第41話 慈悲の雷霆

「それで、君はこれからどうするつもりなのか聞いてもいいかな」

「一応、敵の配置とかを把握しておこうかと思ったんだが……」

「校舎内のは全て始末してしまったよ」


 始末って……殺し屋かよ。

 それにしても……ここが襲撃されたから制圧されて体感ではまだ1時間ちょっとぐらいじゃないか? その間に校舎内にいた敵を気付かれずに始末するってとんでもないことだな。俺は気付かれないようにとかあんまり細かいこと考えるのは苦手だから、そこは本当に凄いと思う。


「なら後は校庭の連中を叩くしかないだろ」

「……どうやって?」

「さぁ?」


 それは今から考えるんだよ。どうやら、校庭では生徒が人質にされて魔法騎士や教官たちは離れた場所で拘束されているらしい。校庭にはぱっと見ても30人以上はいるから突っ込むの危険……かと言って、このまま待っていてもなにが起きるかわかったもんじゃないし。


「なんとか人質にされてる生徒の中から、戦力になりそうな奴に協力してもらって一斉に倒す……とか?」

「できるかい? 僕や君なら問題なく殺せるだろうけど、下手な生徒にやらせると大変な事態になったりするよ?」


 そうなんだよなぁ……理想は、校庭の奴らがそのまま何もせずにじーっと待っててくれて、リエスター第3師団長が来てくれると助かるんだが、奴らだってそこまで馬鹿じゃないだろうし。


「とりあえず、もうしばらく様子を見てリエスターさんが来るのを待つか」

「そうだね。師団長である彼女が戻ってくれれば、それで大助かりな訳だし」

「私が、どうかしたのか?」


 俺とエレミヤが同時に振り向くと、そこには灰色の瞳をがあった。


「い、いつからそこに?」

「さっきだ。状況は……見ればわかるか」


 足元に転がっている死体を見つめてから、リエスターさんは校庭の方へと視線を向けた。


「……リエスターさんが来てくれればなんとかなると思いましたけど、どうしますか?」

「なんとか……20人ぐらいなら多分なんとかなるだろうが、そうするとエリッサ様が救えないな。頼めるか?」

「え、20人ぐらいならなんとかなるんですか?」

「まぁな。今の状況は、私のグリモアと相性がいい」


 グリモアと相性がいいって……確かリエスターさんのグリモアは雷のようなものだったか?


「テオドールさん」

「アイビー、とエリクシラか」

「ど、どうするんですかこの状況……私、古書館の奥に隠れていただけですよ?」


 だろうね。エリクシラがなにか考えてこの状況で動いているとは思ってないよ。


「あー……目くらましとかできない?」

「め、目くらましって……」

「強い閃光とかでもいいよ」

「それなら……できます、けど」


 相手の視界を一瞬でも奪えれば、大分有利に進められると思うんだ。校庭にはニーナやヒラルダだっているんだから、ちょっと隙を作れば彼女たちはすぐに反撃するはずだ。それに、校庭にいるのは1年生だけじゃないからな。


「アイビーはエリッサ姫を頼む。エリクシラは合図したら目くらましの魔法な。リエスターさんはできるだけ多くの相手を無力化してください……俺とエレミヤは残りだ」

「うん、単純だけど効果的だと思う。いいよ」

「では行くぞ」

「『神秘の書ラジエル』」


 エリクシラがグリモアを発現させて、ページを捲っていく。

 やはり、あの『神秘の書』の能力は……エリクシラが記録した魔法陣を発動する魔法。魔法を使う場合、通常は自らの記憶と定型頼りに魔法陣を作り上げて魔力を流すのだが、恐らくエリクシラはグリモアを使うことでその魔法陣を作り上げる時間を無いものとしている。簡単な魔法ならば、短縮魔法で問題ないが……複雑な効果を持つ魔法すらも記録できるのだとしたら話が違う。強力無比な魔法特化型のグリモアと言えるだろう。


「エリクシラ!」

「は、はい!」


 ページを前面に向けた瞬間に魔法が発動し、同時に俺たちが動き始める。


「『慈悲の雷霆レミエル』」


 俺たちと同時に駆けだしたリエスターさんは、グリモアの名前を呟くと同時に雷を全身に纏って消えた。まさかとは思っていたけど……本当に雷の如き速度で駆けるとは思っていなかった。

 一拍遅れて閃光が校庭を明るく照らし、それが晴れるとオムニトルス教団の信者共が目を抑えていた。閃光が晴れる頃には、既にリエスターさんは信者3人に強烈な雷撃を浴びせていた。


「なにがっ!?」

「お、おい──」

「エリッサ様は解放してもらいますね」


 俺とエレミヤは辛うじて目で追えるぐらいの速度で動くリエスターさんの逆方向へと駆け出し、信者の命を奪う。アイビーはずっと解放していた『死のサリエル』を使って、エリッサ姫に剣を向けていた男の身体を八つ裂きにしていた。


「はっ!」

「『海の槍ガブリエル』」

「そういうことか」


 相手が状況を認識する前に、エリッサ姫を解放して既に半分以上の敵を倒していた。ここにきてようやく剣を構えようとした信者たちは、人質にしていたはずの生徒数人から反撃を受けていた。

 ニーナ、ヒラルダ、アッシュが動き、一緒になって人質になっていた生徒会長は俺たちを見てにっこりと笑顔を浮かべていた。


「よし、これで全員かな?」

「……多分な」


 閃光から10秒も経たずに30人以上いた教団の信者共を一掃した。やっぱり師団長は強い……あの一瞬で宣言通り16人の信者を殺している。戦場に赴かない後方部隊と揶揄される第3師団ですら、この強さだ。いや、リエスターさんは他の師団に所属していたエリートだと思うけどね。巷で若き天才騎士と呼ばれているだけはある。


「見事な連携だったよ」

「……そう思うなら手伝っていただけると嬉しかったんですがね、生徒会長」

「僕にはこのクロノス魔法騎士学園の生徒を守る使命があるからね。君たちが敵を倒してくれるというのなら、僕は生徒たちの盾となるのさ」


 へー、それは立派なことで。上から見てたから知っているが、この生徒会長はエリクシラが閃光を放つ前に、リエスターさんが発現したグリモアを感じ取ってこちらに視線向けてたからな。

 アイビーもそうなんだけど、なんでこう……普段からにっこりと笑顔を浮かべている人間って、全ての言動が怪しく見えるんだろうな。これで実はこの生徒会長が事件の黒幕でしたとか言われても俺は驚かないぞ。だってこんなに怪しいんだから。


「ん……軍務伯がここに来るって言ってたな。さっさと片付けておかないと」

「軍務伯って……なんで?」

「なんで? この学園が占拠されたからだが?」


 リエスターさんは何を言っているんだ? なんで軍務伯がわざわざ占拠されてる場所まで来るんだよ……そもそも、軍務伯って王国騎士隊も王国魔法騎士団も統括してるただの偉い人だろ? それって……黒幕1位候補じゃないか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る