第39話 俺は小市民です

「反乱?」

「そうよ。なんでも、王都から結構離れた大貴族が先導してるとか……そのせいで、魔法騎士団の師団が幾つか遠征してるらしいわ」

「へー……こんな平和な国でも反乱とかする奴いるんだ」

「あのね……暢気に言ってるけど、かなりの一大事だってわかってるのかしら?」

「それを平民である俺に言ってる時点でそこまでの問題でもないだろ」


 なんで自分から絡みに来て勝手にキレてんだこの女。


「私は王族に連なる者として、この件に関して色々と関わりたかったのよ」

「でも駄目だったと」

「……そうよ! 未熟な私は安全な学園にいろって言われてるのよ!」


 面倒くさいな。

 そもそも、俺が学園の中庭でぼんやりと青空を眺めていたら、急にやってきたエリッサ姫がぐちぐちと色々言い始めたのが始まりだ。なんで俺に向かってそんなことを言うのか、俺にはさっぱり理解できる気がしないけど……どうやらマジでエリッサ姫は俺のことをライバルだと思っているらしいからな。


「少なくとも、戦争にもなってないのに1年生で魔法騎士ですらない平民の俺には全く関係のない話だな。せめて王都の中で問題が起きてからにしてくれ」

「……竜を倒した貴方に、色々と聞いてほしかったのよ」

「関係ないだろ、竜は」


 はー……めんど。

 それにしても、反乱か……戦争も起きていないし、別に重税がある訳でもないのに反乱とか意味が分からないな。しかも、軍隊を直接動かしたりせずに王都を守護する役割を持つはずの魔法騎士が師団単位で動いている意味がわからん。精々、実力のある少数を送る程度だと思うが……なにか裏がありそうで、なにも考えなさそうだ。

 なんにせよ、遠く離れた領地で起きた反乱とか、貴族ですらない俺には関係のない話であることは確かだ。愚痴を聞くぐらいはやってるやるけど、俺に同意を求めてくるんじゃあない。


「あ、テオドールさん、見つけましたよ」

「んー? アイビーか?」

「……エリッサ様が横にいるということは、反乱についてお聞きになったんですね?」

「やっぱり俺はお前が一番怖いよ」


 なんで今の一瞬で全てを理解したのかな?


「テオドールさんに言っても意味がないのではないだろうかと思ったのですが……派閥の仲間ですし耳に入れた方がいいのかなと思った私の馬鹿みたいな推理、聞いてくれませんか?」

「他に聞いてくれる友達いないの?」

「はい。私、胡散臭いと思われているようですから」


 俺が常日頃から胡散臭いって言ってることへのあてつけだろ、それは。


「それでは私の推理を聞いてくださいね」

「強制的に始まったな」


 これは「はい」か「いいえ」の選択肢が出てくる癖に、どっち選んでも話が進むゲーム的ななにかだな。


「今回の反乱、どうやら王都から離れた場所に位置するポルノード子爵家領地で起こったそうなんです」

「ポルノード子爵家……ちょ、ちょっと待ちなさい。なんで王家である私より、貴女の方が詳しい情報を持っているのよ」

「……」

「こ、怖い笑みを向けないで!?」


 やっぱりこのアイビーとか言う女、マジでヤバイな。どっからそんな情報を拾ってくるんだよ。


「ポルノード子爵家は、以前から周辺貴族とあまり仲が良くない家だったようで、王都でも中々冷遇されていたみたいなんです」

「反乱には少し理由が足りなさそうだが……まぁ、いいか」

「しかし、今はポルノード子爵家はどうでもいいんです。問題は……何故すぐさま魔法騎士団、それも実力が高いと称される第1師団と第5師団が鎮圧に動いたのか、です」


 やっぱりそこになるよな。そもそも、ポルノード子爵家とやらがどんな家かは知らないが、相当な謎技術でも持っていない限りは軍隊で事足りるだろう。わざわざ魔法騎士団を動かすってことは、なにか王家としても隠したいものがあるのか、もしくは……


「師団が王都に常駐していると面倒だと思う連中がいる、か?」

「……その通りです。私の推測では、ポルノード子爵の反乱は囮のようなもので、国の中枢にまで食い込んでいる人間が、首謀者ではないかと」

「ふむ……誇大妄想と切り捨てた方が早い意味不明な推理だけど……本当だとしたやばいな」


 魔法騎士団の第1師団は魔法騎士の中でも特にエリートの連中が集まる場所。単純な実力だけで考えると、第1師団だけで軍隊の全てを上回るほどだ。そして第5師団と言えば、暴力装置みたいな連中が集められた最も野蛮な連中が集まる場所。最低限の礼儀を持ってはいるが、中身は人間というよりも獣に近いような連中だ。当然、実力は第1師団に勝るとも劣らない。


「第2師団と第4師団は?」

「……第2師団は隣国に外交の為に渡った第2王子の護衛に、第4師団は不明です」

「第4師団は、クロスター王国との交流に向かっているはずです」

「国民に知らせない交流、ね」


 内容はどうでもいいが、これで第1師団から第5師団までのうち4つが王都には存在しないことになる。残った第3師団は、クロノス魔法騎士学園内で教官をしている者が多い……言ってしまえば、実戦から離れた師団だ。


「王国騎士隊が丸々残ってはいるが……それでは話にならないなにかがある、とか?」

「第3師団一つなら幾らでも抑えることができる自信があるんでしょうね」


 仮に……もし、仮にアイビーが語った推測が当たっていて、誇大妄想だと笑うことができなかったらどうしようか。

 俺の頭には、ずっとあの休日に偶然出会った黒ずくめの怪しい男と、恐らく宗教に心酔しているであろうイカレた女のことがちらついている。

 はぁ……何回も言わせてもらうけど、面倒くさいな。


「ま、真面目に考えて貰える?」


 俺が天を見上げてため息を吐いたことに、エリッサ姫が反応してきた。


「あのなぁ……俺は社会的な立場なんてなんにも持ってないただの学生なのよ。しかもなんの後ろ盾もない平民で、父親が魔法騎士団にいるってだけで俺自体はなにかしてきたことはないの。そんな小市民な俺に対して国の裏側になにかいるかもしれないですーって言われたって、なんとかできると思うのか?」

「うっ……」

「あほらしい……せめて、俺の前に首謀者が出て来て斬り刻める状態になってから言ってくれよな」


 何処まで行ったって俺はちょっと腕が立つだけの一般人だ。国の陰謀とか、偉い人の政治的争いとか言われても……なんにもできませんよって。

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