第49話 序列が大幅に上がった

 最近、よくわからないテロに巻き込まれたり、頭がお花畑のお姫様から相談を受けたりしていて、落ち着いた学園生活というものが送れていなかったが……先日あった野外訓練の成績が序列に反映されるらしい。どうも、野外訓練中に竜種を倒した生徒がいるせいで中々評価を決めるのに苦労していたのに、テロも重なって例年よりかなり成績を決めるのが遅れたらしいが、なんとかなったらしい。

 竜種を倒したの、俺なんですけどね。


「その結果がこれか……なんで俺が一気に10位なんだよ」


 上がり過ぎだろ。


「私の序列が殆ど変わらず、上にテオが入ったことで一つ下がったことが不満なんだが」


 それは知らん。

 不満を言っているニーナ・ヴァイオレットは俺が10位に入ったことで前に10位だった男が11位に、ニーナは11位から一つ下がって12位に序列が変わった。当然、12位あったエリッサ姫は13位になっている。


「そして、エレミヤ・フリスベルグがいつまでも1位なことが気に食わん」

「直接挑んだら?」

「前に戦って負けた」


 やったことあるんかい。


「俺は33位になっていたな」

「て、テオドールさん! 見てください! 私の序列が一気に230位ですよ! これで魔法騎士が現実として見えてきました!」


 おー……ビフランス家の落ちこぼれなんて言われていた人間が、そんな高みまで来てしまったら逆に迫害されるのでは? だって今まで落ちこぼれって蔑んでいた相手が実は優秀な人間でしたって言われたら、多分普通の人はお前は誇りだって掌返すよりも、もっと迫害するんじゃないかな。まぁ……ビフランス家が魔法騎士の名家であることを考えると掌返しもあるかもしれないが。


「私の序列も変わりませんね……どうしてでしょうか」

「アイビーさんは5位なんだから、そこから更に上がったら結構な問題じゃないですか?」


 エリクシラのツッコミは真っ当だと思う。庶民出の人間が5位にいること自体が既にやばいのに、そこから更に序列が上がったら、多分誰も話しかけてくれなくなるよ。ただでさえ胡散臭い笑み浮かべてて遠巻きにされてるのに。


「それにしても、12位のニーナ、10位の俺、5位のアイビーと……上位に庶民多くないか?」

「今年の1年生は粒ぞろいだと元々言われていたけど、ここまで平民が多いとは僕も思わなかったよ。10位おめでとう、テオドール」

「うわ出た」


 派閥で集まって序列の話してるのに、なんで普通に絡んでくるのかなこの男は。


「お前は1位から序列変わってないだろ」

「勿論、普段から努力してるからね」


 こいつ、平然とこういうこと言うけど、冷静に考えてみると頭おかしいよな。だって俺は竜種を倒すのにグリモアを使用したし、2位のヒラルダなんて敵と戦うってなったら常に容赦なくグリモアを発動する女な訳じゃん? でも、この男のグリモアは自身が悪だと判断した人間にしか通用しない訳だから、序列を決める決闘とかでは全く役に立たない。なのに平然と1位にいる訳だから……単純に剣術と魔法の腕前だけで高みに存在している訳だ。控えめに言って頭おかしい。


「お前、ヒラルダと決闘したことあるの?」

「学園に入学してからはないかな……前からちょくちょく御前試合とかではやってたけど」


 御前試合ってことは将軍……この国で言う所の軍務伯の前で行うっていうあれか。優秀な貴族の子供同士が魔法騎士のルールで戦うって感じのあれこれ。まぁ……今の軍務伯がどういう人間かを考えれば、御前試合がどんな雰囲気なのかは想像つくだろう。


「序列最下位から始まったとは思えない上り幅だよね。君とは是非とも決闘したいんだけど──」

「嫌だ」

「──って、いつも断られるからね」


 なんでそんな面倒なことしないといけないんだよ。俺の序列が10位になったってことは、このまま黙っていても1年生時の成績は「良」ってことになるんだから、無駄な争いはしたくない。

 個人的な部分で言うと、エレミヤの芸術に近いような流麗な型は見ていて飽きないから好きなんだけど、決闘するってなると嫌だ。


「なら俺と決闘してくれないか、エレミヤ・フリスベルグ」

「アッシュ・ガーンディ男爵、だね? いいとも……僕は来る者拒まず、だよ」


 おいおい。


「大丈夫なのか、アッシュ」

「問題ない……そもそも勝てるつもりで挑んだ訳ではない。勿論、勝つつもりでやるが……俺の目的は、完成されているとすら称されるエレミヤ・フリスベルグの王国流片手魔法剣術を体験したいだけだ」


 そうか……アッシュの柔剣術にとって完成された剣術とは、戦う相手としても剣術の参考にする相手としても、最高の存在だ。アッシュにとってエレミヤとの決闘は勝つことが目的ではなく、剣術を体験することが目的な訳だ。


「この数週間、ひたすらにニーナ・ヴァイオレットと決闘を続けてきた」

「そうなの?」

「ん? あぁ……戦っていて楽しいからな、アッシュは」


 戦闘狂め。


「彼女の自由自在な型のない剣術は実に見事で、俺に広い視野をもたらした……なら次は完成された剣術だ」

「いいだろう。僕の持つ全てを君に見せると約束しよう、アッシュ・ガーンディ」

「ありがたい……俺はこれで、再び強くなることができる」


 なんで2人で少年漫画みたいな熱い展開しようとしてるの?


「テオドールさんにはない純粋な心での決闘!」

「なんで俺罵倒されたの? 230位の癖に生意気だぞ」

「230位ですよ? 元は900位ぐらいだったことを考えたら途轍もない成長じゃないですか!」


 知るかそんなこと。


「いいですね……私は一回も人から決闘を挑まれたことが無いのに……」

「だから、お前は怪しすぎるんだって。アッシュですら決闘を申し込まないんだから、自分で察した方がいいよ」


 アイビーは俺が知っている人間の中で、最もグリモアを悪用してる女だからな。なんで平然と王城に忍び込んで機密情報とか見てくるんだろうな……いや、この間それを頼んだ俺が言うのもなんだけどさ。


「エレミヤ・フリスベルグは強い……アッシュ・ガーンディは確かに傑物ではあるけど、フリスベルグ家の次期当主は伊達じゃないわ」

「どこから出てきた」


 いつの間にか、俺の横にはヒラルダが立っていた。

 というか、これアッシュとエレミヤの決闘を全員で観戦すること決定事項になってない? 俺も見るの?

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