第48話 利己的主義者
「それで?」
「良い感じの情報はあんまりって感じですよ。でも……きな臭い感じはあるので、もしかしたら書面に残していない悪事が沢山あるかもしれませんね」
ふむ……早速アイビーに頼んで色々なことを調べて貰ったが、エルグラント帝国の皇子様にはまだ後ろ暗いことは見つかっていないらしい。とは言え、アイビーはまだクーリア王国の書面部分しか確認していないらしいから、全然安心とは思えない。
「それにしても、こういうことをするとテオドールさんは止める立場だと思っていましたが……案外お優しいんですね」
「なにが? エリッサ姫に協力したことが?」
「はい。貴方は極度の自分主義で、あまり他人の得になることを率先してやるタイプではないと思っていたんですが……私の調査が甘かったですかね? 日記のようなものでもつけていただけたら分かり易くていいんですけど」
「覗き見ること前提で喋るな」
なんで人の日記と言えば覗き見ること、みたいな前提で喋ってんの? 普通に怖いよその思考回路は……頭イカレてんじゃないのか?
それにしても、俺は極度の自分主義か……ふむ。
「ちょっと惜しいな」
「なにがですか?」
「自分主義ってのは合ってる。俺は自他ともに認める利己的な男だし、他人の得になることをあんまり率先して行いたいとは思っていない」
「はい」
だからちょっとは否定しろって。そういうのはお世辞でもいいから「そんなことないですよ」って言う所なんだよ。なんでエリッサ姫もアイビーも「当然だろ。お前は実際クズなんだから」みたいな感じで頷くのかな。
「けど、俺は先行投資が好きだ。他人の得になったとしても、長い目で見て俺にとって得がデカければ苦労する意味はある。未来の自分が楽になる訳だからな」
「……最後の部分だけ聞くと、勤勉な人みたいですね」
「俺は勤勉だ。自分さえ上手くいけばいいとは、思っているがな」
でも、魔法騎士にとって必要なのは滅私奉公の精神ではなく、その肥大化した自己だと俺は思っている。魂の発露なんて言う、
「そうですか……エリッサ姫の件には関係ありませんが、面白い情報は手に入れましたよ」
「面白い情報?」
「はい。例のオムニトルス教団……その裏側に存在するものについて言及されている資料を見つけました」
おい。
「いらないよそんな面倒ごとの種。明らかに俺に対して厄災を招くだけだろうが」
「そうですか? でも気にしていたじゃないですか。あの教団の裏側に存在する組織について」
「それは考察するのが楽しいからしていただけで、俺は別に国の全てを暴いて国の将来を憂いている訳じゃないから」
「……つまらないですね」
「つまらなくて結構。人間、つまらない人生ぐらいが丁度いいんだよ」
刺激的する人生なんて疲れるだけだろ。やっぱり安心してぬるま湯につかった人生ってのは中々に良いものだと思うからな。
「断言しますが、貴方が求めているようなぬるま湯の人生は、貴方が特異な人間である以上訪れませんよ」
「不吉なこと言うのやめてくれないかな」
別に俺は平凡に生きたいとか言ってる訳じゃなくて、激動の人生を送りたくないって言ってるだけなんだが……難しいかな?
「ねぇ」
「ん?」
アイビーから貰った情報を精査しながら教室の隅で考え事をしていたら、いつの間にか目の前にエリッサ姫がいた。
「恋人になったのだから、ある程度はそれらしい行動をとらないといけないんじゃないかと思ったのよ」
「……なったっけ?」
「なってないの? 私はてっきり、婚約破断計画の一つとして偽装恋人を始めたものだと思ったのだけれど……貴方は私のこと、そんな遊び程度に考えていたのね」
「ちょっと他人に聞かれたら洒落にならない悪戯やめてくれませんか?」
王族のことを弄んだクズ一般人とか、即刻死刑にされてもおかしくないからな?
「冗談よ。でも付き合っていたと思っていたのは本当」
「付き合う意味がない。別に婚約破談にするだけなら、偽装恋人になんてなんの意味もないし……精々がエリッサ姫の男避けになるぐらいじゃないか?」
「男避けなんて言われても、私は別に他人に告白なんてされたことないわ」
そりゃあそうだろ。このクロノス魔法騎士学園に通っているのは貴族が多い訳だが、たとえ高位貴族であろうとも軽々しく王女に対して告白して男女交際ができる訳ないんだから。それどころか、下手に王女を傷つけたら家ごと無かったことにされるわ。
「ちょっと本の読み過ぎですね」
「むぅ……私、容姿は自信があるのだけれど」
「自分が王族であることに自覚を持ってくれ」
なんで自分の容姿には自信が持てるのに、王族という立場が持つ周囲への影響に対しては自覚が持てないのだろうか。
「エリッサ姫、結構甘やかされて育った?」
「…………まぁ、確かにお父様は私のことを溺愛し過ぎていると王城内で噂になっていたけど」
あぁ……目に入れても痛くないと思ってるぐらいなんだろうな。良く言えば平和主義者、悪く言えば日和見主義者な国王だが、娘のことはしっかりと溺愛しているらしい。
「ん? ちょっと待てよ……溺愛、されているのか?」
「え、えぇ……多分」
「ならおかしくないか? そんな溺愛している娘を、国の利益になるからっていきなりエルグラント帝国の皇后にするか?」
ちょっと矛盾してないか?
「お姉さんは?」
「お姉さまは……その、あまりお淑やかな人ではないから」
君もお淑やかとは口が裂けても言えないじゃん……って言いかけたけど、口にしたらぶん殴られることがわかってるから自重した。
お淑やかな人ではない……ちょっと言い淀んでいたことからも、多分ガサツな脳筋タイプな女であると推測する。まぁ、確かにそうするとエルグラント帝国の次期皇后には推薦しにくいか。
「エルグラント帝国と早急に仲を深めなければならないなにかがあるのか、それとも……単になにか騙されているのか」
いや、国王がそんなコロッと騙されているんだとしたら、俺はさっさとこんな国から脱出するんだけど。
「そう言えば、確かにお父様からは一度も婚約の話について言われたことはないわね」
「おいおい……それ、国王抜きで勝手に話が進んでないか?」
これは、揺さぶるネタが見えて来たんじゃなかろうか。日和見主義の国王はお人好しであると聞いたことがあるからな……騙されているというよりも言いくるめられていそうだな。
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