎士団……魔法騎士団の連中だ。

 恐ろしい組織だが……治安維持にはこれ以上最適な組織もないだろう。なにせ、貴族の買収も脅しも通用しないんだからな。逆賊を裁判に持っていかずに斬り捨てる権利を、彼らは持っている。


 さて……果たしてそんな魔法騎士団がある国が、国王が倒れただけで弱体化するだろうか。

 なにかがある。魔法騎士団を動けなくする、もしくは存続することも怪しい状態にできるなにか……あるいは、真正面から魔法騎士団を倒せる切り札か。


「考え中かな?」

「……リエスターさん?」


 古書館なら誰も来ないだろうと思っていたんだが……いつの間にかリエスターさんが入ってきていた。


「大方、この間の襲撃事件を王位継承権の争いに絡めて考えているんだろう?」

「リエスターさんの所まで話が来ているんですね」

「そりゃあそうさ……魔法騎士団は基本的に政治に不干渉ではあるけど、みんな興味があるのさ」


 野次馬根性なんて誰でも持っているものだしな。それに……王位継承権の話は国民にとっても他人事ではないからな。王位を継ぐ者が愚か者で、私腹を肥やすために増税ばかりするような奴だったら嫌だし、逆に賢者が正しく国を導いてくれるのなら誰だって安心できる。選挙のように介入できるものではないが、やはり関心は集まっていくものだ。


「建国祭も近い時期に、そんな話題ばかり出さないで欲しいというのが本音なんだけどね……師団長だからやることも多くて」

「あー……でも仕方ないですよね」

「まぁね」


 建国祭は毎年クロノス魔法騎士学園で行われるから、この学園を担当している第3師団としては色々とやることがあって大変なんだろう。魔法騎士団なんて言っても、基本的にやっていることは警察みたいなもんだしな。建国祭の当日も、警備員の如く会場の中を警戒しながら歩き回らないといけないだろうし……更に師団長ともなれば剣の腕を披露するようにも言われるだろう。


「給料はいいし休みも貰えるけど……仕事が多いのはね」

「俺はやっぱり魔法騎士団はいいかな」

「あはは……第5師団なんかは暴れるだけだから楽だって聞くけどね」


 あー……高貴な第1師団とは正反対と言われる第5師団な。簡単に言えば、国にとっての防衛兵器……いや、暴力兵器か。荒くれのような連中がいっぱい所属しているとは聞いていたけど、魔法騎士団同士でもそんなこと言われてるのか。


「……真面目な話なんだけど、私は君が欲しいと思ってる」

「え?」


 なに? 愛の告白ですか? 嬉しいなー……こんな美人さんから告白されるなんて、今まで頑張ってきた甲斐があるわー……なんて、そんな話じゃないよな。


「君の底は私にも見えない。まるで深淵を覗いているような感覚だ……だからこそ、君には魔法騎士団に入って、私の後を継いでほしい」

「それは、第3師団のってことですか?」

「そうだよ。やっぱり学園近くに陣取る第3師団には学園に愛着を持った卒業生がやったほうがいいと思うから」


 あれー? 俺、この学園に愛着なんてまだないんだけどなー。


「別におかしなことを言っているつもりなんてないよ。実際、直々に師団長が自分の師団に勧誘しに来るなんてのは卒業の時期になるとよくある話だからね。まだ君は1年生だけど」


 いや、1年生を勧誘するって気が早すぎるんじゃないか?


「3年生とかは?」

「あんまり、かな……今の生徒会長はとても面白い子だけど、あれは最終的に自分の利を選択する人間だと思うから」


 俺もだが?


「それに君のことは信頼できる」

「何故?」

「本気じゃなかったとしても剣を交えたことがあるからだよ。私は、私と剣を交えた人間しか信頼しないと決めているんだ」


 とんだ脳筋理論だった……脳筋軍務伯の部下としてはとてもお似合いだと思いますよ、リエスターさん。

 まぁ……でも、クーリア王国が滅びさえしなければ魔法騎士団に入れば将来は安泰か……ちょっと迷うな。師団長にさえならなければ、そこまで忙しくないんだろうしちょっといいなとも思うけどな。

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