第38話 コミュ障って仕事での会話はできるんだよね

「で、なんで攻撃してきたの?」

「……色々と確かめる為よ」

「なにを? そういうのいちいち言わないと続き言ってくれない奴かよ。面倒くさいな」


 澄ました顔してるけど、普通に奇襲みたいな形で槍を向けられたことは怒ってるからな。納得できるだけの理由が示されないと俺はこの女は許さないと決めている。だから、ちゃんと納得できるような説明をして欲しい。


「面倒……くさい……」

「え? なんでそんな傷ついたみたいな……もしかして、そうなのか?」


 嘘だろ? こんな澄ました顔で孤高気取った堅物女みたいな雰囲気醸し出しておいて、まさか本当にそうなのか?


「ひ、人と話すのが……苦手、なの」

「……あ?」


 マジ……か。

 コミュニケーション能力をもうちょっと何とかしろとか思ってたけど、マジでただのコミュ障ってこと? え、なにそのギャップ。澄ました孤高女かと思ったらコミュニケーションが苦手な女の子だったんだが?


「いや、だとしてもいきなり槍を突き付けるのは意味が分からんだろ」

「それは……お父様が、そうすれば相手の人となりがわかるって……」

「それ、信用しない方がいいぞ。明らかに脳筋の発想だから」

「それは流石に僕もやめておいた方がいいと思うな……」


 つーか、苦笑しながら言ってるエレミヤ……絶対にこいつが初対面のコミュニケーションが壊滅的だって知ってながら無視してただろ。

 コミュニケーション能力が壊滅的な人間か……まさか、グリモアを抜き放ったのに殺気もなく大した怪我を俺が受けていないのは、コミュニケーション感覚の攻撃だったからなのか?


「その……序列1位のエレミヤ君にばかり構っているから、私は無視されているんだって思って、少し攻撃的になってしまいました。申し訳、ありません……」

「……もう、言葉が出ない」


 なんてヤバイ女なんだ。コミュニケーション能力が不足しているだけならまだしも、他人に言われたことを簡単に信じ込む素直な性格に、やるなら全力でやらないと気が済まない的な真面目な考えが加わった結果の、先ほどの戦いなのだろうか。俺は……そんなくだらない挨拶のような戦いの為にグリモアをエレミヤに見せたのか。


「ご、ごめんなさい」

「いや……もういい。疲れた」


 どうなってんだよこの学園の連中は。



「野外訓練を終了……する」


 ヤバイ女との色々なあれこれはあったが、無事に野外訓練は終了した。したのだが……俺が狩ったドラゴンの首が集合場所の近くに置いてあったので、誰もがちょっと引いている。教官も引いてるし、狩った俺も正直引いている。もっと目立たない場所においておけよ……邪魔だろあの大きさの首はよ。


「く、訓練の評価は後日に学園の方で知らせる……それまでは、聞いても答えは返ってこないからそのつもりで。では、解散しろ」


 解散の言葉と同時に、かなりの人数が竜種の頭を見たいらしくわらわらと集まっていった。べたべたと触るなよ……売ったら俺の金にするんだから。


「竜種とはね……流石に今回は勝てなさそうだよ、テオドール」

「お、おぉ……そりゃあよかった」

「クソ……やはりテオは強いな。私ももっと精進して、竜を単独で倒せるぐらいにならなければ」

「それは知らないけど、できないのか?」

「無理だ。対抗はできるかもしれないが、今の私に竜を絶命させるだけの決定打がないからな」


 そうなのか……冒険者をやっているニーナが言うならそうなんだろうな。俺だってグリモアがなかったらまともに倒せるとは思えない相手ではあるが……やはり竜は凄いな。

 散々竜を倒したと生徒たちがすごい驚いているけど、あの竜だって特徴的な赤い鱗に巨大な四足歩行の姿をした火炎を吐く竜ってことで……竜種と呼称される存在の中でも最低ランクの竜だからな。


 竜種と一括りに呼ぶが、当然ながらその中にも階級は存在する。俺が倒した竜は一般的に『赤竜せきりゅう』と呼ばれるもので、名前の通り赤い鱗にドラゴンの代名詞のような炎を吐くのが特徴。

 赤竜は竜種の中でも最も人間に近いエリアに生息している種類で、夏には山の麓や見晴らしがいい平原などに巣を作ったり、番を探したりするらしい。見晴らしのいい場所に巣を作るのは、自分の餌を狩りやすくするのと同時に、自身が存在していることをアピールすることで魔獣なんかを近寄らせないようにするためなのだとか。冬になると渡り鳥のように一斉に南の方へと飛んでいき、そのまま温かい南の大陸で冬を越す……らしいが、未だにその赤竜が冬越えをする大陸は見つかっていない。

 とにかく、人間に最も近い場所で暮らす赤竜ですら確認される姿はそう多くない。年に10体見つかるぐらいしかいないらしいから、他の竜種のなんて言わずもがなだ。


「それにしても……君のグリモアは相当なものだね。実に洗練されていて、素晴らしいものだった」

「お、おぉ……どうせならエレミヤのグリモアも見せて欲しかったけどな」

「うーん……期待に沿えなくて申し訳ないが、僕のグリモアは君には使。見せたくないんじゃなくて、使

「使えない……条件付きのグリモア、か?」

「そうだね」


 グリモアは持ち主の魂を表すとされているが、当然ながら色んな形がある。俺のようにただ単純に剣のようなものを生み出すグリモアであったり、ヒラルダのように自由自在に姿を変えるもの、エリクシラのように複雑な効果が付与されているものなんかがある。恐らく……エレミヤの持っているグリモアは、なにかしらの条件が存在してそれを満たさないとまともに効果を発揮しないものなんだろう。それならば、見せたくないんじゃなくて使えない、という言葉にも理解ができる。まぁ……俺はグリモア博士ではないから、条件付きとか言われたってピンとこないんだけど。

 少し考察するのならば、条件付きのグリモアを持つ人間は……自らの精神でブレーキをかけるのが上手いんだろう。グリモアが本人の魂、即ち精神を表すのならば、それを解放するのに条件がある人間は、自らを解放することが中々できない……って感じかな?


「君に見せる機会が……いや、ないことを願っているよ」

「どんな条件なんだよ」


 見せる機会がないほうがいいって……かなりやばいグリモアじゃないのか、それ。

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