第53話 職人に会いに行こう

 それにしても……ただ男同士で駄弁っているだけならまだしも、なんで男3人で王都にお買い物なんて来てしまったのか。こういうのって女の子キャッキャッウフフみたいな感じになるんじゃないの? なんで俺は公爵家の爽やか系イケメンと、男爵家のクール系イケメンを連れて歩いてるの? お陰ですれ違う女性からひそひそと陰口言われてるよ?


「冒険者として生きていくにしても、クロノス魔法騎士学園に入学することは良いことしかないからねぇ……なにせ、冒険者の本部を運営しているのはクロノス魔法騎士学園なんだから」

「そうなんだよなぁ……」


 魔法騎士になれなかった有力者の受け皿の為に、クロノス魔法騎士学園はクーリア王国の冒険者ギルドを運営している。まぁ、運営って言っても依頼の斡旋と管理ぐらいなもんだけど……いや、充分だな。


 クロノス魔法騎士学園の魔法騎士科に入学して、魔法騎士の称号を得ることができなかった人間は、基本的に3つの選択肢が生まれる。

 1つ目は、クロノス魔法騎士学園が運営している冒険者ギルドに所属する冒険者となること。冒険者って言うと荒くれみたいなイメージあるけど、このクーリア王国における冒険者ってのは基本的には魔獣専門の狩人みたいなもんだ。戦争時には魔法騎士の予備みたいな扱いをされるらしいが。

 2つ目は、王国の軍隊に入ること。魔法騎士と軍隊は別物で、魔法騎士は基本的に王都周辺の治安維持が仕事になるが、軍隊は色々とやることがある。災害復興支援とかな。王国軍隊の中でも、クロノス魔法騎士学園を卒業して入隊するものは基本的に王国騎士隊に入ることになる。軍隊なだけあって結構な縦社会らしいが、やっぱりクーリア王国の国風なのか実力主義で階級はどんどん上がっていくらしい。

 3つ目は、地方貴族の私兵になること。クーリア王国は王国軍隊と魔法騎士団という強力な軍事力を持っているが、国土がそれなりに広いこともあって貴族領の全てにまで完璧な統治が進んでいる訳ではない。故に、地方貴族は魔法騎士団を真似て、領内の治安維持部隊の為に私兵を持っていることが一般的だ。クロノス魔法騎士学園魔法騎士科の卒業生ともなれば、序列によっては地方貴族から滅茶苦茶勧誘されるらしい。


「俺的には、貴族の私兵って将来もありかなぁ……大き目の貴族の私兵にでもなれば、将来も安泰でしょ」

「安定思考で年寄りみたいだねぇ」

「うるせー」

「お、ここだ」


 エレミヤにちょっとムカつくこと言われたが、アッシュが足を止めて目的の建物の前に辿り着いた。


「ここが俺の剣を打ってくれた鍛冶屋だ」

「別に剣なんてなんでもいいだろ」

「テオドールは自分のグリモアがあればいいと思ってるからね。でも、上等な剣ってのは持っていた方がいいよ?」


 金が無いんだよ。


「金の心配ならするな。分割払いもできる」

「結局かかるんじゃねーか」


 お前ら貴族は平民の金の無さ舐めてるだろ。


「安心しろ。ガーンディ男爵家は新興貴族で大して金はないから、総資産も平民とあまり変わらない」

「それって貴族としてどうなんだ?」

「高いのは屋敷ぐらいだ」

「その屋敷だって貴族の暮らす場所じゃないって、社交界では言われてるからね……僕としては、豪華さだけが全てじゃないと思うけど」


 やっぱり貴族ってクソだわ。

 扉を開けて中に入ると、工房特有の熱気が襲い掛かってきた。金属を叩くような音や、研磨するような音が四方八方から聞こえてくるこの雰囲気は……ちょっと興奮する。


「親方、いますか?」

「おぅ……ガーンディのとこのせがれか」

「ご無沙汰しております。今日は学友の剣を打っていただきたく」

「学友ぅ? お前さんみたいな修行一筋で全く学生生活には興味ないような男に、学友ができたってのか?」


 おぉ……この爺さん、すごい合ってるぞ。


「前にお話ししたはずです。俺の剣を1回の戦いで恐ろしく摩耗させた男です」

「あの時か……で、金髪の方か赤髪の方どっちだ」

「前回が金髪の方、前々回が赤髪です」

「どっちもじゃねーか、これは面白い!」


 えぇ……爺さん愉快な人だな。親方って呼んでたから、もっと頑固な職人気質なのかと思ってたけど、面白そうな人じゃんか。


「ところで摩耗ってなに?」

「ガーンディの柔剣術は剣で相手の攻撃を受け流すからな。相手の攻撃が強力であるほど、剣は摩耗していくもんなのさ」


 おー……なるほど。確かに、自分の剣で相手の攻撃を受け流すって、普通に剣として扱うよりもよっぽど消耗するだろうな。だからガーンディ男爵家の親子は、決まった人間に剣の手入れを任せているってことなのか。かかりつけ医みたいなもんだな。


「だがそれは、俺の剣が未熟だからだ……父なら剣を摩耗させずに相手の攻撃を受け流すことだってできるはずだ」

「お前は親父に夢を見過ぎだな……あの男も、昔は無茶して剣を折ってたもんだが」


 親方は夢を見過ぎだと言うが……まぁ、彼の中での完成された剣というのが父親の剣なんだろう。魔法騎士団の下っ端やってる俺の父親とは偉い違いだな。


「それで? 今日はどっちの剣を……と思ったが、金髪の方が上等な獲物を持ってやがるな」

「わかりますか?」

「誰だって見ればわかる」


 いや、見ただけだとあんまりわかんないだろ。

 魔法騎士や王国騎士隊、それに貴族の私兵のことまで考えると、この国には多くの騎士が存在する。その影響もあって、王都内にも多くの鍛冶屋が乱立している。廉価大量生産品を売るような工房もあれば、この工房のように貴族を相手にオーダーメイドの剣を作るような工房もある。

 そんな乱立している工房の中でも、ガーンディ男爵家という腕で成り上がった人間が頼っている鍛冶師だ。恐らく、王都でも有数の実力を持つ人間だろう。


「赤髪、お前の方か。剣を見せろ」


 言われた通り素直に剣を外して親方の目の前に置く。鞘から剣を抜いた親方はしばらくそれを眺めていたが……ため息を吐いて雑に置いた。


「その剣、確か商会で普通に売ってるやつですよね親方?」

「そうだな」

「そんな剣を使うなんて……ド素人ですか?」

「そうだな。こんな剣を入学してから数ヶ月使って、ここまで摩耗させずに使える奴なんて剣を抜かないド素人か、剣に魔力を覆わせて切れ味なんて関係なく扱ってる怪物の2択だ」


 そんなの見てわかるの?


「お前さん、ガーンディとやりあってこの摩耗の少なさなんだろう? ならお前は怪物だな……逆に少し刃毀れしていることの方が気になるわ。なにを斬ろうとした?」

「なにって……なんだろう」

「赤竜だろうね」

「竜の鱗か……折れてない方が不思議だな」


 そんなこともわかるのね……確かに、鍛冶師としての実力はとんでもないらしい。

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