第52話 男同士の会話に中身はない

 学生にとって大事なことと言ったら人は何を想像するだろうか。多くの人は真っ先に「勉強」だと答えると思う。

 人間、どうしても過去の行いに関して「あの時ああしていれば」とか「もし時間が巻き戻ったらこんな選択をするのに」みたいな後悔は持ってしまうものだ。それが悪いことだとは思わないが……それを子供に重ねて「勉強しろ」と口酸っぱく言ってしまうのは良くないことだと俺は思う。言いたくなるような気持ちはわかるが……自分が過去にできなかったことを子供に求めるんじゃない。

 それで、学生時代にもっとも大事なことって話に戻るが……俺は「青春」だと考える。一言で青春というとわかりにくいが……簡単に言うと「友達」や「恋愛」のことだな。学生時代に恋愛を経験してこなかった人間は、機会を得ることもできずに非モテになっていく、みたいな話はよく聞いたものだが……結構事実なんじゃないかと俺は思っている。

 何故そう思うのか……それは実際に過去に学生時代を経験しながら全く持って彼女なんていたこともない俺が、現在も恋愛ごとに関して全くと言っていいほど無力だからだ!


「わかったか、俺の持論が」

「……いや、貴族にはわからん」

「ごめん。僕にもよくわかんないや」


 前世云々のことを全て抜いて説明してやったというのに、アッシュとエレミヤには全く賛同してもらえなかった。まぁ……こいつらは将来的に恋愛とか抜きで、どっかから嫁とか見つけてくるんだろうけど……それにしたって興味なさすぎじゃないか。


「アッシュはどうかわからないけど、僕に関しては公爵家の一人息子だからね……決められた人としか結婚なんてできないよ。それどころか、複数人も妻を娶らなきゃいけないかもしれないのに」


 公爵家だもんな……それも、かなり現国王に血が近い。言い方は悪いけど、現国王が倒れて王子と王女が全員死んでいたら間違いなくフリスベルグ公爵家から、次期国王が選ばれるんじゃないかなってぐらい、血が近い。フリスベルグ現公爵が確か……従弟だったか。


「自由恋愛なんて夢のまた夢だよ。それでも……公爵家の人間として恵まれた環境に生まれたのだから、国の為にその身を使わないとね」


 おー……どっかの頭お姫様に聞かせてやりたいわ。


「俺は別にそこまでの制約もないが、新興の男爵家だからな。新興貴族はどうしたって嫌われるから、なんとかそこら辺に媚びを売る形で結婚とかできるといいなぐらいの感じだ」

「世知辛い」

「貴族家なんてそんなものだ。俺は一応、父が貴族になってから生まれた子供だからまだマシだがな」


 貴族になる前に生まれた子供だったら、色々な貴族的な問題に対して不満ばかり持つことになっていただろうけど、アッシュはそこら辺を全部飲み込んで「貴族だからな」で済ませることができるようだ。

 やっぱり俺は、貴族に生まれなくてよかった。


「テオドールはそもそも色恋沙汰にあんまり興味が無いよね。なんというか……自分優先で相手が女性であろうと男性であろうと、邪魔すれば殴るみたいな」

「そうだな。テオドールは相手が王族であろうとも、明らかに自分に対して不利益を与える相手だと分かった瞬間にぶん殴るタイプだ」

「ねぇ、やっぱりみんなの中でそんな評価になってるの? もしかして裏で示し合わせてるの?」


 エリッサ姫にもアイビーにもそうやって言われたんだけど、エレミヤとアッシュにも言われたってことはみんなの共通認識として俺はそういう奴だってことになってるの?


「あ、ちなみに魔法騎士になると騎士爵を与えられなくても、それに近しい扱いをされるようになるから貴族とも結婚できるようになるよ。それを目指して魔法騎士を目指す人もいるぐらいに、魔法騎士は世間的に尊敬されているんだ」

「なんでその話を今、俺にしたのかは置いておくとして……実際魔法騎士ってクロノス魔法騎士学園を優秀な成績で卒業しないとなれないのか?」


 若者を育成するって部分だけ見ると確かに良さそうだけど……それって学園に入ろうとする人間が少なくなったらすぐに人手不足にならないか?


「君がなにを考えているのかはわかるけど、魔法騎士が人手不足になることは……大きな戦争でも起きて凄い被害が出るとかでもない限りないんじゃないかな」

「そうだな。魔法騎士はこのクーリア王国において特殊な職業だが、なっただけで将来がずっと安定するなんて言われるぐらいのものだ。年齢で魔法騎士を引退しても、剣術指南役として貴族に雇ってもらえるからな」

「でも、その貴族が結構受ける人多いじゃん」


 エレミヤも公爵家だし、アッシュだって男爵家じゃん。エリクシラもヒラルダも貴族だし、エリッサ姫にいたっては王族だぞ?


「それは……まぁ、貴族特有のよくわからない誇りの話と言うか……」

「クロノス魔法騎士学園に入学し、優秀な成績を認められて魔法騎士の称号を授けられる。そのこと自体が貴族社会では大きな功績となる」

「それはつまり……社交界で自慢できるからクロノス魔法騎士学園に入学してるってこと?」

「平たく言うと?」


 クソじゃん。


「一応、商人からの覚えがよくなるとか、国からある程度認めて貰えるので強力な私兵を抱えてもよくなるとか色々とあるんだけど……基本的には見栄かな」


 やっぱり貴族ってクソだわ。


「ちなみに、別に魔法騎士団に入団するのはクロノス魔法騎士学園を卒業しなきゃいけない訳じゃないぞ」

「そうなのか?」


 俺はてっきり、年に100人ぐらいの新卒しか採用されないエリート職程度に考えていたんだけど……中途採用もあるのか。


「冒険者みたいな形で名を揚げた人に関しては、名誉騎士として騎士団に入団することができるんだ。勿論、素行調査とかはあるけどね」

「おー……普通の魔法騎士よりも名誉騎士って言葉の方がかっこよく聞こえるのは何故だろうか」

「それはお前の感性だ」


 そうかな……そうかも。


「テオドールがこの学園を卒業した後にどんな進路を辿るのか知らないけど、過去には優秀な成績を修めながらも魔法騎士の称号を固辞して、冒険者として名を揚げた人もいるから、好きにすればいいと思うよ。個人的には、やっぱり魔法騎士になって欲しいと思うけど」


 へー……魔法騎士を固辞して冒険者とか、ものすごい変人だな。でも……冒険者の方が浪漫があるってのはわかる。俺もちょっとグラッと来たよ……その生き様に。

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