第46話 俺は非モテ

「お話とはなんでしょうかエリッサ様」

「今更貴方から丁寧な口調で喋られると鳥肌が立つからやめて」


 酷くない?


「話は3つあるわ」

「うん……うん? 3つ? 俺、1つしか思いつかないんだけどな……」

「ならその1つから話しましょうか」


 ちょっと、墓穴掘った感あるじゃんか。


「アルブレヒト宰相を捕らえたのは貴方だと、アイビー・メラルダスが言っていたわ。それに関して色々と聞かせて」

「そ、そんなにアイビーの言うことを全部信じるのか? あの胡散臭い女だぞ?」

「そうね、確かに彼女は出自不明で空を掴むような性格をしているから、あんまり信用できない所もあるわ……それでも、隠し事ばかりの貴方よりは信用できると思っているけれど」


 俺、そんなにエリッサ姫に対して隠し事してたっけ? 隠していることと言えば……グリモアに関すること、後は前世のことぐらいか?


「えー……アルブレヒト宰相のことに関してだけ言うと、あれは不可抗力と言いますか。その、こちらとしてはあまり意図していなかった出来事で……俺はただ巻き込まれただけの小市民でして……そこから言えることはあまりなくて」

「いいから、はっきりしなさい。貴方が関わったのか、関わっていないのか」

「はい、最後に殴り飛ばしたのは俺です」


 これに関しては誤魔化しようがない、か……とは言え、向こうが襲い掛かってきたから反撃して、目の前に内務卿がいたから突き出しただけで……俺は無罪だ。小市民はテロリスト相手にいきなり奇襲をかけたりしないとか、そういう話は無視しても……危ない相手がいたら警察の突き出すのは善良な国民として当たり前のことだ。


「そう、貴方がやったのね。この学園内で捕まったと聞いてそうじゃないかと思っていたのよ」

「な、なんで最初から俺が疑われているのかな?」

「私、貴方が宰相を殴った時に丁度、貴方の部屋を訪ねていたのよ? 外出禁止と言われていたのに何処に行っていたのか気になっていたけれど……そういうことなのね」

「おぉ……外出禁止はエリッサ姫もでは?」

「私は許可を貰ってリエスター師団長と共に行動していたわ」


 クソ……口で負けた。


「2つ目」

「え?」


 なに、今の話でお説教するんじゃないの? なんで早くも次の話題に移ろうとしてるの?


「……勘違いしているようだけど、別に私は貴方のことを責める目的で呼び出した訳ではないのよ? お話をしたくて呼んだの」

「王族がそれを言うと完全に折檻の為の言い訳にしか聞こえないんだけど」

「そんなことありません」


 でも、多分周囲の学生に対して同じ事言ったら、多分みんな顔を青くしてから何度も頷くと思うよ。


「2つ目は、貴方の持つ不可解な部分について」

「不可解な部分?」

「そう……貴方はやけに自分が無力な一般市民でしかないことを強調したがるけど、客観的に見ても貴方は既に特異な人間よ。それは理解しているはずなんだけれど……」

「いや、理解してない」

「……筋金入りの馬鹿ね」


 罵倒された。


「グリモアを扱えて、フリスベルグ公爵、ビフランス辺境伯、ミエシス辺境伯、ガーンディ男爵……そしてこの私、クーリア王家と関りがある人間。はっきり言ってまともな人間ではないわ」


 おかしいな、俺が自分から絡みに行ったの、ビフランス辺境伯とガーンディ男爵だけなんだけど。後は勝手に向こうから絡んできただろ。


「なにがそこまで貴方に目立たないことを強制するの」

「あー……」


 うん……これは説明してもしょうがないな。だってこんなの、日本人的な感性ですの一言で済むじゃん。出る杭は打たれる社会で生きてきた常識が、自分の中の魂に混じっているのに、今更自分の個性を伸ばせなんて言われたって……ねぇ? 目立たずに仕事をするのが、社会での意義だとずっと思ってたから。

 ところで、自分の友人が突然「自分には前世があって、俺はそこで普通の人間として生きていたんだ。その経験が身体にあるから、この世界の常識が肌に合わないんだよね」なんて言い出したらどうする? 俺だったら距離を置いて2度と関わらないようにするね。


「これは本当に言いたくないって感じね。なら聞かないわ」

「いいの?」

「いいも悪いもない……って言いたいけれど、人には秘密の1つや2つぐらいあるものだから」


 おぉ……心が広い。他人の秘密は暴きたくなるのが人間的な感性だと思うけど、そこは聞かないでくれるんだ。アイビーなんて王城に侵入してまで人の秘密を探っているというのに……いや、あれはあいつが悪いわ。


「じゃあ最後の3つ目話してくれよ」

「その、最後の3つ目に関しては……お話というより、お願いと言うか……その……なんというか……」

「あ?」


 なんだよ……そんなもったいぶられると気になるんだが。

 何回も深呼吸してるけど……そんなに言ったらやばいことなの? そんなことを俺に言おうとしてるの? もしかして俺、ここからさっさと逃げた方がいいの?


「ふぅ……私と、付き合って欲しいの」

「へー」


 買い物?


「男女交際よ」

「……は?」


 ダンジョコウサイ? ダンジョコウサイってあの男女交際だよな……え? 恋人になれってこと?


「絶対に嫌だっ!」

「貴方全部理解して断ったわねっ!?」


 エリッサ姫が急に俺に対して愛の告白!? する訳がないだろそんなこと! 絶対になにかしらの厄介ごとから逃げたいから、その言い訳に俺を使う気マンマンって感じじゃねーか! そんな厄介ごとに巻き込まれるぐらいなら、王族であるエリッサ姫単体に恨まれた方がマシだ! というか、この提案受けたら下手すると他の高位貴族とか王族の方々に恨み買うだろ!


「お願いだから! ほんの少しだけでもいいから! お金も渡すから!」

「もっと嫌だよ! 金を渡してもいいぐらいの面倒ごとに巻き込みますって宣言みたいなもんだろうが! そんなのはエレミヤ辺りにでも言えよ!」

「彼は公爵家だから駄目なの!」

「じゃあ他の取り巻きの男とか!」

「私は貴方以外にまともな異性の交友関係がないのよ!」

「同性もないだろ!」


 クソっ!? これだから王族のお姫様は関わるだけで面倒なんだ。さっさと巻き込まれる前に逃げ出したいが……ここまで懇願されると断るこっちの方が悪い気もしてきたぞ。

 一度エリッサ姫と向き合ってその容姿をマジマジを見つめてみる。

 丁寧に手入れされていそうな金色の髪に、涙目でこちらを見つめる碧眼……スタイルもそこそこ良くて、なにより実家が金持ち。


「面倒ごとじゃなかったら……普通に付き合いたかったなぁ……」

「っ!? 正式な交際でもいいわよ? 当然、その場合はしっかりと教養を身につけて貰ったり、それなりの政治的な立場を得てもらうためにも最低でも魔法騎士になって貰わないといけないけれど、性格的には結構上手くやっていけると思うわ」

「え? 俺は上手くいかないと思うけど」

「…………貴方、女性から相手にされたことないでしょ」


 唐突な非モテ扱いやめろ。

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