第34話 魔法騎士見習いの日常
「建国祭ってなんであんな野蛮なの?」
「野蛮って……魔法騎士としては普通だろ?」
いつの間にか日課となってしまったアッシュとの模擬戦の最中、彼が口にした建国祭の催し物に対して俺はドン引きだ。いや、少年時代には確かに来たことがあったんだが……そんなに熱中して見て回っていた訳じゃないから詳細は知らなかったんだ。
で、その建国祭ってのが……国中の腕自慢を集めて魔法剣術の腕を競い合おうぜってものらしい。クーリア王国の魔法騎士は勿論、他国からやってきた剣士とかも普通に参加するから規模はかなりデカいみたいだけど……建国祭がそれでいいのか。
「国民にとっては、それが一番の娯楽なんだ。魔法騎士は美しく戦うべきであると言われる理由の一つだな」
「とか言いながら、実際の戦闘になったらみんな何でもありの戦いするだろ」
「それは、当然だろう。彼らは護国の騎士であって、正々堂々と戦うための気持ちのいい組織じゃないからな」
まぁ、美しく戦うべきってのはあくまでも心構えってことだもんな。実際に魔法騎士が美しく戦ってる姿なんて見れないだろうし……そもそもそんなことをする意味が無いからな。
「そもそも、建国祭と交流戦、それから個人戦が滅茶苦茶近い日程で組まれてるのがおかしくないか?」
「……驚いたな。テオドール、君は学校行事の日程を把握していない人間だとエリクシラとアイビーに言われたんだが」
「は? 俺だって1回言われれば覚えるが?」
「言われないと覚えないんだな……自分で確認するぐらいしろ」
わざわざ年間行事予定表をちゃんと見てる人間の方が俺は怖いよ。俺は前世の学生だった時からまともに年間予定表なんて目を通してなかったぞ。
「ところでさ……個人戦は学年ごとに総当たりにやる訳だろ?」
「……まぁ、実際は希望者だけだがな」
「交流戦って、なに?」
言ったら絶対に呆れられると思って今まで聞いてなかったんだけど……これ、今のうちに聞いておいた方がいいかなって思ったんだよね。時期が迫ってから聞いたら、絶対に呆れを通り越して冷めた目で見られると思うからさ。
なんて考えてたけど、既にアッシュには呆れを通り越した冷たい目で見られていた。
「君がどういう人間か、ある程度理解しているつもりだったが……本当に、物事に興味が無い人間だな」
「失礼な。俺は自分の興味あることにしか興味が無いだけで、別に何事にも興味が無い無味無臭な人間じゃないぞ。ちょっと学校行事とかに興味が無いだけで」
「それが問題なんじゃないか! 仮にもクロノス魔法騎士学園に所属し、最近は魔法騎士に興味が出てきたと言っている人間の言葉ではないことは自覚しろ!」
くそ……正論には反論できない。
以前までだったら、俺は魔法騎士に興味ないからって言葉だけで逃げられたかもしれないけど、今はそうも言ってられないからな。興味が出て来たならちゃんと確認しろってのは実に正しい話だ。
「まぁ、ある意味では君のような人間が最も魔法騎士に向いているのかも、しれない」
「え? そうなの?」
「あぁ……命令には忠実に従い、平然と他人を切り捨てるような冷酷さを持ち合わせているだろう? 情に流され国の命令に背く人間は、魔法騎士には向いていない。そして……なにより実力を第一に考える魔法騎士にとって、君のような実力だけの人間は逆に好ましいと言える」
「でも、愛国心ないよ?」
「それだけが問題だな。後、クロノス魔法騎士学園の外では貴族に対して失礼な態度を取ったら普通に罰則ものだからな」
そこは……確かに面倒だな。国王にタメ口で処刑とかされたら困るし。
「逆に、俺のように貴族としてとか色々とややこしいことを考える人間には向いていないのかもしれない」
「じゃあ普通に軍に入ればいいじゃん」
「……軍隊に貴族は入れない」
あ、そうなんだ。
ちなみに、魔法騎士団と軍隊は別物である。
「俺は少し、君が羨ましい。それだけの力があれば……きっと爵位が取り消されるかもなんて焦りはないだろうし、簡単に魔法騎士の称号を手に入れることもできただろう」
「人を羨んだって仕方ないだろ? 俺には俺のできることが、アッシュにはアッシュのできることがあるんだから……柔剣術とか」
「それは君が上の立場だからそう言えることであって……まぁ、いい」
難儀な奴だなぁ……そんな難しいこと考えてるから、俺に速度で勝てないんじゃないのか、なんて直接言っても仕方ないしな。
やっぱり俺は、貴族の家に生まれなくてよかった。
「さ、無駄話は終わりだ」
「まだやるのか?」
「勿論だとも。少しでも君のような実力者の剣を体験すればするほど、俺の柔剣術は洗礼されていく。再びニーナ・ヴァイオレットと剣をぶつける時、俺が勝つ」
あー……ニーナに負けたの結構気にしてたんだな。カウンター特化の剣術を使うだけあって、アッシュは基本的に初動が遅い傾向にある。魔法を使用してのスタンダードな片手魔法剣術も普通に扱えるが、洗練された動きと比べてしまうと明らかにワンテンポ遅いのだ。
逆に、ニーナは型を捨て去っていることで本能的な剣の振るい方をする。その場で最適な動きを選択する剣術とは違い、本能的に有効な攻撃を加えようとする動きは型に嵌まらない自由な動き……なんて、言い捉え方もできるが本質は獣のそれと変わらない。
この点から理解できることとして、アッシュ・ガーンディは人間との戦いにおいて絶大な力を発揮することができるが……魔獣との戦いが極端に苦手なのだ。
「その為に俺を利用すると」
「勿論だ。ガーンディ男爵家の人間は、どんな手段を使おうとも上に行く」
「いや、まだ2代目だろうが」
「いい言葉だと思わないか? ちょっと家訓にしようかと思っている」
気がはえーよ。せめて自分がなにかしらの功績を打ち立ててからにしてくれ。
「何回も言ってるけどさ……俺と戦っても魔獣の対策にはならないからな」
「わかっているとも。ただ、君の動きの速さだけを学ばせてもらえばいい」
「速さ、ね」
柔剣においてもっとも大切なものと言ってもいいかもしれないな。相手の動きを察知してからその剣を受け流すには、どうしたって相手よりも始動が遅れなければならない。それを補うには、相手の攻撃よりも素早く動かなければならない。カウンター特化というだけあって、柔剣術は一歩間違えれば致命的な傷を負う。
「じゃあ、今度はちょっと速めでいくぞ」
「頼む」
派閥の人間が強くなるのは、俺にとってもいいことばかりだから出し惜しみはしない。流石に、グリモアを見せるつもりにはならないけどな。
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