第47話 頭お姫様
「とりあえず、反射的に断ったことは謝るから。どんな理由があるのかちゃんと一から説明してくれ……その後に断るから」
「断ることを前提にするのやめて貰えるかしら」
「そりゃあ無理だ」
非モテと言われようが、俺は面倒ごとに頭をから突っ込むのは嫌だ。ただでさえ、アイビーの妄言に付き合っていたら滅茶苦茶巻き込まれたんだから、これ以上はごめんだ。
「説明するけど、別に私は貴方に好意があるから頼んでいる訳じゃないわ」
「失礼じゃね? さっきも言ったけど、そもそも頼る相手が異性同性問わずに友人がいないからでしょ」
「貴方の方が失礼だと思うのだけれど?」
おっと……確かに今の物言いは失礼だったな。事実は時に人を傷つけるものだからな。
「それで?」
「実は……私、このままだと隣国の皇子と結婚させられそうなの」
「隣国って……どっち?」
この国で隣国って言ったら基本的にはクロスター王国だろうけど、一応聞いておこう。これえエルグラント帝国って答えられたらどうしようか。
「エルグラント帝国」
「はぁー……陸続きでもないのに隣国って呼ぶな」
「エルグラント帝国は一番の隣国よ? クーリア王国が最も貿易している国もでもあるんだから。前年の輸出収益を教えてあげましょうか?」
「いらない」
そんな経済的なこと言われても俺にわかるか。
「それで? 結婚させられるなんて今に始まったことじゃないんだろ? エルグラント帝国は昔から仲のいい国だし、そのまま結婚すればいいじゃん。王族として生まれた時から自由な恋愛ができるなんて微塵も思ってないだろ?」
「貴方……なんでそんなに冷たく考えられるの? 私はこれでも自由恋愛を夢見たわよ。もしかしてどこかの王族だったりするの?」
しねーよ。というか、なんで第二王女なんて微妙な立ち位置に生まれているのに、そのまま自由な恋愛ができると思ったんだよ。上には第一王子、第二王子、第一王女がいるんだから、最低でも侯爵当たりの男と結婚させられるのは目に見えてただろ。
「はっきり言わせてもらうけど、エルグラント帝国の皇子と結婚できるなんて滅茶苦茶いいことだと思うぞ? このまま進んだって、下手すると伯爵の夫人とかになったりするんだろうから……それよか、帝国の時期皇后って考えると滅茶苦茶いい立場じゃん」
「そういう問題かしら……って、そうじゃなくて。私は将来、魔法騎士団に入りたかったのよ!」
あー……自由な恋愛がどうとかは思ってただけで、実際は追いかけたい夢があったってことね。それなら全然納得できるわ。
当然だが、エルグラント帝国の皇后になったらクーリア王国の魔法騎士団になんかなれる訳はないし、下手すると剣を握ることすらできなくなるかもしれない。
「しかも、結婚の話は私が在学中には決まりそうって言うのよ? このままだと、私はこの学園を中退して皇后になるかもしれないってことよ? 夢を追いかけるなんて話じゃないわ」
「……それで、なんで偽装恋人になるのかな?」
まさか、まさかだけどさ……偽装恋人を作ればその話をなかったことにできるとか思ってないよね。
「本で読んだわ」
「はい駄目」
「なんで!?」
馬鹿か? 普通に考えて、王族と皇族の縁談に対して「私には一般人の恋人がいるから無理です」なんて言い訳が通用すると思うのか? どんな頭のおかしい国王だよ……そんなこと考える人間がいる訳ないだろ。
「じゃあどうすればいいのよ!?」
「どうもしようがないだろ。王族には王族なりの果たすべき義務があって、国の為にその身を犠牲にする……その為に今まで富と権力を与えられて育ってきた訳だろ。国民が働いて得た報酬を税金として納める様に、王族はその身を国の為に犠牲にするべきだ……普通の考えならな」
全く……甘ちゃん王女め。とは言え、だ……正直に言ってしまうと、現代人の感性を持っている俺からすると強制結婚なんて人権侵害も良い所だ。基本的人権がこの国で保障されているのかなんて俺は知らないが、あんまり気持ちのいい話ではないことは確かだ。
別にエリッサ姫は俺の友人ではない。断言するが、偶に会話をするぐらいの関係でしかないと俺は思っている。だが……知り合いが望んでもない結婚をさせられますって言われて、そういうもんだからなで納得できる程お利口さんに育った覚えはない。
「一つだけ言っておくが……俺は利己的な人間だ。自分の得になることなら偉い人の靴だって舐めるし、自分の損になることなら王族だってバレないように殴る」
「知ってるわ」
ちょっとは否定しろ。
「俺にとってなにかしらの利があるのなら……俺は君が自由になる為に動く」
「それはつまり……報酬を寄越せって話なのかしら? 余りにも俗すぎてちょっと眩暈がしてきたのだけれど」
「人に頼みごとをしている人間の態度か? まぁいいけど……さっきも言ったけど、俺は利己的だからな。報酬がない仕事なんてしたくないし、かと言って面倒だからと、全てを放置して知り合いが望まない結婚させられましたなんてのを見捨てるのも、俺の人生に後味の悪いものを残すことになる」
「回りくどい」
「仕方ないから協力してやるって言ってんの!」
なんで俺がツンデレみたいなこと言わなきゃいけないんだよ! そこはせめて察してくれよ!
「そう思っているのなら、最初からそう言って……私たちの間に回りくどい言葉はいらないわ」
「俺、そんなにエリッサ姫と親密な関係になった覚えないんだけどなぁ……」
その言葉、多分少年漫画のライバルとか親友枠にかける言葉だと思うの。
「それで? なにか策はあるのかしら?」
「……え? それ、エリッサ姫が聞くの?」
「え?」
偽装恋人と作っただけで断れる訳ないじゃんって言ったよね。まさか……本当にそれだけで阻止できると思ってたの? 嘘だろ。俺は冗談のつもりで言ってたんだが……この女、頭の中がお姫様だったわ。
「わかったよ、なんとかする。一番簡単なのは……アイビーに調べて貰ってお相手の皇子様を失脚させることか」
「ちょっと……せめてクーリア王国に害のない方法にしてちょうだいね?」
「いい性格してるな」
そこで相手の心配じゃなくて、ちゃんと国の心配ができるのは立派な王族だぞ。人間としては屑かもしれないが、王族としては滅茶苦茶いい感じだろうな。
「ま、お相手がこれで聖人みたいな奴だったら諦めて結婚しろ」
「それだったら私が直接会って、話してみるわ」
いや、それは断るにしてもちゃんとやれよ。
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